【コミック3巻発売記念小話】ひよこ、エイプリルフールをしていないはずなのに
今日はエイプリルフールという日らしい。カレンダーに書いてあった。
「まおー、エイプリルフールってなに?」
「嘘をついてもいい日のことだ」
「ごうほうてきにうそをついてもいいってこと?」
「……まあそういうことだ。せっかくだから、ヒヨコも楽しんだらどうだ?」
「う~ん、ヒヨコはいいや! つきたいうそもないし」
「そうか」
つまり、エイプリルフールといえど私にとっては普通の日となんら変わりないということだ。
うん、お散歩行こっと!
今の時間は魔王が仕事で遊べないので、お庭を散歩することにする。そして魔王城の庭を歩いていると、見知らぬ顔と出会った。
東洋系の服を着た、ダンディな顔立ちの壮年の男性だ。左右の布を胸の前で重ねて腰の辺りで太い紐を結んで留めている。
うん、こんな人見たことない。
「おじさん、なにしてるの?」
「ちょっと道に迷ってな。……ん? というか、なんで魔王城にこんなちびっこがいるんだ?」
おじさんが屈み、私と視線を合わせてくれる。なかなか子どもへの接し方が分かってるおじさんだ。
「ヒヨコはねぇ、ここにすんでるの」
「住んでる? 魔王城にか?」
「うん、ここ、ヒヨコのおうち」
「お家……ああ、今日はエイプリルフールだったか」
なぜかうむうむと勝手に納得するおじさん。
む、これはエイプリルフールの嘘だと思われてるな。ヒヨコは本当にここに住んでるのに。
「うそじゃないよ! ヒヨコ、ここにすんでるの!」
「疑ってはいない。住み込みの使用人もいるし、君がここに住んでいるというのは間違いないだろう」
多少話を盛るのは子どもにはよくあることだ、と生温かい目で見られる。
「すみこみ……? ちがうよ。ヒヨコ、まおーのこどもなの。だからまおうじょうにすんでるの」
「陛下の子ども……? 陛下に子どもなんていたか……? いや、いないはずだ。それに、あの陛下が子育てをするなんて想像もできない。小さいのになかなか豪胆な嘘をつく子どもだな」
その心意気やよし、と言わんばかりにわしわしと頭を撫でられる。
どうやら、魔王陛下の子どもという嘘を堂々とつく度胸の持ち主だと思われてしまったらしい。私としては事実をただ話してるだけなんだけど、全く信じてもらえない。
エイプリルフール、おそろしや……。
「ヒヨコ、うそついてないよ」
「ところで、その“ひよこ”というのはなんだ? たしかに君は雛のように小さくてかわいらしいが、自認がひよこということなのか?」
「ううん、ヒヨコはひよこだからヒヨコなんだよ」
「なるほど、自分のことをひよこだと自覚しているのだな。うんうん、見ず知らずの相手に名前を教えないのはいい判断だぞ」
またもや変な誤解をされ、斜め上の褒められ方をする。
いや、本当に「ヒヨコ」って名前なんですけど。嘘みたいだけど本名なんだよ。しかも、今は人型だけど元は れっきとした ひよこなんだよ。ドラゴンとかフェニックスとか、いくらでもかっこいい種族がいるこの魔界にいるのにただのひよこなんだよ。
どうしよう、このおじさんの中で「自認がひよこだから『ヒヨコ』だと名乗る謎に警戒心が高い子ども」になっちゃったよ。おまけに自称魔王の娘。
おかしいな、ヒヨコってば合法的に嘘をつける日にも関わらず嘘をつかない善良な鳥類なんだけど。いつの間にかエイプリルフールをいいことに無理な嘘をつきまくるちょっと微笑ましい子どもみたいになってる……。
「ぴぃ……」
なんだか腑に落ちない状況に、私は唇を尖らせた。
というか、ほとんど魔王のせいな気がしなくもない。
おおよそ子育てをしなそうなイメージもそうだし、うっかり『ヒヨコ』と名付けたのも魔王だ。今でこそあまりにも体を表している名前だからしっくりきてるけど、普通は種族の名前をそのまま付けたりしないもんね。
そう考えると、この人が誤解をするのも無理はない気がする。
むしろ魔王が嘘みたいな行動を連発するのが悪いんだね。
「――ところで、俺はこれから迷子センターを探すところだが君も行くか?」
「ううん、ヒヨコはまいごじゃないからいかない」
「そうか」
「それに、しらないひとにはついていかない、おかしをもらわない、はなしをしないってとうさまとやくそくしてるの」
「既に随分話はしている気がするが……まあ、君のことを思いやってくれる父様がいるみたいでよかったよ」
フッと目を細めたおじさんは、再び私の頭を撫でるとどこかへ行ってしまった。きっと迷子センターを探すんだろう。
結局どこの誰だったか分からなかったけど、なんか変わった人だったなぁ。……にしても、最後まで一つも誤解は解けなかったけど。
そして、お散歩を終えた私は魔王のもとへと帰ってきた。
「――おかえりヒヨコ……なんだかスッキリとしない顔をしているな。なにかあったか?」
「みちでであったおじさんにあらぬごかいをかけられたんだけど、ごかいがとけないままおじさんはまいごセンターをめざしてさっていった」
一気に言うと、魔王が私の言葉を頭の中で咀嚼するように数秒黙り込む。
「……それは、エイプリルフールの嘘か?」
「それがほんとなんだよねぇ」
世の中には、意外と嘘みたいな本当の話がよく転がってるものだね。
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