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42.覇王曰く

「幼い頃のシャルルはそれはそれは可愛かったんだぞ!いつも正義正義と喚きながら吾輩を追いかけてきてな。その割にすーぐ泣くんだよな。鬼ごっこをした時なんて凄かったんだ!子供達を率いて計画的に逃げ回る吾輩達に憤慨してな……。」

「昔話はどうでもいいからさ。もっと重要なことを教えてよ。幼少期のシャルちゃんに何があったのさ!」


 恍惚とした顔で無関係な思い出話を始めようとしたクルトの肩を掴み、ユンが話を急ぐ。よく考えればクルトには肝心なことを話していない。だから話が進まないのでは、そう考えガジュは順を追った説明を行っていく。


「俺達がシャルルと共に冒険者をやってるってのは盗み聞きしてたんだよな。ざっと状況を教えておくと、俺達はとある事情でバーゼの情報を掴むためにイリシテアを訪れ、シャルルによって一度【投獄】されたんだ。そして多分、今再びシャルルはバーゼに操られている。」

「え!?シャルル、ここに帰ってきてるのか!?十三歳のシャルル……可愛いんだろうなぁ!会いたい!会わせてくれ!」

「お前話聞いてたか?バーゼに操られてどっか行ったんだよ。だから情報を集めてるんだ。」


 どうやらクルトのシャルルへの感情は単なる幼馴染に向けたものではなく、もっと溺愛に近い感情なのだろう。バーゼに操られているという事実には目もくれず、まるで恋する乙女のようにただ目を輝かせていく。


「まぁそういうことなら、今回の件も含めてシャルルはバーゼに操られたままなんだろうな。五歳の時バーゼに操られて両親を殺害、一度アルカトラに送られたから奴のスキルの効果範囲から外れていたが、イリシテアに近づいたことで再発したのだろう。」

「結局バーゼのはどういうスキルを使ってシャルルを操ってるんだ?特に触られてもないのに体を操作されるって相当強力な能力だろ。」


 相手を操るスキルといえばまず一番にキュキュの【狂化】が思い浮かぶが、あれはかなり限定的な力だ。操れる対象は元々キュキュが【強化】で対象にしていた相手。加えて操れるのは体だけで意識はそのまま、さらに操った体もただ暴れるだけでキュキュの自由に動かせるわけではない。


「言っても吾輩も詳しいことはわからないからな。父母殺害の件を知ってるのも、ただシャルルと遊ぼうと思って邸宅に忍び込んでいて盗み見しただけだ。けどまぁ多分、相手を自由に操作できる代わりに距離制限があるんじゃないか?」


 スキルというものは血縁関係に割と左右される。その常識を考慮すれば妹であるシャルルの【投獄】に街一つまでという距離制限があるから兄のバーゼにも同じぐらいの距離制限があると考えるのは割と当然の流れだ。本来ならそれが弱点になるのだろうが、今回に関しては悲報でしかない。ここイリシテアにいる限り、シャルルの洗脳は解けないということになってしまう。


「どうすっかなぁ……。シャルルに会ってもバーゼの洗脳を解かなければまた連れ去られて終わり。かといってバーゼに会うのは冒険者協会の人間ですら困難か……。クルト、本当にバーゼってのは人前に姿を現さないのか?」

「うむ。それこそシャルルと遊んでいた頃は何度か屋敷で見かけた気もするが、奴が権力を手にしてからはめっきりだな。大反乱でも起きない限り出てこないんじゃないか?奴は秩序が乱れるのを嫌う大馬鹿者だからな。」

「よし!起こそうか大反乱!僕らどうせ悪行しかしてないし、今更反乱の首謀者って汚名が加わっても一緒でしょ!」

「大反乱!?い、嫌だからな!?吾輩はシャルルに会いたいだけだ!そんな悪者みたいなことはしない!」


 こうやってチマチマ作戦を考えるのが面倒くさくなったのだろう。ユンが一際過激な提案をし、クルトの顔が引き攣る。アルカトラからの脱獄に、アンラでの建造物破壊。イリシテアでも一応脱獄しているし、存在自体が犯罪のキュキュを密かに連れ回している。確かにこの真っ黒な経歴に革命家の肩書きが加わっても最早どうでもよく思えてくるが、流石にその作戦は過激すぎるだろう。例えそれでバーゼを引き摺り出しシャルルを奪還しても、正気を取り戻したシャルルから「正義に反する!」と言われてボコされるのがオチだ。


 そこまで考えた時、ガジュの頭に名案が浮かぶ。


「なら……俺達以外が街をかき乱せば良いんじゃないか?」

「えぇ?イリシテアの住民に暴動を起こさせるということか?それも嫌だからな!吾輩には(しもべ)達を守る義務がある!」

「いや。人に反乱を起こさせても結局俺達が首謀者として罰されるし、そもそも相手にはシャルルがいるからな。ひいくら人を集めてもあいつの【投獄】で鎮圧されて終わりだ。」

「じゃあどうするのさ。」

「魔物を使うんだ。」


 ガジュの突飛な発言を聞き、三人の表情が固まる。ハクアへの復讐もそうだが、目標達成までの間に高い壁が立ちはだかった時、ガジュは普通の人間のように登ろうとはしない。狂気的な一点突破。それこそがガジュの単細胞脳みそで行き着ける限界だ。


「イリシテア周辺に生息する魔物に片っ端から喧嘩を売り、この街を魔物に襲撃させる。名付けて、『秩序と混沌の鬼ごっこ作戦』だ!」


 ユンに負けず劣らずの酷いネーミングセンスで作戦が告げられ、三人は明らかに不安そうな顔でガジュを見つめていた。

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