強行突破
ここからが現在のお話。
あれから実に数年は経っているが、オッサンに会う事はなかった。今の今までは。
玄関を開けるとそこにヤツがいたのだ。
1度扉を閉め、深呼吸をする。
ドアノブを握っている手に力が入る。
大丈夫、きっと幻覚だと自己暗示しながら、ゆっくりと扉を開いた。普通にいた。
ヤツは通路のど真ん中に仁王立ちしており、通る為には物理的に消えてもらうしか方法は無い。
持ち物はスマホと財布と家の鍵だけ……
「今、目が合いましたね」
私は目を逸らしたが、時すでに遅し。ヤツは話し始めた。
「数年前、コインランドリーで話そうと思ってたんだけどね……」
あまりに長い話だった。時計を見ると1時間は経過していた。
簡単に整理すると、あの日コインランドリーで私ととある話をしたかった。しかし私が空気を読まず帰ったから出来なかった。だから今日話に来た。
これだけの薄い内容に1時間もかけて話せるのは妖精以上に何か適性があるのではと思うレベルである。
「なんで数年時間が空いたんです?」
「妖精がホイホイ簡単に人間の前に姿現せないでしょ普通、今日逃したらまた数年後来るから」
半ば脅しとも言える発言は聞かなかった事にするとして、そこまでして何故私に執着しているのかが気になる。
「で、要件は何なんですか?」
「数年前にも言ったんだけど、見習いを卒業する為に来たの、それには君の協力がいる」
数年前とかわざわざ言うあたり根に持っていることが伺える。
「一緒に、幻のカエルを探しに行こう!」
「は?」
見習いを卒業した妖精は1人前と認められ、容姿の変化が人間の何倍も遅くなる。
しかし見習いを卒業する為にはいくつかの条件があり、ごく稀に卒業出来ない妖精がいる。
見習いを卒業出来なければ人間と同じ、またはそれ以上のスピードで容姿が老ける。
で、後から見習いを卒業&容姿を戻す為には幻のカエルを人間と探しに行かないといけない。
「って事でいいです?」
「完璧」
オッサンはニコッと笑い親指を立てた。
ちなみに人間がなぜ必要なのかはオッサンも知らないらしい。
「なんで私が選ばれたんです?」
「無職だからじゃない?」
そう、私は無職……では無いのだが。
底辺とは言ったものの一応正社員をしている。
「いや私無職じゃ」
ポケットに入れていた携帯が着信を知らせる。
嫌な予感が全身を駆け巡った。
いや、まさか流石にそれはないでしょと思いながら恐る恐る通話ボタンを押した。
「もしもし……えっ」
嫌な予感は的中した。
私は本日限りで解雇処分となったらしい。
妖精さんやる事がエグい。
上司も「なんかよくわからんが解雇らしい」とか言ってた。
「かなり雑に裏から手を回しましたね」
「大丈夫、未来は明るいぞっ」
何を根拠に言っているのかはわからないけれど、ここまでやられてしまってはもうやるしかない。
「カエル、探しに行きましょう」




