第二十九話 合戦再開
夜明けになり合戦は再び火蓋を切られた。
俺はというと新田義興とともに前方で相手方の出方をうかがっていた。
前回全力で襲いかかったこともあり、相手も陣を変えてきた。
敵の将軍はこちらと同様後方に待機していて様子見をしている。
おそらく場合によっては戦略を変えるつもりだろう。
「我こそは新田義興。新田義貞の息子である」
その一言で戦が始まった。新田義興と俺、どちらも司令官を兼任している。
対する新田義貞は我慢ができないようでときどきそわそわしているのが目にはいる。
おそらく彼は自分が先陣を切りたかったのだろう。
だが疲弊した兵士たちの様子を見るとやはり後方に待機してもらって
現状を冷静に判断できる人間が必要だ。だから一番大事な総大将に任せることになった。
敵方は昨日よりも作戦を練ってきたようだ。魚鱗に対して防御力の高い陣形に変化していた。鶴翼も強かったけれど、今度はもっと強敵だ。
「九郎丸、大丈夫か」
「いえ、少し緊張しているだけです」
案の定新田義興が気遣ってくれるし。頭のつくりがよくて気配りもできる男ってすごいね。俺は早速武者震いを始めた。
「どうした臆したか」
「この人数ではさすがに」
正直に答えると彼は小さく笑った。
「私もそうだ。そなたも同じと思うとどこか安心するな」
「本来戦乱の世でなければ私はもっと違う人生を歩んでいたのかもな」
「といいますと」
「私は勉学はからきしなのだが、詩を読むのが好きでな。ときおりふと思い出したように口ずさむのだ」
新田義興ははにかみ照れ笑いをしながら話を続けた。
「もちろんそれは人様に見せられるほどの知識があるわけではない。だがそれらに触れると俗世から離れられるような気がするのだ」
「もしかすると仏門に入るというのも手であったがそれは父のお陰で家に残ることができた。だからこそこの命、父に捧げるつもりだ」
新田義興は己の父に目線をやり会釈をする。
これは子から父への愛情だ。そして父もどうように合図を送る。
今まで新田義貞にはお世話になっていたが正直うさんくさいやつだと思っていた。
だけど今日息子に対する態度をみると情に厚い男なのだろう。
親と子、俺が立ち入れないものがあるのだ。それが家族、というものなのかもしれない。
新田義興は俺の肩を叩く。
「戦だ」
これから戦場に向けて走り出すのだ。
俺と新田義興の二人で。




