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振り向けば、そこに探偵事務所  作者: 大本営
File No.001 パトロン
14/41

6話、招かれざる客 - 前篇 - 

 理事長室には男達が4人いた。


 窓を背に椅子に座る割腹のいい男性がこの部屋の主、理事長ラウロ。

 ラウロを机を介して向かいの椅子に二人が座り、残る一人は二人の後ろに立っていた。


「ラウロ理事長、麻人君のパトロンになる件、そろそろご承認いただけませんか?」

「分かっていますよ、早く処理したいお気持ちも。ですが、もう少しお待ちください。恐らく申し出る人物が少なくともあと一人はやって来るでしょうから」


 ラウロは汗を拭いつつ部屋に設置してある時計を確認すると、一三時を既に回っていた。



 ◇ラウロ理事長



 パトロンの申請期限が今日の一四時までと知った上で、目の前の男がやってきたのは間違いないでしょう。

 向かいの椅子に座る葛宮 麻人(くずみや あさと)君の転入試験結果は非常に優秀でした。失礼ながら来訪者にしては珍しく高成績だったというだけなく、通常の生徒と比較してもこの成績に匹敵する生徒は稀でしょう。十年に一人の逸材とまでは言いませんが学年主席くらいは直ぐ狙えるでしょうね。

 このくらい優秀な生徒なら奨学金を受け取る資格がありますが、彼はそれを蹴ってパトロン制度の利用を求めてきました。奇妙な申請ですが、このくらいの年齢の来訪者は金銭的に貧しい傾向がありますから、分からない話しでもないです。

 来訪者だというのが難点になって、パトロンに名乗り出る人物は多くはないかもしれません。まあ、彼らは主張は面白いと個人的には思いますが、何かと扱いが面倒な上に頑固な方々ですからね。

 それに申請時期が遅れたので、さらに数は絞り込まれるでしょう。

 そんな麻人君のパトロンに名乗り出た人物も来訪者ですか。勿論、たまたま名乗り出た人物が来訪者で、たまたまパトロンの対象者が優秀だった可能性はあります。


 そこまでならまだ納得できます。


 葛宮 麻人君が転入試験を受けたのが一日前であり、試験結果が判明したのが今日の午前。

 クラスの編入先すら今だ決定しておらず、彼を知る人物は教職員ですらほとんどいない。にもかかわらず目の前の男は葛宮 麻人君を指名している。

 パトロンとして受け入れるには怪しすぎる人物です。

 パトロン制度を『人材の競売』『学生の青田買い』と非難する声があるのはを知っていますが、だからこそパトロン候補者の選定には自分なりに厳しく対応してきた自負があります。

 このような妖しげな人物に将来ある生徒が仕えるなど、教育者として見過ごすわけにはいきません。 


「仰る通り確かに期限までは三十分ほど時間がありますね。公平を期すためにもお待ちましょう、この部屋で。マイヤー、理事長にお茶を」

 男がパチンと指を鳴らすと、主人の合図を待っていたかのように後ろに控えていた老紳士がティーカップとティーポットを用意する。


 客人と主人たるラウロの攻守は既に入れ替わっていた。



 ◇



 注がれる茶を見つめながら、脇に置かれた推薦状を凝視するしかないとは。

 学園都市エレンは都市としても発言力も大きいですが、学園内だけに限ってみればギルドや王国にも介入させないほど強力だと自負しています。

 このような怪しげな手合いを、にべもなく叩きだす事など造作もない筈でした。


 この推薦状にさえなければ。


 『上の方(管理者)』の推薦状など聞いたことがない。

 人差し指を上に上げた独特のサイン。

 この意味を他の職員は知るはずもなく、自分のような人物だからこそ知り得た存在です。

 名前を読んではいけないその存在を推薦人にするなど、真壁という男は何者なのか?

 下手に刺激しては何が起きるか分からない、その恐れが守勢にさせる。

 自分には時間稼ぎしか手が残されていないのは分かっています。


 当てはあります。


 研ぎ澄まされた彼の耳が情報を掴んだ上で、ジュリエッタ君が迅速に行動をする気になれば、ですが。

 或いは、他の人物が事態を把握できれば早急に動くかもしれません。



 未だ公表されていない情報で動くという事は、学園内に協力に応じる人物が存在することを認めることになるが、ラウロにはそのようなことを考える余裕はなかった。

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