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第三話「最初の街『アルフィナ』へ」




 光の中を歩き続けた先にあったのは、明るい日差しに照らされた森林だった。

 周囲の様子を見渡しているうちに光の扉は淡く瞬いた後に消え去る。

 扉が消えるのと入れ替わるように、ヘルミーナが虚空から光と共に姿を現す。


「転移は完了よ。この森を抜けた先に手頃な街があるわ」


「この森は深いんですか?」


「いいえ、全然。ちょっと歩けばすぐに街道に出れるわよ」


 ヘルミーナはふわふわと宙に浮いたまま移動して、こっちこっちと手招きして翔を呼んだ。

 どうやらその方へ進んでいけば街道に出れるようだ。翔はそちらへ歩を進めた。

 歩きながら翔とヘルミーナは話し始める。


「街へは徒歩5分ってところかしら。もうちょい近ければ転移場所として便利なんだけど、人目を避けるとなるとどうしても場所が限定されるのよね」


「テレポートとかできる人って珍しいんですか?」


「高レベルのベテラン魔法使いが覚えられるかどうか、くらいね。

 次元を飛び越えるような転移術は御伽噺や神話の中で語られる程度よ。

 貴方もスキルとして長距離転移を習得してるけど、目立ちたくないなら大っぴらには使わない方がいいわ」


 そうなると、街の前まで転移でひとっ飛び、というのはやめておくべきか。

 そもそも転移を他人に見られても問題ないなら、ヘルミーナも街の傍に転移させてくれただろう。


「もしも転移魔法の担い手が多ければ、輸送関係は魔法頼りになって街道整備は滞るでしょうね。

 街から街へ荷物を転移できるなら、盗難の恐れなんてなくなるしね。

 それができないからこそ街道は整備されて、商人達は馬車を走らせて行商するのよ」


 逆に言えば、翔なら転移魔法を駆使した輸送業を独占できるということになる。

 しかしそうなれば周囲に目立つし、恩恵を受けようと人が群がるかもしれない。

 最悪、国に軍事利用目的などで転移魔法を使わせるために拘束されたりなんて、面倒事になりそうな予感がする。


「まあ、拘束されても貴方なら難なく逃げ出せちゃうけども、お尋ね者となると生き辛くなっちゃうわね」


「山奥にひっそりと隠れ住むというのも、できればしたくないですしね」


「強引に神様パワーで解決してもいいんだけど、そうなるとエネルギーをめちゃくちゃ消費しちゃうからポイント高くつくわよ」


 話しながらも歩を進めていたおかげで、無事に街道へと辿り着いた。

 そういえば、ヘルミーナの姿は他人に見られてもいいのだろうか。翔は疑問に思ったことを尋ねてみる。


「ああ、それなら大丈夫。私も貴方といっしょに冒険者登録するつもりよ」


「ええ? い、いいんですか?」


「この世界では女神ヘルミーナの名前は伝わってないし、偽名を使う必要もないくらいよ。

 私以外にも人間の世界に遊びに行く神はけっこういるしね。ただ、悪行を重ねたら邪神として堕天されるけど」


 ヘルミーナによると、これから翔と行動を共にすることが多いからこの世界の人間としての立場を用意しておいた方が後々便利になるらしい。

 その方が相談に乗りやすいし、お金儲けするにも身分は必要不可欠、だそうだ。

 どうやら翔にスキルや特典を売るだけではなく、彼女自身も金策を行うつもりのようだ。


「とはいえ、ずっと女神の姿のままだと余計なエネルギー使っちゃうから……えい」


 ヘルミーナが呪文を唱えると、彼女の姿がふっと掻き消える。

 それと同時に、翔の目の前に光の球体が現れた。


「こうやって、普段は省エネモードの妖精の姿で過ごすつもりよ。

 種族も女神だと騒がれるから妖精って名乗って、変身魔法で人間になれるってことにしとくわ」


「ほ、本当になんでもありですね、女神様」


「そりゃあ神様ですもの。……あ、そうそう。もっと話しやすい口調で構わないわよ。これから仕事仲間になるんだし」


「え、け、けど……」


 あまり女性に縁のなかった翔にとって、普通に会話しているのも照れくさいものがある。

 それに、お金儲けのことを考えている時は俗っぽいとはいえ、真面目な時は女神らしい神々しさを感じるような相手だ。

 仕事していた時の気持ちで丁寧に話すことならなんとか普通にできていたのだが、心の距離を近づけるとなると緊張してしまう。

 さらに言うなら相手はとびきりの美人だ。小さな妖精の姿でも、その美貌は縮まったりしない。

 彼女の黄金の髪が温かな日差しを浴びて輝き、そよ風になびいて、くるくると踊っている。力強い意志を感じさせる瞳はサファイアの様に美しい藍色に澄んでいる。

 翔の人生において、彼女のような美人に出会ったことも、ましてや会話したことなんて一度もなかった。


「いいから、いいから。ほら、呼び捨てしてもいいからさ」


 ヘルミーナは翔の正面に回り込んで、じっと顔を見つめてくる。

 正面から見つめられて、思わずどきまぎしてしまう。

 ただ、いつまでも応えずにいるのも失礼だと思い、意を決して返答する。


「は、いや、うん。わかり、分かったよ……ヘルミーナ。これから、よろしく」


「ええ。これからがっぽがっぽ稼いでいきましょうね、翔」


 翔の答えに満足したように笑う彼女の笑顔は、やはり美しいものだった。

 ただ、それは初め見た時に感じた、芸術品のような美ではなくて。

 人間味を感じる、女性の美しさであった。



   〇



 ヘルミーナの案内でしばらく歩くと、まもなく街が見えてきた。

 石壁で覆われたその街の名前は『アルフィナ』というらしい。

 王都ほどではないが大きな街で、様々な街へと街道が通じているため、人が多く行き交う賑やかな街だそうだ。


「しばらくはここを拠点にするのがいいわ。王都より物価も安いし、村出身の駆け出し冒険者のために身分無しでも簡単な検査で入れるようにしてる。

 商売するにしてもライバルは少ない。ここでしばらく実績を積んでから、拠点を変えても遅くはないわ」


「なるほど、ゲームでいうと『アルフィナ』は初心者向けの街で、王都は上級者向けって感じなのかな」


「まあそんなところね。貴方の戦力なら王都でも余裕で通用するけど、王家に目を付けられたら面倒なことになるわ。

 そのリスクを避けたいなら無理に王都に行かなくても、ここをずっと拠点にしてもいいくらいね」


 まだ戦闘の経験がないため実感はないが、スキルは十二分に吟味して取得しているため大幅に強化されているはずだ。

 交通事故のようなトラブルに備えたい思いが強くて、防御力や耐久性を重視して習得したが、攻撃力も十分すぎるくらいある。

 装備もかなり強い防具と武器を揃えている。魔法耐性のある鎧に盾、軽くて丈夫で切れ味も鋭い片手剣。

 伝説の武器などは大量のポイントと引き換えになってしまうそうだ。

 それにそんなものを使えば必ず目立って、他人から狙われるとのこと。

 なのでまずは自身のスキル強化を優先したため、装備は高性能であるものの一般に出回っている品物だ。

 より強い装備品は、これからこの世界のお金を溜めて購入するか、自分で鍛冶スキルなどを駆使して作成を目指すことになるだろう。


「さあ、ついたわよ。私も人間形態になるわね、っと」


 ヘルミーナが魔法で人間の姿になる。

 彼女のいうように、もう『アルフィナ』の街へ入るための門はすぐそこだった。

 そのまま歩いていくと、門番に呼び止められる。

 名前を尋ねられたので、二人とも本名を名乗る。

 サインを求められたので書類に羽根ペンで書くと、門番はそれを確認して書類を懐に仕舞った。


「身分を証明するものはあるか?」


「いえ、ありません。これから冒険者登録をしようと思います」


「そうか。ならこのカードを渡すから、これを冒険者ギルドの受付に提出してくれ。でないと受け付けてくれないからな」


 門番の男はそういって、銅で作られたカードを手渡してきた。

 見てみると飾り気のないシンプルなカードだが、5桁の数字が掘り込まれている。

 ヘルミーナにも同じカードが渡されて、そのカードには翔のものとは違う数字が掘り込まれていた。

 管理番号の類のようだ。複製などを防ぐための物なのだろう。


「門を通過した証として渡されるカードだが、有効期限は当日限りだ。今日中に登録を済ませた方がいいぞ」


「分かりました、ご親切にありがとうございます」


「君の冒険者生活に、幸あらんことを。ようこそ、『アルフィナ』の街へ」


 これで審査は終わりらしい。あっという間に手続きが終わって、翔達は門を潜ることができた。

 門の先には往来が広がり、様々な人で賑わっていた。

 ざっと見渡しただけでも、冒険者らしき装備に身を包んだ人や、荷物を馬車に積み込む商人などが大勢行き交っている。。

 他にも、人間以外の種族らしき人々も多く見られた。耳の長いエルフや、小さな背丈のドワーフ。他にも猫耳やら尻尾が生えていたりと、ファンタジーでお馴染みの異種族が当たり前のようにそこかしこに歩いている。

 その光景を見て、ようやく自分がファンタジーな世界に来たのだと実感が湧いた気がする。

 

「冒険者ギルドはあっちみたいね。行きましょ、翔」


「あ、ああ。そうだね」


 目の前の光景に圧倒されていた翔は、ヘルミーナの声ではっとして彼女の横に並んで歩く。

 ふと翔は、周囲の人々の視線がヘルミーナに集まっているのを翔は感じた。

 囁き声が聞こえるが、やはりというか彼女の美貌について話しているようだった。

 同時に、そんな彼女の隣に並ぶ冴えない男である自分のことも何やら話しているように思う。

 ぶさいくとまではいかないけど、普通のありふれた顔である自分とでは、ヘルミーナとは釣り合わないとか言われてるのだろうか。

 ポイント払ってイケメンになるべきだっただろうか、けど生まれ持った顔を変えちゃうのも抵抗が……なんてうじうじ考えてしまう。


「ほら、ギルドはもうすぐそこよ翔」


 そう言って、ヘルミーナは翔の手を握って駆け足で走り始める。

 うわ、ちょっと、なんてなさけない声を出しながらも、翔は手を握り返して自分も走った。


「うふふ……私達のブルジョア生活は、ここから始まるのよー♪」


 俗っぽく、だけど可愛らしく笑顔を浮かべる彼女を見て、翔は思う。

 自分と彼女では釣り合いがとれなくても、せめて置いていかれない様に頑張っていこう、と。 

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