15.親子面談(2)
──時計の針を見る。
16時半。
あれ? 今日って17時までの日だったような?
「おかえりなさ~~い」
玄関まで迎えに行こうとしたとき、ちょうど先生がリビングのドアを開けた。
「ただいま。変わったことは?」
「えっと……って先生帰り早くないですか? 今日って17時まででは?」
「あとカンパネラだけだからユーリに任せて帰ってきた」
「ぇ?」
うそおおおおおお?
その当たり前だろ? って顔は……
ユーリさんごめんなさい。
あれだけユーリさんが加入するの嫌がってた先生が、一番ユーリさんをコキ使っているように思えるのは気のせいでしょうか?
「これは?」
先生が例のものに視線を移し、聞いてきた。
「実はですねぇ……由紀さんと一緒に今日……先生のお父様ともお会いしまして」
「は?」
うん。驚くでしょう?
私はもっと驚きましたからね?
あのおじさんが、まさか目の前の貴方のお父上だなんて、先に言ってくれませんか? 私、卒業式にも貴方のお父上にお会いしてるんですよ?
しかもその時も、おじさんって普通に言ってしまってますからね?
先生に仕方なく、今日の経緯を説明する。
「あの野郎、余計なことしやがって」
先生が名刺の裏を一枚一枚見ながら、眉間に皺を寄せる。
明らかに不快な様子だった。
「Mカンパニーの代表と話しがしたいと。仰ってました。息子と話しがしたいとは言ってなかったですよ?」
「チッ」
珍しく先生が舌打ちする。
スマホを取り出し、何処かに電話をしだした先生を見つめる。
『明日12時にそっち行く』
え? 今のお父様?
それだけ??
ええええええええええ?
短か!
これ二人だけで会わせて問題ないのかしら?
佐々木さんも同席したほうが?
「これは?」
ソファーの上に山積みになった箱や紙袋の塊に先生が視線を移した。
「いらないって言ったんですけど……由紀様も遠慮しないでって……お父様が」
「あいつ頭おかしいのか? 俺が付いてるってのに」
先生が呆れた顔をした。
「中身見ます?」
「箱と袋見れば分かる。趣味悪っ」
「えええええええええ?」
「年考えろって。18の餓鬼に、まだ早いに決まってるだろ」
餓鬼って……
ですよね……すんごいお高い服やバッグや靴でしたもの……
え? 桁間違ってるってぐらい……
「援交かと思われるわ。こんなの持たせてたら。阿呆が」
「先生……流石にそれは……」
オレンジ色の箱に入ったバッグってたまたま入荷したばかりで超ラッキーだったらしいんですよ? 先生?
しかもライトグリーンのすっごい可愛いんですけど?
「大丈夫ですよねえ?」
「何が?」
心配になって聞いてみた。余計なお世話かもしれないですが、先生って意外と短気? なところありません?
ユーリさんの時とかも……
いきなり蹴るとか……
いきなり明日行って喧嘩とかにはならないですよねえ?
「いや……いきなり喧嘩とかはないですよねぇ?」
「ハハハッ。ないよ」
その目は……
先生のその意地悪そうな目が怖いんですけど。
「どうする? 一応食物買ってきたけど」
「あ、有難うございます。でもお昼いっぱい食べちゃって……先生のをちょっとだけ分けてくれるぐらいで充分です。お皿取ってきますね~」
ソファから立ち上がり、キッチンに向かう。
「せ、せんせ。ちょっ」
後ろから抱きついてきた先生が首筋に強く唇を押し付けるのが分かる。
驚いて先生のほうを振り向こうとしたが、それを拒否されるように髪を掴まれた。
「俺以外が与えたものを身に付けるな」
「ぇ? だってお父様ですよ?」
再び振り返ろうとしたが、先生の顔で視界が塞がれた。
強く髪を掴まれ、激しく入り込んでくる先生の吐息に立つのがやっとになる。
でも、直ぐに先生は何もなかったかのように去っていった。
「せんせ?」
「笑っていいぞ。父親にさえ嫉妬してしまう愚かな男に」
「え?」
先生が嫉妬??
嘘!!
「なんだよ、文句あるのかよ」
「い、いえ。ないです。こ、光栄です?」
えええええええええええ?
今の録音しとけば良かった!!
「も、もう一回言って貰っても?」
「二度と言わねーよ」
背中を向けてしまった先生の後ろから、腕を出して言ってみる。
「えええええええ!! お手手痛いなあ~~腕痛いなあ~」
「は? お前が馬鹿だからだろ?」
「ひどおおおい! 先生のお父様が、預かった以上は全て先生の責任って言ってましたよ?」
「あ? 分かってるよ。だからこうして仕事セーブしてるだろ」
若干、怒った顔したが本当に怒ってない時の顔は直ぐに今は分かるようになった。
「すいません」
「手」
「あ、大丈夫です。もう。かなり良くなりましたし」
スイマセン。嘘を付いておりました。ごめんなさい。
「いいから、手」
「え?」
大丈夫だと言ったにも関わらず、ずっと無言のまま腕を摩り続ける先生の顔が優しくて、嬉しくて頬が赤くなる。
「週末デートしようか」
「え?」
「あ? 嫌なのかよ」
「いえ、行きます! 絶対行きます!」
「何方に?」
先生がソファの隅に山積みになっている塊を指さした。
「え?」
「気に入らないから買い直す」
は?
はぁ???
「え?」
「何か問題でもあるのかよ」
怖っ。圧すごっ!
御神家、怖っ!!
先生って変なとこに拘りますよねえ?
そう言えば高科先生が前にクマのぬいぐるみの時も言ってましたよね?
もう少しお金の使い方他にあるのでは?
と、言える雰囲気は到底今はなかった。
先生、物に罪はないですからね。
足で蹴るのはやめましょうね?
せんせ可愛い……
思わず笑ってしまう。
「あ? 犯すぞこら!」
「優しめでお願いしても?」
「阿呆か」
◇
「せ、せんせ……や、優しめって言ったのに……」
「手、大丈夫か?」
は?
今、言いますそれ?
「そう言えば、お前いつまで先生って呼ぶつもりだ?」
「ぇ?」
「貴志でいいよ」
「え?」
「無理です!」
「あ?」
そんな顔しても無理なものは無理でございます。
絶対無理ですからね?
新たな拷問の日がこの瞬間からやって来るのでした。




