5話、全ての始まり - 後篇 -
◇ジュリエッタ
「ルチアさん、今から学園長に面会をしたいのですが可能でしょうか?」
ジュリエッタは事務室の奥に座るルチアさんに近づいて声をかけました。
疑問形で話していますが、否と言わせない笑みを浮かべているのが自分でも分かります。
「ジュリエッタお嬢様、笑みが怖いですよ。ああ、あの件ですね」
「ええ、今年も忌むべき季節がやって来てしまいました」
「ご心労お察しします。そうなりますと、今年の対象者は彼ですね」
ルチアさんは棚にあるファイルを取り出し開くと、素早く『葛宮 麻人』に関する書類を取り出しました。
私が来るのが予測していたのでしょうね、頬を緩ませながらジュリエッタに渡してくれました。
「ルチアさん、正直に仰ってください。毎年毒にも薬にもならない人物に私財を投じることがそんなに面白いのですか」
「誤解です。ジュリエッタお嬢様にはお喜びを申し上げようと思っていたのですよ」
今年に関して心からそのように思っていたのですよ、と続けますが信じられません。
ジュリエッタが疑い深いのではないです。
ルチアさんは毎年そう言うのです。
「率直に申し上げますが、彼、葛宮 麻人については当たりです。彼は来訪者であるにも関わらず、転入試験で奨学金を受ける資格があるほどの成績を叩きだしています」
「ほ、本当ですか? でも、なら何故です。それほどの生徒なら奨学金を受け取れるので、パトロン制度を利用しないのではないでしょうか」
いつもの年と異なる展開にジュリエッタの思考がまとまりません。
恒例行事が恒例あらざる事態に展開するなるなんて考えもしませんでした。
本当に来訪者が成績上位者だなんてありえるのでしょうか。
◇
余談になるが来訪者について語ろう。
正確には第二世界『ドォオ』に来た第一世界『ウーヌス』の住民を指す。
ただし『ドォオ』の住人は『ウーヌス』を知らないため、次のような人物を示す言葉になっていた。
彼らは所属する国を問われると、ときに地球、ときに日本と要領を得ない未知の国名で返答をする傾向があった。『ドォオ』の住人には理解できない人権という価値観を絶対視し、同じく理解できない倫理観を振りかざして良い意味でも悪い意味でもドォオの住人を振りまわしていく。恐らくは見知らぬ土地から突発的に送り込まれた人々を来訪者と呼んでいた。
どのような方法で送り込まれたか、それがあまり問題とされていないのは第二世界「ドォオ」には転移魔法が存在するからだろう。超長距離移動となると転移魔法でもかなり高度な技術と資材を要するが、私達が知らない土地ならばそういった手段で強制的に人物を送り込む習慣があると。
どこまで冗談か分からないがその様に受け取られていた。
来訪者はやってくる方法こそ異色の存在ではあるが、その割に身体能力や魔力において突出したところがなく、見るべき才能、技術を持つ者は稀である。
思考方法が異なる以外に秀でた点を二つ上げるとしたら、どの人物も一定水準の教育を受けていたと思われる点だ。だが受けた教育を余り役に立つようには披露できていない。
もうひとつは教育の副産物というものだろうが、一定水準の知性と思考を持つため魔を扱う論理を理解しやすい点である。理解しやすいだけで魔を扱えるかは別問題だが、それを考慮しても多い傾向ではある。とはいえ相対的にみれば魔力という絶対値が低いという事実は覆しがたく、傑出した才能を有する人物をほとんど輩出してはいない。
ジュリエッタの言い分によれば「毒にも薬にもならない」と些か辛い採点を受けるが、魔法士として将来を期待される彼女の観点からすれば、あえて私財を投じる価値がないと判断されるのは無理も無い評価かもしれない。
◇ジュリエッタ
「そればかりは私にも分かりかねますが、奨学金制度を利用しない例は過去にも存在します。そういった人たちは金銭的な問題から、将来を先に選択することがあるのでしょうね」
「信じられませんが、前例あるのでしたらそういう事もあるのでしょうね」
お父様、ジュリエッタの考えが浅はかでした。
きっとこのような状況を予測して来訪者にのみパトロンとなってきたのですね。
善は急げです。
さっそく理事長の許可を受けなくてはいけません。
「成績とは関係ないですが彼はルックスもいいですよ。もっとも私は隣にいた男性がほうが好みですが」
ルチアさんの返答を最後まで聞かず、ジュリエッタは理事長室に走って行きました。




