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13.【キョウカ】

「【強化】!」

「ナイスタイミングだキュキュ!おらぁ!!!」


 決意表明を行い、新生パーティ『クリミナル』が仮結成された後。三人はダンジョンに生息する魔物達を蹴散らしながら進行していた。あまりしっかりと数えていないが、今二十層を数えた程度だろうか。深い密林の中のようなこの階層の明るさはそこそこ。【闇の王(ナイトメア)】の力を四割ほどしか発揮していないガジュが気持ちよく戦闘を行えているのは、他でもないキュキュのお陰である。


【強化】


 一応伝えておきます、そんな控えめな前置きとと共にキュキュから明かされた彼女のスキルは、ガジュの不安定な戦闘力を補完するのに最適な能力だった。指定した相手の能力値を全体的に強化する。一度相手の体に触れて対象を指定しておけば遠隔で何度も使用できるという、実にシンプルで便利なそのスキルは、強化の倍率を上げれば上げるほど効果時間が短くなるという制限こそあれど、こういった狭い場所で集団戦を行う場合において無類の強さを発揮していた。


「運動能力が高くスキルも優秀な上、裏表がなく永遠にネガティブだから逆に信用できる。あの時キュキュを脱獄を解放して正解だったな。どこかの口だけ達者なナンセンス魔法少女とは大違いだ。」

「それもしかして僕の事言ってる?僕の魔法のどこがナンセンスなのさ!キラキラ光って相手の視界を奪うからキラキラ!速度を上げるからスタスタ!分かりやすくて完璧じゃん!」

「ツッコミどころは絶対そこじゃないだろ……。別に魔法の名前はどうだっていいんだよ。頼むからもう少し役に立ってくれ。」


 現状の『クリミナル』の戦闘はほぼ全てをガジュが担当している。時折キュキュが蹴りでカバーに入りながら【強化】でガジュを強化してくれはいるが、結局の所火力の全てをガジュが担っている事に変わりはない。ことユンに関しては先ほどから絶妙に役に立っているのか分からない魔法を連発するのみで、ガジュからすれば全く役に立っていないと言っても過言ではないだろう。


 自分が「お前は役に立たない」と言われて追放された身であるからあまり強くは言わないが、ガジュの見立てではユンは戦えないのではなく戦っていないだけ。不可能と怠惰は大きく違う、そもそもこの少女からはやる気というものを感じないのである。


「そんなことを言ってる間にまた新顔だよガジュ!」

「あぁ?何だあれ、ゴリラ?見た事ない魔物だな。」

「マザーゴリラだね。通称マザゴリ。基本的に何もしてこないけど、近寄ると滅茶苦茶に甘やかされるから気を付けてね。」

「甘やかされる?何だそれ。」

「アルカトラは他のダンジョンと違って侵入してくる人間が少ないからね。攻撃性の低い魔物もいるって事だよ。試しにほらキュキュちゃんとかどう?そろそろガジュに使い潰されて疲れてきたでしょ。」

「わ、私ですか……?すみませんすみません、まだ疲れたりとかしてないので大丈夫です。犬っころはいつでも元気なのでご安心くださいすみません。」

「はいはい、わかったわかった。いってらっしゃーい!」


 スキルの連続使用と慣れない戦闘、加えて人とのコミュニケーションもだろうか。自己肯定感が極端に低いにも関わらずガジュやユンから仲間と言われ期待されていることで、先ほどから明らかにキュキュは疲弊しきっている。


 そんな彼女を見かねたのだろう。ユンはキュキュの背中を軽く押し、マザゴリの元へとキュキュの大きな体がユラユラと飛ばされていく。そしてマザゴリはキュキュの体を両手で抱え上げ、さながら子供をあやす母親のように優しく揺らし始めた。


「ウホッ〜ウホッ〜。」

「何だあれ……あれが甘やかすって奴なのか……。」

「まだまだマザゴリの癒しはここからだよ!」


 マザゴリはキュキュを抱いたままゆっくりと地面に座り、腕にキュキュを寝かせて彼女の体を摩り始める。痛いところを撫でるような、子供を安心させるような仕草と共にキュキュの体に刻まれていた生傷はどんどんと癒されていった。


「凄いな、撫でるだけで治癒効果があるのか。そこらのヒーラーよりよっぽど優秀じゃないか。」

「あれ治癒効果もだけどリラックス効果が凄いんだよね。どんな卑屈な性格でも安らげるし、どれほど怒っていても落ち着ける。キュキュちゃんにぴったりの魔物だよ。」

「魔物というと人間に害をなす存在だと思っていたが……まだまだ知識不足だな俺も。」

「いや、その認識は間違ってないよ。人を癒すのは独身のマザゴリだけだからね。一度マザゴリに子供が生まれると子供の食糧にするために躊躇なく人を殺すよ。」


 ガジュが『魔物への同情』という冒険者が一番抱いてはいけない感情を抱きそうになった時、ユンからすかさず訂正が入り彼の気持ちは白紙に戻る。やはり魔物なんてどれも危険な存在だ。そう改めて理解した時、ガジュの耳に入ってきたのは癒しとは程遠い狂った笑い声だった。


「あっはっはっ!!!慈愛、治癒、母性。知ったことか!我は生まれながらに咎を背負いし者!慈悲を受ける価値など存在しない、そんなものを与える者はまとめて狂ってしまえぇ!【()()】!」


 およそ彼女のものとは思えない声と共にキュキュはマザゴリの首を殴り飛ばし、彼女の柔らかな茶髪が返り血で染まる。そして彼女が唱えた聞き覚えのある音のスキルが聞こえたと同時に、ガジュの体は自由を失っていた。

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