20.ゴミ箱の再来
「【投獄】は事前に印を書いた位置に自分も含め触れた対象をテレポートさせるスキルです。範囲は街ひとつ分ぐらいでしょうか。シャルはアルカトラのゴミ箱にある数百の檻全てに印を書いていたのであの場所では最強でした。」
「ゴミ箱……けど今さっきテレポートしたあの檻は全く関係ない場所だよな。なんであそこにも印がテレポート出来たんだ?」
「あそこはシャルが最初に入れられた檻です。首輪をつけられてスキルを封じられていても印は書けるので、緊急避難用に書いておきました。」
ガジュは覚悟を決めて階段を下りながらシャルルからスキルの説明を受けていた。やはり彼女の【投獄】はとんでもなく強力なスキルだ。事前に印を書く、という制約こそあれど回数も印の個数も無制限。距離の制約も町から町への移動が出来ないという程度で戦闘において問題になる程ではないだろう。
話をしたのはシャルル側だけではない。ガジュの方も自身の【闇の王】の事、キュキュとユン含めた四人で勝手に『クリミナル』を結成している事、自分は仲間に裏切られその元凶たるハクア達に復讐を誓っている事など。シャルルが全く知らないことも多少知っていることも全てを包み隠さずペラペラと。仲間に隠し事は必要ない。
「先ほどのパーティの話ですが……シャルにはやるべき事が沢山あります。今逃げ出している囚人達を含め、アルカトラの犯罪者を野に放つ訳には行きません。」
「じゃあそいつらを檻に入れたら仲間になってくれるのか?」
「分かりません。アルカトラは貴方のせいでボロボロです。さっき居た階層含め多少は残っているようですが全ての囚人を檻に入れる事は出来ないと思います。」
「その件はカナンに聞けば何とかなるはずだ。百層はあいつの力で補修されていた。多分ここの囚人の中に建築系のスキルを使える奴がいるんだろう。」
【投獄】は印を書いた場所にしか移動できないスキルのはずだが、カナンはそんなこと気にせず自由にテレポートしていた。この件から考えてもカナンの【支配者の唄】は単に首輪がついている囚人のスキルを使う力ではなく、囚人のスキルを複数組み合わせて使えるスキルなのだろう。【投獄】でいえば遠くに文字を書くスキルなどと併用しているのだとすれば、あの動きにも納得がいく。
「正解だよガジュ君。僕の手にかかれば君がいくらアルカトラを破壊しようと一瞬で元通りさ。」
「出やがったな……。」
「君は嫌いな人間の前だと途端に口が悪くなるね。そんな嫌そうな顔しなくたって良いじゃないか。」
流石に痺れを切らしているのだろう。カナンは例の細剣を振り回しながらガジュ達の前へと立ちはだかる。思ったより早く出会ってしまったが、この場所で出会えたのはむしろ幸運だろう。この馬鹿みたいに広い空間にはガジュも見覚えがある。
アルカトラのゴミ箱。
壊れた部分は木板で塞がれ、破った檻も全て元通り。ガジュにとってもシャルルにとっても思い出深いその場所で、二人は因縁の相手と向き合っていた。
「どうやらシャル君も元に戻ったみたいだね。せっかく怯えて可愛かったのに……残念だよ。」
「シャル、俺にしがみついとけよ。あ、こいつ死ぬなって思ったら即座にスキルで逃がしてくれ。」
「わ、わかりました……。」
シャルルの【投獄】は相手に触らなければ始まらない。加えて彼女はスキルを除けばただの十三歳。変に自由にするよりも密着した方が有利と判断し、シャルルはガジュの背中にしがみつく。
「まずは電気を壊すぞ、出来る限り上の檻へ頼む。」
「そうはさせない。」
ガジュはシャルルに指示を出し照明近くの檻へとテレポート。その後を追うようにカナンが空中を飛翔する。この男にとっては階段も高度も地形も何も関係ない。囚人がいる限り無敵。それがカナンだ。
だが移動と転移では絶対に転移の方が高速。カナンが追いつくまでの数秒の間にガジュは電気を破壊し、広い空間は闇に包まれていく。前回はシャルルに転移場所を操作されていたから電気を壊すのも一苦労だったが、今回のシャルルは味方。電気を壊すぐらいは問題ない。大事なのは……ここからカナンを倒す方法だ。
「電気を消してどうするんだい?いくらフルパワーで殴ろうと、僕には通用しないよ。」
「シャルル、カナンは滅茶苦茶強い奴だ。だからこそ……賭けをすることを許してくれ!」
足場に立ちガジュを嘲笑うカナン。その言葉を聞いてガジュの顔に笑みが浮かぶ。今からする賭けは……成功する賭けだ。
ガジュは照明を叩き割った勢いで天井を蹴り飛ばし、今出せる全力を拳に込める。ユンに『魔拳』の解説を受けたことで多少のコントロールは出来るようになった、後は振り抜くだけ。ガジュは足場に拳を叩き込み、ゴミ箱、いやアルカトラに大きな縦穴が空いていく。カナンには回避されてしまったが問題ない。奴の足元に大穴が空いた事が重要だ。
「また力任せのパンチかい?つい先ほど空を飛んでいた人間の足元に大穴を開けようという発想が間違っているよ。やっぱり君は大馬鹿だ。」
「馬鹿はお前だよ。いいか、お前には囚人しかいないかも知れないが、俺には仲間がいるんだよ。お節介で有能な仲間がなぁ!」
シャルルに安全な位置の檻へテレポートしてもらい、ガジュは縦穴を落ちていくカナンを眺める。ずっと違和感を感じていた。百層から這い上がった時もわざわざゆっくりと移動していたし、百層は鉄板で補修していたのにこの階層は木板。電気を消された時にまた【ミラー】と【照明】で部屋を明るくするのではなく、まるで受け入れたかのように立ち尽くす。最初は手を抜いているのかと思っていたが、あまりにも例が多すぎる。
カナンは現在進行形で弱体化している。
そして恐らくその立役者は、ガジュの無駄なプライドを発揮して上に置いてきた彼女達だ。
「お、いたいた!ガジュ〜!どうしよ、囚人達の首輪外して遊んでたら暴れ始めちゃった!助けて〜!」
「すみませんすみません!私が止めなかったからです、ほとんどの囚人の首輪が外れてます。すみませんすみません!」
カナンは別に最強でも何でもない。一か八かの賭けを託せる程信頼できる仲間を持ったガジュの方が、よっぽど最強だ。




