13 力の発動
2016. 6. 14
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袴姿である事もあり、風の力をもろに受けた父親と兄は、堪らず地面に倒れ込んだ。
「篠神! 落ち着いてくれっ」
《いいかげん、我慢の限界だからね》
神は静かに怒っていた。律樹はこのままではマズイと焦る。
「くそっ」
「自業自得だよ」
響華は既に冷めた表情で倒れた二人を見ていた。今や風に押しつぶされ、混乱しているその様子を見て、内心いい気味だと思っていたのだ。
律樹が神に駆け寄っていく。神の操る風は二人の周りにしかないので、律樹は問題なく神の傍へ行く事が出来た。
「篠神、もういいだろう。これ以上は」
《ダメだ。この分からず屋共に、思い知らせてやるっ……今回ばかりは絶対に許さっ》
その言葉を聞いていた響華は、突然、強い焦燥感を覚えた。服の下にある首飾りが熱を持つ。それを反射的に服の上から握り締め、神に叫ぶ。
「それ以上はダメ!!」
「なにっ⁉︎」
響華の声が響く。それは力の波となって、神と律樹だけでなく、倒れた二人を覆うように呑み込んだ。
「……これは……封囲術……?」
《っ……違う……》
律樹の確証を持てない答えを、神が否定する。
驚いた神は、その力を治めていた。謎の風から解放された二人は、体を反転させ、座り込む。そして、二人は揃って律樹の傍に立つ神へ驚愕の表情を向けていた。
「なっ、あ、あなたはっ?」
「誰……っ」
「は? まさか、見えるのか?」
二人の見開かれた目には、間違いなく神の姿が映っていた。
これに気付き、冷静さを取り戻した神が面白がるように言った。
《へぇ。これはいい。さすがは月ちゃんが自慢するお姫様だ。音で神域の霊位を上げたのか。これなら普通の人にも見えるだろうね》
「へ?」
一人満足気に頷く神。しかし、感心されている響華としてはわけが分からなかった。
《んん? あぁ、そうだなぁ……うん。りっくん。彼女への説明は任せる。僕はこの二人にオハナシがあるから》
「たちの悪いのが絡んでいくようにしか見えんぞ」
ジリジリと二人に近付いていく神。纏う空気の神聖なものの中に不穏なものが混じっている。
《それ僕のこと? 心配しないで。今夜は寝かせないぞ☆》
「……いや、親父達は朝早いんだから加減を……」
《充血しまくった目で朝のお勤めしてもらおうかな〜》
楽しくて仕方がないという声音だ。その表情は律樹と響華に背を向けているため見えないが、物騒な顔をしているのだろう。
二人は小さく震えながらも、神から目をそらせずにいた。
止めるのは難しいかと諦めモードの律樹が、これだけは確認しようと神に尋ねる。
「この効果はいつまで続くんだ?」
《この感じなら朝まで余裕だよ。だから、りっくんは行って良いよ。お姫様をちゃんと送っていくように。力を使って疲れてると思うしね》
響華は少し前から立ち上がれずにいた。貧血を起こした時のように、体が冷えていく感覚。
殴り飛ばされて倒れていた律樹を心配して座り込んでいた響華は、未だにその場から動けずにいたのだ。
「おい、お前。大丈夫か?」
「っ……大丈……ぶ……」
神と律樹の会話をどこか意識の遠くで聞いていた響華は、力という言葉を聞いて混乱しながらも、頭を揺さぶられる感覚に呻いていた。
「大丈夫じゃねぇな……しゃぁねぇ」
《階段の下まで送ってあげるよ。じゃぁね、お姫様……さっきはありがとう。りっくんをよろしくね》
「よろしくされんのは俺だろ……」
小さく呟く律樹の声がとても近くで聞こえる。
《さぁてと……はじめようか?》
楽しそうな神の声と、息を呑む音。それを聞きながら、響華は意識を手放すのだった。
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