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娘って、かわいい side デュセルバート





 うちの子が悲しい本を読んで泣いてしまったらしい。

 ヒヨコを探して図書館を訪れたら普段はあまり泣かない愛娘が涙をこぼしていたから驚いた。

 図書館の主のフレディが側にいたけど、穏やかな性格で子ども達も懐いている彼が原因のはずがない。他の誰かにいじめられたのかとも思ったけど、結局原因は悲しい内容の本を読んだだけだった。

 我の早合点だったね。


「おー、よしよし。悲しかったね、かわいいねぇ」


 ヒヨコを部屋に連れ帰り、未だに涙を流し続ける我が子を抱きしめる。

 泣いているからかいつもより体温が高いな。これ、発熱してるわけじゃないよね?

 子育てをするなんて長い神生じんせいの中でも初めてのことだから、我も手探りだ。

 そして、魔王も――


「――戻った。ヒヨコ、ヒヨコの好きなオレンジジュースだ。ケーキもあるぞ。今日は特別に食べ放題だ」


 大量のジュースやスイーツを乗せたカートを押して魔王が部屋に入ってくる。

 君、もしかしてそれ自分でここまで押してきたの? 今までそんなことをしたことないよね? 涼しい顔の裏でどんだけ動揺してんだ。

 今頃、城中が集団幻覚をみたと話題になってるんじゃないだろうか。


「こっちおいで」

「あ」


 当たり前のような顔をして魔王が我の膝からヒヨコを取り上げていく。

 まあ許してあげよう。


「ぴぃ」

「よしよし、もう泣くな」


 魔王がオレンジジュースの入ったコップに刺さるストローをヒヨコの嘴――おっと、今は人型だったね。ヒヨコの口に魔王がストローを差し出すと、真っ赤な目をしたヒヨコがちゅーちゅーと吸い始めた。

 よしよし、ちゃんと水分は摂ってくれるようだ。

 子どもサイズのものとはいえ、あっという間にコップ一杯のオレンジジュースを飲み干したところを見るに喉が渇いていたらしい。

 未だに潤んだままの瞳で魔王におかわりをねだるヒヨコ。


「仕方ないな、こんなにジュースを飲んでいいのは今日だけだぞ」


 そう言いながらも声音は優しく、コップに新しいジュースを注ぐ手は迷いがない。

 甘やかしてるなぁ。

 基本的にクールな言動だからあまり周りからはそう思われてはいないが、魔王は我と同じかそれ以上に親バカだ。ヒヨコを主に甘やかしているのは我の方だとばかり思われているが、実際は魔王も大概だ。

 気付いたら真顔でヒヨコを肩や腕、懐にしまい込んでいるし、食べ物は与えすぎると健康を害するから自制しているみたいだけど、物であれば際限がない。

 ヒヨコはあまり物欲がなく、おねだりもそこまでしないからちょっと買う量が多いかな? くらいで済んでいるけどね。


「リュウも飲むか?」


 ヒヨコのおかわりを注いだ後、ちびドラゴン姿でヒヨコのぬいぐるみに徹していたリュウに魔王が声をかける。


「……もらう、ありがと」


 揃ってジュースを飲む子ども達。

 いつも思うけど、本当に仲良しでかわいいなぁ。


 水分補給をした後、魔王に背中をポンポンされると二人はあっという間に眠ってしまった。コテンと眠るまでのスピードがほんとに赤ちゃんでかわいい。

 まあ、うちの子は十中八九泣き疲れだよね。

 ちっちゃい我が子とちっちゃいドラゴンを起こさないよう、魔王が慎重にベッドに運ぶ。

 こうなると、天下の魔王陛下の後ろ姿もただの父親にしか見えないね。





 長めのお昼寝から目覚めたヒヨコはすっかり泣き止んでいた。ヒヨコが泣き止んだことでリュウも安心し、白虎に回収されていったので今はいない。

 そして、すっかり泣き止んだ我が子は現在、ひよこ姿で自分の羽の毛繕いをしている。


「ぴぃ……」


 ヒヨコは我を見て少し考え込むように首を傾げた後、ぴょこんと膝に乗ってくる。そして小さな頭を我の服に

擦り付けた後、懐に潜り始めた。


 ――か、かわいい~……!

 なにこの甘えん坊な小鳥! かわいいねぇ、食べちゃいたいくらい愛おしい。


「どうしたの綿毛ちゃん。お腹に潜りたいの? 卵の時の記憶が蘇ったのかな?」

「ヒヨコは卵だったことないだろう」


 魔王からの冷静な突っ込みは我の耳を右から左に通過した。

 それよりも今はこの愛おしい生物だ。

 我のシャツの中に潜り込むヒヨコが、シャツの隙間からピヨッと顔を出す。


「~~っかわいい! どうしたの甘えん坊さん。我から産まれてきた時のことを思い出したの?」

「あんた直接は産んでないだろ」

「細かいことは気にするなって」


 そんなことないのは分かってるけど、なぜか腹の下でヒヨコの卵を温めたような気がしてくる。


 それから小一時間ほどヒヨコを撫でくり回し、かわいがると満足したようでピョコンと我の膝から下りてしまう。

 ああ、もうちょっといてくれてもよかったのに……。

 我の膝から下りた黄色い毛玉ちゃんは、迷いない足取りで魔王のもとへと向かう。


「ぴぃ! まおー」

「ん? どうしたんだ?」


 ヒヨコを見下ろす魔王は一見いつもと変わらない口調だが、その声音は明らかに柔らかい。

 昔はこんな優しげな声を出す魔王なんて想像もつかなかったのになぁ。魔王ひとって変わるもんだね。

 ヒョイッと魔王の手で掬い上げられたヒヨコは、悲しい本を見た後だからか我等に甘えたいみたいだ。魔王もそれを察しているようで、仕事の手を止めて頭や嘴を撫で回している。


 それから魔王にもかわいがられまくったヒヨコは、すっかりいつもの調子を取り戻した。


「おなかすいた!」

「うんうん、そろそろごはん食べに行こうね」


 人型になったヒヨコが魔王と我の手を引いて歩き出す。

 後ろから見える丸みを帯びた頬や、てちてちと歩く小さな足はまだまだ子どもそのものだ。



 ――父様達は置いていったりしないから、どうか健やかに育っていくんだよ。







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