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14.ジキルとハイド

「早く逃げろユン!俺はお前を殺したくない!」

「そんなこと言われても困るって!こっちだって全力なんだからさぁ!」

「狂奔!修羅!殺戮!我が忌まわしき血族達よ!二度とその過ちを繰り返さぬよう、我が下らぬ運命に終止符を打ってやる!」


 並み居る魔物達を蹴散らしながら先頭を駆け抜けるキュキュ、その後ろで必死に足を動かすユン、そして最後尾で自由を失った体に絶望するガジュ。この場にいる誰も彼もが、今起きている何もかもを理解していない。そんな確信を抱けるほどに混沌とした状況はかれこれ十分ほど続いていた。


「ねぇキュキュちゃん!そろそろ何が起こってるのか教えてくれないかなぁ!?僕の体力がそろそろ限界なんだよね!」

「背反!二首!解放!我が背負いし深い業は決して清算されることはなく、肯定される事などあってはならない!忌むべき存在たる我にとって癒しは毒!毒を放つものは抹殺!」

「意味わかんないよ!あのちょっと、いや相当うざいぐらいネガティブなキュキュちゃんはどこいったのさ!?いつもはぶん殴りたくて仕方ないけど、今はもう恐怖しか感じないよ!」

「落ち着けユン!本音が漏れてるし、キュキュがネガティブなのは今も同じだ!」


 キュキュがマザゴリに撫でられていた時、ガジュは確かに彼女が「【キョウカ】」と言ったのを耳にした。通例であればその瞬間にガジュの体が軽くなり力が溢れてくるはずだが、今回のそれは明らかに違う物だった。唱えられた瞬間にガジュの体は独りでに動き出し、ユンを含め付近にいる生物という生物に片っ端から殴りかかり始めたのである。


 体に反して冷静さを保ったままのガジュの頭で考えられる一番の可能性として、【強化】の漢字が違うのであろう。


【強化】ではなく【()()】。


 そう考えるのが当然の摂理に思えるほど、目の前のキュキュは狂気的様相だ。


「他人を強化できるスキルと、相手の体を好きに動かせるスキル……。流石にスキルを勘違いしているって範囲には入らないよな!」

「間違いなくね!けどスキルを二つ持ってるってこともありえないはずだから……。どちらかがスキルではなく魔法。あるいはスキルの本質がずれているとか?『誰かのスキルを使える』とか『思った力を好きに使える』とかそういうチートじみたスキルの持ち主ならあり得るかも!」

「じゃあ何故キュキュはそれを隠してたんだよ!いくら自己肯定感が低くてコミュ力が低いって言ってもあいつはある程度俺らを信用してただろ!」

「う〜ん、キュキュちゃんは自分のスキルを【強化】だと思い込んでる。……とか?目の前で暴れてるこの子を別人格と捉えればありえないこともないのかも!」


 別人格。その説明を聞いてガジュは妙な納得を覚えた。キュキュがずっと演技をしていたとも思えない、かといって今暴れているキュキュがあのキュキュと同一人物かと言われると違和感がある。キュキュという獣人は出会った時の陰鬱モードが素であり、ガジュ達から仲間として肯定された事、マザゴリから癒しを貰った事を理由にこの狂乱モードへと変化した。そう考えるのが一番合理的だろう。


「あのネガティブさだからね。自己を急激に肯定された事で感情が爆発、ってこともないわけじゃないかも。」

「その場合俺はいつ自由になれるんだ!キュキュがアルカトラの魔物を殺し尽くすまでか!?その頃にはユンも確実に死んでるぞ!」

「そうなんだよねぇ!そこが一番の問題!自己を肯定された事でこうなったなら……逆をつけばいけるかも!」


 暴れ回るガジュから必死で逃げながら、ユンは大きく息を吸い込む。何をするつもりか知らないが、ガジュに出来ることは暴れる体を必死に自制すること。体の自由は聞かずとも一応自分の体だ。殴ろうとしているポイントをほんの僅かにずらすぐらいは可能である。ガジュは必死に拳の標的をユンから動かし壁を殴り続けながら、ユンの頭脳を信頼した。


「キュキュちゃんってほんと気持ち悪いよね!犬と人の間に生まれた子供とか想像するだけで吐き気を催すよ!あのちっちゃいのを入れたの!?それともあのちっちゃい穴に無理やりぶち込んだの!?どっちにしても最低最悪だよね君のご先祖様は!同じ空気を吸いたくもない!獣人なんてクソ喰らえだ!」

「否定!重罪!同意!我が祖先の過ちは許されない!淫猥で傲慢なその行ないは、淘汰されるべきであり、許されては!」


 自己を肯定されて気が狂ったのであれば、徹底的に否定してやれ。そういった判断での言動なのだろうが、キュキュの言葉から放たれる罵詈雑言は実にスムーズで澱みがない。まぁそれに関してはユンの性悪な部分が出ているだけだろう。大事なのは彼女の発言によってキュキュが明らかに動揺している事。そしてそれと同時にガジュの体が自由を取り戻した事である。


「だぁぁぁ!!!よくやったぞユン!今すぐそのネガティブ獣人を確保しろ!」

「合点承知!!!時刻不明!日時不明!何もわからないけど犯人確保ぉ!!!」


 自由を奪われた恐怖と死の恐怖から解放された二人組が大きく声をあげ、狂乱の獣人はようやく動きを止めた。

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