第四十五話
「それで北条時行の情報は得られたか」
本陣に戻ると足利直義が俺を出迎えた。そのとなりには成良親王と新田義貞の姿がある。
「北条の残党はみな時行について話していましたが今日探したところにはおりませんでした」
「そうか」
いささか残念そうな口調で直義が続ける。
「北条時行は諏訪氏と一緒に信濃で挙兵して鎌倉までやって来たというが」
彼は鎌倉滅亡時に叔父である北条泰家とともに諏訪盛高に命を助けられそのまま信濃に潜伏していたらしい。叔父の北条泰家は西園寺公宗と共謀して建武政権を打倒する計画を練っていたのが露見し泰家は逃亡、公宗は途中で殺害されたという。
詳しい説明をすると足利直義はおもむろに金子を取り出した。
「時間外労働の報酬だ」
意外と合理的な人だということがわかったところで成良親王と新田義貞に話してみた。
「お二人は何をされていたのですか」
「この鎌倉を掌握するのに必要な仕組みを作らねばならないとかねてより話しておってな」
「その計画を練っていたところだ」
北条の残党は多い。だがいまだに民間人が残っている現実もある。
「鎌倉を治めることができれば新政府も安定するだろう」
「そのためにも北条時行の首が必要だ」
血なまぐさい話になりそうだが必要なことでもあった。
「じゃあ俺はもう一度鎌倉を探索してきます」
そういいながら向かったのは東勝寺。北条一族が自害した場所だ。もちろんあの北条高時も俺の目の前で腹を切った。
かつての懐かしい思い出と苦い経験が入り交じり一人感傷に耽っていた。
じっと見つめていると供養のためのやぐらが作られていた。ちなみにやぐらは横穴式の墳墓できれいな内装が施されていた。
誰かがお参りに来ているらしい。小さな花が飾られていた。
「ここになにかご用があるのか」
若い男の声がする。振り返ると甲冑を見につけた青年が静かに微笑んだ。
「ここは北条一族の墓場だ。お主も北条の生き残りの一人か」
どうやら俺を北条の残党と勘違いしているらしい。青年は悲しい笑みを浮かべたまま話を続ける。
「悲惨なことがたくさんあった場所だ。たまには彼らの顔を拝みに来るといい」
「まあみんな亡くなってしまったがな」
「お主名はなんという」
「九郎丸と言います」
かつて自分が使っていた名前を口にする。
「北条高時さまに仕えておりました」
「きっとあの方も喜んでいるはずだ。多くの人に愛される方だった」
青年はふとなにかを考えたようだった。数秒視線を俺の脇差しに向けて口を開いた。
「そなた脇差しを差しているな。腕に覚えがあるならば我らが北条時行軍の元に来ないか」
「……」
どうやら北条時行軍の人間だったらしい。
「申し訳ありませんがご同行はできません」
「もう戦いはこりごりということか」
青年は小さく息をついた。
「まあよい。深くは詮索しない」
「命が惜しいという気持ちもわからなくはないからな」
彼の過去に何があったか知らないが寂しそうな笑みを浮かべていた。
「一族の代表として感謝させてもらおう。かたじけない」
「お名前だけでもうかがってよろしいでしょうか」
「私の名は北条時行だ」




