表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空に飛来する卵  作者: 扇谷 純
春の終わり
69/71

第68話 「偶然なんです」Aパート

 パーティーの最中ではあったが、四人はこっそりと会場を抜け出した。


「本当に川の向こうの公園で見たんだな?」


 先頭に立って庭を歩き進みながら、前野は石田に向かって尋ねた。


「はい。その時はすぐに消えてしまいましたが」


「あそこは夜になると、結構暗いです」と二人の後ろから坂口が言った。


「あんた、そんなとこで何やってたのよ?」


 訝しむように足立が強い口調で問い詰めると、石田は口ごもりながら立ち止まり、「……花見酒を」と小声で言った。


「花見酒?」足立は俯いた彼を覗き込むようにして、「誰と?」と尋ねた。


「一人ではいけませんか?」


 顔を上げた石田は、足立の好戦的な態度へ挑むように睨みつけた。


「べ、別に?」と答えながら目を逸らした足立は、「どうせ一緒にお花見してくれる友達もいないんでしょうね」と余計な一言を添える。


「……あなたは、一体何なんですか!」


 石田は足立に詰め寄ると、「何かにつけて僕に対しくどくどと不平を述べる。……何も知らないくせに。自分の行いは一切顧みず、人の表層だけを眺めて安直に結論を下す。あなたは実に浅はかな人間だ!」と早口に述べた。


「人の心の中に土足で踏み入るのは、もうやめて頂けませんか」


「…………」


 驚き、怒り、恐怖、――そして悲しみ。足立の中には様々な感情が一度に溢れたものの、結局何も言い返すことができず、黙って俯いた。


「花見酒とはなんでしょうか?」


 不穏な空気を意に介さず、坂口は疑問に思ったことを口にした。


「お前、そんなことも知らないのか」


 前野は驚いたように答えると、「花見をする時に飲む酒のことだ」と説明した。「特にこの場合は、桜の花を眺めながら飲む酒のことを指すな」


「それは何のためにするんですか?」


「何のためって……」前野は呆れた表情を浮かべ、「そりゃ、花を眺めて飲む酒は粋なもんだろ」


「イキ、ですか?」


「あぁっ、もう!」


 前野は苛ついたように頭を掻きむしり、「百聞は一見に如かずだ。このまま宇宙船探しを兼ねて花見酒を敢行するぞ!」と言い放つと、石田を指差し、「あんたは目撃者だ。ついて来い!」


「僕、お花見って初めてです!」


 と、はしゃいだ様子の坂口だったが、隣では足立が俯いたまま、「私は行かないです……」と拗ねたように呟いている。


「嬢ちゃんだって見たいだろ?」


「嫌です!」と言い、足立は駄々をこねる。


「あの――」


 そこへ石田が口を挟み、足立に声をかけた。


「先ほどは、僕も言葉が過ぎました。……申し訳ありません」


 続いて彼は、ゆっくりと頭を下げている。


「俺は先に行くぞ」


 前野は胸につけたコサージュを煩わしそうにむしり取ると、庭先に向かって乱暴に放り投げ、一人歩き出した。


「あ、待ってくださいよ」


 コサージュをきちんとくずかごに捨てた坂口も、前野のあとを追って歩きだした。


 しばらくして頭を上げた石田は、「迷惑なようですし、僕は帰りますのでどうぞ楽しんできてください」と言うと、強ばった笑みを浮かべた。


 足立は、黙って立ちすくむ。


 石田はそんな彼女の姿を見つめていたが、やがて一人で歩き出した。


「……私は、謝りませんから」


 彼の背中に向け、足立がぽつりと呟いた。「だって、悪いのは私じゃないもん……」


「はい。それで良いです」


 再び立ち止まった石田は振り向かずに答えたが、それを聞いた足立は彼に駆け寄り、「良くないですよ!」と返した。


「え?」


 振り向くと、足立は少々言いにくそうに身体をもじもじさせながら、「最後まで、ちゃんと言い訳してくださいよ」と小声で言った。


「私に対して何も分かってないって言うのなら、分かるように説明してください」


「…………」


 石田は、すっかり酔いの冷めた湿り気のある瞳を見つめ返した。


「見ず知らずの私を二度も助けてくれたあなたがストーカーみたいな真似をしていたのは、何か訳があるんじゃないかって。その……。頭ごなしに責めた私にも、少しは問題があると思います。少しだけ。だからその……行きましょう!」


「え、ちょっと――」戸惑う石田を無視しながら、彼女は腕を取って歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ