妖怪ちゃん帰界、放火犯との別れ
少し離れた安全な場所から現場を覗く。
オッサンが立てた火柱のおかげで、ぞろぞろと妖精が集まりだしていた。
今のところは燃え移ったりはしていないが、あの様子だと時間の問題だろう。
「君たち、野次馬か?危ないだろ」
「あっすみません、近くにいたのでつい」
「君人間じゃないか、何故こんな所に」
マズイ。火災現場にいる+普通いないはずの人間=怪しい=犯人の方程式が生まれてしまう。
そうなると噂が広がって今後の旅に支障が出てしまう可能性もある。それだけは勘弁だ。
「妖怪ちゃん、いつでも動けるようにしててください」
「これ、連絡先です」
「えっ、今?……ありがとう」
少しペースを乱されたが、今しか妖怪ちゃん帰界チャンスは無い。
オッサンが邪魔をしない事を願う。
「あのー、おじさん!」
願った瞬間邪魔をされた。
仕方ない。最悪この妖精脅そう。
「君の方がおじさんに見えるけど?」
「ドア、出してください」
「君は妖精だろ、自分で出せば……」
「ドア出してください!」
「えぇ……」
何故考え無しに行動してしまうのだろう。
あまりの強引さに手を貸す方法すら見つからない。自分の蒔いた種だ、頑張れオッサン。
「ドアを!出して!ください!」
オッサンは地面に足をつけ始めた。
まさかコイツ、土下座をするつもりなのか。
「いや、何がしたいんだ君は」
「ぼぐぁ!ドアを!だじでぼじぃんですぅ」
土下座かと思ったが、号泣しながら妖精の足にしがみついただけだった。
目の前で繰り広げられる修羅場。その背後では恐らく木に燃え移ってしまったであろう炎が燃え盛っている。
妖精は困った顔でこちらをチラチラと見ている。私だって困っている。
「ドア、出してあげてください……」
そう言うしかなかった。それ以外の言葉が何も浮かばなかった。
妖精はなんとも言えない表情でドアを出してくれた。
妖怪ちゃんがドアの前に立つ。
「意味のわからない事ばかりでしたが、とても楽しかった気がします。またどこかで」
「私もあなたに救われました。ありがとう妖怪ちゃん」
「君誰と話してんの?コイツ何とかしてよ!」
妖怪ちゃんはドアの奥へ消えていった。
もう少し綺麗な別れ方をしたかったです。
「帰ったの?」
「帰りました」
「よしっ!退散!」
オッサンは妖精の足から勢いよく離れ、立ち上がった。
「ドアありがとね!じゃあね!」
「はぁ!?」
「あの、大通りってどの方向ですか?」
「あっちだけど!?」
「ありがとうございました!」
妖精が指さした方向へ全力で走り出す2人。
彼が追ってくることはなかった。
きっと心に深く刻まれる思い出になったことだろう。私も。
少し走ると見覚えのある場所に出た。
屋敷のすぐ近くだ。
なんだか妖怪ちゃんと出会った時が凄く前に感じる。
「疲れたねー!まぁ無事に帰れたなら良し!」 「強引でしたけどね」
「前の失敗を活かしてみた」
どこに活かした要素があったのかはわからないが、今回はオッサンのおかげだ。
「妖怪ちゃん、楽しかったって言ってました」
「そっかー!良かったじゃーん」
「はい、ありがとうございました」
「じゃ!僕らはトンネル目指していくぞー!」
何かを忘れている気もするが、忘れるということは大したことでは無いと言い聞かせ、私達は大通りを歩き始めた。




