完全自己負担、家を出る
「妖精界と人間界の行き来は扉使わないんですか?」
「使わなーい、だからまだなんとかなると信じてる」
信じるだけではダメだと思いますけどね、とテレパシーを送信しておいた。
「ほら、信じる者は救われるって言うじゃん?」
どうやらテレパシーは送信を失敗したようです。
「はぁ、その胞子で魔法使ったり出来ないんですか、扉出したみたいに」
「あのね、妖精が常に魔法使える訳じゃないんだよ。僕見習いだよ?」
よくわからないけど多分新人だからレジ打ち出来ませんみたいなノリだと思われる。
個人的にはオッサンには魔法連続使用は体力的にキツいのだと予想する、多分正解。
「妖精=ティン〇ーベルちゃんじゃないからね」
「そもそも同じ土俵だとは思ってませんけど」
「だから自分たちの足で行き来しなくちゃなの、おわかり?」
「はぁ」
突然オッサンは部屋のカレンダーを破き、何かを書き始めた。
人の家に不法侵入した挙句荒らし始めるとは良い度胸をしている。ふざけるな。
「ここが現在地ね、で、ここが目的地」
セリフだけだと地図を書いたように思えるかもしれない。しかし現実は違った。
丸の中に現在地と書き、もう1つの丸の中に目的地と書いてある。
そしてそれを繋いでいる線。
線の上には新幹線の文字。
「あの、この新幹線ってなんですか」
「ワープゾーンって呼ばれてる時空の歪みが森の中にあるの」
「新幹線乗れってことですか」
「そのゾーンに入ると妖精界に繋がる道に行けるの」
「新幹線代は出してくれるんですか」
「で、妖精界に行くんだけど、妖精界にもまた別のゾーンがあって、その先に幻のカエルがいるってわけ!」
「新幹線代2人分私が払うとかじゃな」
「うっさいな!今説明してるでしょ!」
そんな先の話よりも今目の前で消える可能性があるお金の話の方が何倍も重要である。
こんな口頭で説明した方が絶対マシな地図とも言えない図の為に、終わってない月のカレンダー破られた挙句謎の新幹線代出費が確定している私の方がキレたいのがわからないのだろうか。
「僕は(多分)他の人には見えないから新幹線代は1人分の負担で大丈夫だよ」
オッサンはニコッと笑い、親指を立てた。
私はオッサンの親指を握った。
「新幹線代は、自己負担ですか」
「親指を人質にするのはズルいよ!」
「妖精の指なので大丈夫です」
「何を根拠にっ!」
何故こうも会話が上手く進まないのか。
とりあえず親指を少し変な方向へ曲げてみた。
「冷静に痛い」
「質問に答えるか親指を折られるかです」
「新幹線代は……後々……返せたら……いいなっ」
「舐めてるんですか」
どうやら完全自己負担なようだ。
ここでオッサンの指を折ったところで変わるものも無いと判断し、手を離した。
「ここで話し続けるのもアレだし、行こっか」
オッサンは親指を労りながら、玄関へ向かった。
「なにか持って行っておいた方が良い物とかあります?」
「旅行じゃないんだから!身軽じゃないとでしょ!最小限に抑えるべし」
このオッサン、自分の立場を完全に履き違えている。やはり親指を折っておくべきだったか。
必要最低限、というかいつも使ってるリュックを背負い準備は終わった。
「最終的になんて所に着けばいいんです?」
「陽真ノ森ってとこ!」
「調べてみますね」
地図アプリを開き、「陽真ノ森」と調べた。
森は出てこなかったが、陽真村という所があるようだ。かなり遠い。
「陽真村って所でいいんですかね?」
「そうそう、多分そう!」
「こんなに遠いのに違ったら処刑ですからね」
「目がマジなやつ」
やっと旅のスタート地点に到達した気分だ。
いや、実際そうなのだけれど。
私達は玄関のドアを開け、外へ出た。
私達の冒険が始まる……




