第七十九話 崩御
さて青野原の戦いが終わったところで事件が起きた。
ついにあの後醍醐天皇が崩御したのだった。
晩年は吉野で暮らしていたためひっそりと人知れず天寿を全うしたようだった。
そして次に即位するのは大塔宮だ。本来歴史上では義良親王が後村上天皇として即位するのだが歴史が変わった今一番ふさわしいのは功績から言っても大塔宮だろう。
ということで大塔宮が第九十七代後光仁天皇として即位した。
即位の式は太政官庁にて厳かに執り行われた。
しかし苦楽をともにした仲間が偉くなるというのは存外嬉しいものだった。
これからは今上帝が政治を執り行うことになる。
補佐は北畠顕家あたりがするのだろう。
だが父とともに後醍醐天皇に仕えた彼は当然反発もうけるだろうと予想される。
すると楠木正成あたりが妥当だろうか。
「大塔宮……いえ帝」
「どうした新田義興」
やんごとない方と会話をするということでいささか緊張してきたぞ。前は気軽に会話もしていたけど今は今上帝だ。失礼のないようにしたい。
「これからは帝が政治を執り行うことになりますがいかがお考えでしょうか」
「お前にしては珍しく堅苦しい話し方だな」
帝は小さく笑った。どうやら緊張しすぎたようだ。
「まずは京の復興と整備。それから足利の残党の征伐だろうな」
「京も大分元通りにはなってきている。だがより安定した政権にすることで民も安心するだろう」
なにせ先代があの後醍醐天皇だったからな、と帝は呟いた。
「これからは民のためにこの権力を使わせてもらう」
「父は強欲で人から疎んじられたきらいがある。それをもとに戻したいのだ」
確かに後醍醐天皇の治世では物価が高騰し世の中が混乱していたからな。
「幸い九州の懐良親王がいるし奥州は北畠親房がいる。それに越前越後と鎌倉は新田が支配している」
これから協力してくれるなと尋ねられ断るものはいないだろう。
「承知いたしました」
「ありがとうな新田義興」
感謝されるのはこれで二回目だ。
「しかしあの帝から感謝の言葉をいただけるとは」
一度は彼に救われたこの命だ。彼のために使えるのならば本望だ。
「私だって感謝くらいするさ」
再び笑ったと思えば真剣な面持ちで依頼をされる。
「新田義興、お前に頼みたいことが二つある」
「ひとつは高師直の討伐だ」
彼は足利方のなかでも有力な武将の一人だった。彼もまた横暴な振る舞いが有名でいい噂は聞かない。足利高氏の元側近でありその性格からか足利直義とは深く対立していた。
「高師直ですか」
そしてもうひとつは。
「足利直義の首級を私に献上してくれ」
なかなか血なまぐさい話になってきたぞ。
果たして彼の言うとおりにできるのだろうか。
俺は自分を奮い立たせて作戦を練ることにした。




