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夜空に飛来する卵  作者: 扇谷 純
春の終わり
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第67話 「どこで目撃したんだ?」Dパート

 石田は一瞬言葉を失ったが、突然鋭い目つきになると、足立の顔を睨み返した。


「……リナに、聞いたんですか?」


「別れてからもずっと追い回してるんでしょ」


「僕は別に追い回してなんか――」と石田が言いかけたところを足立が指差し、「言っときますけど、リナちゃん怖がってますから。ベランダから毎日監視していることも、全部知ってるんだからねっ!」


「あ、あれは……!」


 一瞬声を荒げた後で俯いた石田が、「ただ、見守っていただけで……」と言葉を詰まらせていると、彼女はさらに追い打ちをかけるように捲し立てる。


「とにかく! もうリナちゃんにちょっかい出すのやめてくれます? あの道だって、もう通らせないんだからね。この、ストーカー男!」


「…………」


 俯いたまま静かに拳を握りしめた石田は、「……あなたに、何が分かると言うんですか」と怒りを込めて呟いた。


 足立はその様子にいくらか怯んだものの、酒の力を借り、続けて強気を装う。


「ふん! ストーカーの気持ちなんて、分かってたまるもんですか」


「この、……オタク女」


「へっ?」


「あなたのように、時と場所も選ばず声を張り上げるような酔っぱらいには、何も言われたくありません」石田は顔を上げたが、それでも彼女からは目を背けたまま、「……コスプレなんて。慎ましさや恥じらいの欠片もない」と言った。


「な、な、な、何を言ってるんですか!」


 足立は慌てふためき、危うくグラスの中身をぶちまけるところだった。


「コスプレって、何の話ですか?」


 前野と共に料理を取りに行っていたはずの坂口が、いつの間にか二人の後ろに立っていた。


「あっ! いやぁ、何でもないんですよ!」


 足立は顔を赤らめながら答えたが、そこへすかさず石田が割って入り、「この人、有名なコスプレイヤーなんです」と言ってポケットからスマートフォンを取り出した。「――ほら! これです」


 液晶には先日検索をかけたウェブページが開かれ、魔法少女のコスプレをした足立の姿があった。


「おぉ」


「レイヤーネームは、<シンカイソラ>と名乗っているようです」と口にしながらスマートフォンをポケットにしまった石田は、「周りには素性を隠していたようですが、隣に住んでいれば嫌でも分かります」と不愉快そうに言った。


「シンカイって名前、どこかで聞いた覚えが――」と坂口が首を傾げていると、「そうか! そのための名前だったわけだな」と、どっさりとケーキを盛った皿を手にした前野が納得したように頷いている。


「うぅ……」


 足立は恥ずかしさのあまり頭を抱え、唸り声を上げていた。


 やがて素早く石田の方を向くと、軽蔑の眼差しを彼に向け、「あんた、私の部屋まで監視してたわけ!」


「あなたは、自分の行為が周囲の人間に一切聞こえていないとでも思っていたんですか?」


 石田は露骨にため息をつき、「毎日大音量でアニメを流していることや、奇怪なセリフを大声で喚き散らしていることも全て筒抜けですよ。反対側の方も、大変迷惑に感じていたと思います」


「えっ! そうなの?」


 足立は確かめるような口調で坂口に尋ねた。


「えぇ、まぁ」坂口は珍しく曖昧に答えると、「アニメが好きだということは、ずいぶん前から分かっていました」


「なんてこと……」


 足立は気持ちを落ち着かせるため、グラスに残った酒を一気に流し込んだ。次いで一度大きく咳払いをすると、再び石田を指差しながら、「あ、あんただって、ベランダで変なアンテナ立ててたらしいじゃない!」と言った。


「アンテナ?」


「み、未知の電波を拾ってたんでしょ!」


「あぁ」石田は何か思い出したように頷くと、「それは恐らく、ポータブルテレビですよ」と答えた。


「ポータブルテレビ!」


 前野はそう叫ぶと、「そのための電波を拾っていたってわけか」と悔しそうに顔をしかめている。「どうしてその発想が浮かんでこなかったんだ、俺は……」


「でもでも、あんたがストーカーだってことが、一番の問題なんだからね!」


 と、足立は話題を戻した。すると前野が肩を竦め、「それはあくまで奴個人の問題であって、俺たちには瑣末さまつなことだろ」と口を挟んだ。


「でもリナちゃんは、私の後輩なんですよ!」


「俺たちにとって最も重要なことは、宇宙人が誰かって話だ」


「そんなの! どうせいるわけないんですよ!」


「嬢ちゃんだって、あの日の夜に宇宙船の着陸を見ただろ!」


「あんなのどうせ見間違いですよ!」


「……宇宙人?」


 足立と前野が盛大に口論を繰り広げているなか、石田はふと呟いた。「もしかして、あの夜の宇宙船の話でしょうか?」


「おぉ! あんたもあの卵を見たのか?」


「ふんっ! 見たからどうだっていうのよ」


「”あの夜”というのは、月始めの週末ですか?」と、坂口は冷静な口調で石田に尋ねた。


「い、いえ、僕は……」


 一度に声をかけられ、石田はうろたえた様子を見せていたが、坂口が口にした”月始めの週末”という言葉に反応し、「月始めの週末……。確かに。そう、日曜日でした。僕はその夜、宇宙船のような発光体を目撃しました。けれどそれ以外にも、別の場所でも一度――」


「なんだと……! それはどこだ?」


「船体のデザインはどんなでしたか!」


「あ、あんた嘘言ってんじゃないわよね?」


「う、嘘じゃないですよ」石田は三人の恐ろしい剣幕に思わず後退り、「マンションとは、違う場所です」と答えた。


「…………」


 その言葉に黙り込んだ三人は、一斉に顔を見合わせたが、今度は三人を代表して前野が一歩前に踏み出し、「一体、どこで目撃したんだ?」と尋ねた。


「それは……」


 石田はその時のことを思い返すように、ゆっくりと俯き始めた。

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