版権の不安とサブスクドア
「えっ」
何その反応。まるで自分が変な事を言ったような空気が広がる。あまりにも不本意だ。
仕事クビにまでしておいて冗談ですなどと言おうもんならこの場で葬る他無い。
「カエル……探しに行くんですよね?」
オッサンはこちらを見つめ、静かに親指を立てた。せめて何か言えよと思いつつ、私も親指を立ててみた。
静かな部屋で親指を立て見つめ合う2人。これは私が冷静になった方が負けだと気付いた瞬間である。
「じゃあ妖精の国へ行こう!」
セリフだけだととてもメルヘンで素敵な物語が始まりそうな感じだが、発言者は妖精の格好をしたオッサンである。
というか、どうやって人間の私が妖精の国に行くんだろう。
「ンハァ!」
目の前のオッサンがいきなり喘ぎ、体から胞子をばらまきだした事実に思わず頬をつねる。
夢だったりしないかな、いや、夢であってくれ。
胞子はふわふわと宙を漂っている。
「ちょっと、バイ菌みたいに手で払うのやめてもらえないかな」
「あっ、すみません。なんとなく気持ち悪くて」
「ティ〇カーベルちゃんも体叩いたら同じの出るから。綺麗だから」
鏡見ながらでも言えるのかそれ。
お前は妖精かもしれないが、見た目は妖精のコスプレしたオッサンにしか見えないんだぞ。
とりあえずティ〇カーベルに謝れ。
口からこぼれそうなほど脳内に暴言が浮かぶ。
「あの、これ意味あるんですか」
「ティ〇カーベルちゃんが魔法使う時も粒子出てるでしょ、今回扉をここに呼び出すから沢山その粒子が出るの」
とりあえずティ〇カーベルを同じ土俵に立たせるのをやめろ。
デ〇ズニーは版権とかに厳しいと聞くし、いっそこのオッサンは訴えられたらいいと思う。
頭の中を暴言で埋めつくしている間に、謎の扉が目の前に召喚されていた。
「あ、本当に魔法とか使える感じなんですね」
「今の今まで妖精って信じてなかったような言い方だね」
「信じてなかったです」
オッサンはかなり疲れているように見える。先行き不安と言うのはこういう時に使うのだろう。
しかし妖精と言うのは事実みたいだ。心の奥底にある好奇心が少し疼いた気がした。
「じゃあ、行こうか」
オッサンはドアノブに手をかけた。
私達の冒険はここから始まる。はずだった。
「待って、開かないんだけど!なんで!」
どうやらこのオッサン、自分で召喚した扉が開けられないらしい。
「なんで……?えっ、開いてよ……」
オッサンはずっと扉に話しかけている。
見ているだけで虚しくなる光景だ。
「鍵とかいるんじゃないんですか」
「はぁぁぁぁぁあ?」
なんでキレてるんだよお前の不手際だろうが。
今ならオッサンもろとも蹴り破れそうな気がする。
「ん?」
扉の下に紙みたいなのが挟まっている。
拗ねた小学生が部屋に立てこもった時の連絡ツールかな。
「なんか紙挟まってますけど」
「ほんとだ」
オッサンは思い切り紙を引き抜き、じっと見つめる。
目線が下にいくほど、表情が暗くなっている。
「なんて書いてるんです?」
「読んでみ」
さっきまでキレてたとは思えない程暗い声だ。
とりあえず読んでみる。
―扉の使用について―
妖精界扉サブスクリプションサービス「フェアドア」をご利用いただき、ありがとうございます。
先月分の契約料金引き落としが出来なかった為、サービスを解約させていただいております。
つきましては……
「この扉って……」
「簡単に説明すると、ど〇でもドア」
「だから人の家の中とかにも入れたんですね」
「妖精界と人間界の行き来は扉じゃないのだけが救いかな!凄く凄く遠回りだけど」
私たちがたどり着くまでにカエルの寿命が尽きない事だけを祈ります。




