ひよこ、雪をまんきつする
耳当てに手袋、マフラーもつけた万全の装備で外に出る。
すると、澄んだ冷気が私の肌をくすぐる。
既に道は雪かきが済んでいたけど、他の場所は私の肩くらいまで雪が積もっていた。
「ゆき、いっぱい……」
「随分たくさん降ったみたいだねぇ」
一面が真っ白だ。昨日と同じ場所とは思えない。
雪を初めて見るリュウはその不思議な光景に瞳を輝かせる。
「すごい……ふわふわ……冷たい」
その場で足踏みをしたリュウは次の瞬間、道の傍らに積もっている雪にダイブした。
一瞬にしてリュウの体が白に埋もれて見えなくなる。
「リュウー!!」
直ぐさま白虎さんが前足で雪を掻き分け、雪の中からリュウを咥えて出てくる。
せっかく着込んだコートやマフラーは既に雪まみれだ。
「お前は……毎度毎度、少し大人しくしろ」
ペッとリュウを地面に置きながら白虎さんが言う。
「ゆき……つめたい」
「おいこら! 雪食うな! ペッてしろ!」
口に入った雪をもっそもっそと咀嚼するリュウに慌てる白虎さん。
「……あまくない……」
「あたりめぇだろ!」
しょんぼりするリュウの頭を、白虎さんが前足で小突く。
というか、白虎さんって寒いの大丈夫なんだね。意外かも。あ、ネコ科でも虎は寒いの平気なんだっけ?
すると、後ろから雪を踏みしめる音が聞こえてくる。
「ふふ、男の子はやんちゃですねぇ。オルビスが小さかった頃もよく振り回されたものです」
「何百年前の話だよ」
魔王城の方からやってきたのはゼビスさんとオルビスさんだ。
「……ふたりとも、すごいきこんでるね……?」
過保護な父親達にこれでもかと布を纏わされた私といい勝負だ。
三人で並んだら団子が三つ並んでいるみたいである。
「俺達ドラゴンは基本的には寒さが苦手な種族だからな」
「リュウはさっきゆきにダイブしてたよ?」
「子どもは寒さよりも楽しいものに目がないからな。俺も昔は雪に飛び込んでたもんだ」
「その度に自力で出られなくなってキュウキュウ鳴くもんですから、毎回私が掘り出してたんですよ」
懐かしそうに宙を見上げるゼビスさん。子ドラゴンの頃のオルビスさんを思い出しているんだろう。
ゼビスさんも爺バカだね。
「ゼビスさんたちも、いっしょにあそんでくれるの?」
「ええ、もちろんですよ。雪遊びはみんなでした方が楽しいですからね」
「やったぁ」
ゼビスさんの脚に抱きつくと、よしよしと頭を撫でられる。
「ヒヨコ、かまくらつくる」
「つくる!」
白虎さんの尻尾で服についた雪を払ったリュウが私の手を取る。
そして雪遊びができそうな開けた場所にグイグイと引っ張って連れて行く。
「……歩きにくい」
だけど、積もっている雪の中は私達が思っている以上に歩きにくく、ゆっくりとしか進んでいけない。
「みてよ魔王、うちの子がよちよち歩いてる。ほんとに小鳥みたい。きゃんわいい。ちゃんと撮れてる?」
「しっかり記録できているから安心しろ」
私達の後ろからは目尻が下がりきっている父様と記録用魔道具を構えている魔王がついてきている。魔王器用だね。
のそのそピヨピヨとしか進めず、リュウの唇がむぅっと尖る。
「ドラゴンのすがたのほうが……いい……?」
「それは止めとけ~。ドラゴンの方だとさらに寒さに弱くなるから冬眠する羽目になるぞ」
「む、じゃあやめる」
「それがいいな」
オルビスさんの言葉に、リュウはちびドラゴンの姿になるのを諦めたようだ。
素直なリュウを見てクスクスと頬笑むと、オルビスさんはリュウを持ち上げ自分の肩に乗せた。俗に言う肩車だ。
急に高くなった視線に眠たげな瞳を見開くリュウ。
なんて羨ましい!
「ヒヨコ、ヒヨコも!」
「ヒヨコは我がやってやろう」
両手を上げてぴぃぴぃ鳴くと、魔王が私を肩車してくれた。
魔王の頭にしがみつき、ふんふんと鼻唄を歌う。リュウもブンブンと尻尾を振ってご機嫌だ。
「――よし、この辺りなら遊んでいいぞ」
広大な魔王城の庭を少し歩くと、肩から下ろされた。ふかふかの雪が私を受けとめてくれる。
肩車は名残惜しいけど、またやってもらえばいいもんね。今は雪遊びだ。
「リュウ、なにしてあそぶ?」
「すべりだい、つくる。あとかまくら。ソリもやるし、ゆきがっせんもする」
おお、珍しくリュウが饒舌だ。
よっぽど雪遊びを楽しみにしてたんだろう。
「おう、見ててやるからいっぱい遊べ~」
「……白虎も、あそぶ」
来て早々に雪の上に横たわり、見守り体制に入った白虎さんの尻尾を引くリュウ。
「はいはい、俺も遊ぶのな」
かわいい息子の誘いを断る気はないのか、白虎さんがのっそりと起き上がる。
「白虎、すべりだいつくって」
「ん? 俺が作んの? 自分で作りたいんじゃないのか?」
「おれは、すべる」
「ああ、俺が作ってお前が滑るのな。分かった分かった」
なんだかんだ息子に甘い白虎さんは魔法を使って雪の滑り台を作り始める。
「ほら、滑り台は作っといてやるから遊んできていいぞ」
「きゅ!」
「いい返事だ。……ん? この返事は俺の息子じゃねぇな」
かわいらしい鳴き声がした方を二度見する白虎さん。
「きゅっ!!」
聞き覚えのある鳴き声に振り返れば、母や兄ウルフたちに連れられたちびウルフの姿があった。
ブンブンとちぎれそうなくらい尻尾を振っているところを見るに、遊ぶ気満々らしい。
「ちびウルフもいっしょにあそぶの?」
「きゅ!!」
ちびウルフが合流すると、自然と追いかけっこが始まるのが最近の定番だ。
それから暫くの間、私とリュウ、そしてちびウルフの三人で雪の中を駆けずり回った。
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