第三十一話 分倍河原
敵が迫ってくるのを騎馬で応戦するのが精一杯だった。
俺と新田義興は互いを狙う幕府軍を振り払い先へと進む。
「新田軍が優勢だとっ!」
「まさかそんなはずはっ」
俺たちの勢いに恐れをなしたのか敵側は徐々に退いていく。実際は五分五分の戦いで気を抜く隙など一分たりともない。
「だが幕府の誇りにかけて負けるわけにはいかないっ」
「そうだ逆賊の新田軍ごときにっ」
誰かが鼓舞したのか、相手の士気は上がっていく。
「まずはあの九郎丸を狙うのだ」
「なにせあれでも新田義貞の養子にまで成り上がった男だからな」
なぜ俺が狙われているんだ。そうつっこみたかったが新田義興もさも当然といった表情をしている。
「早速選ばれてしまったわけだ」
「もっといい言い方が欲しかったです」
その台詞を遮るように敵方は弓矢を放ってくる。若干卑怯じゃないか。
「弓矢に対しては戦いようがないですよっ」
「それをなんとかするのがお前の仕事だ」
新田義興がにっと笑い大太刀を振り回す。
ということで思考タイムだ。
なにせ幕府軍相手に悠長に構えている暇はないので頭を高速回転させる。
弓矢を使用するのは騎馬に乗っていない兵士。つまり身分が低いやつらだ。
対する騎馬は身分の高い武士たち。強い連中はわずかながら倒している。
戦況としては厳しいながらも希望の光が見えてくる。
ここは戦略として。
「アホみたいだけど前進あるのみ」
弓矢が避けられなければ新田軍はゆっくりとだが敗けの道が見えてしまう。
結局新田義貞と同じ戦術を使用することに。
「背後は任せましたよ」
「当たり前だ」
新田義興に合図をして騎馬で進んでいく。
時おり勝負を挑んでくる武士に対しても太刀で応戦しては勝ち進む。
味方も徐々にだが俺たちに追い付いてくる。
勝利まであとすこしだ。
俺は総大将の首を狙って差し迫る。
「もう終わりだ」
だが相手の方が一枚上手で。
「九郎丸とやら、今回は我々の敗けだ」
「前回停戦を申し込んだのはお主だから今度はこちらから停戦を申し込もう」
こうして新田軍は久米川に進軍、幕府軍は分倍河原に後退したのだった。