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御神先生の秘蔵っ子─世界編  作者: 蒼良美月
第一楽章 嵐を呼ぶ男

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1.新たな挑戦

※「御神先生の秘蔵っ子」の続編になります。前作は出会い編として学生までを。今作からは二人の本来の目的「世界を取りに行く」為の世界編となります。

※前作からの登場人物紹介

・桜井 花音(主人公) 御神 貴志が生涯で唯一認める秘蔵っ子

・御神 貴志 花音の師であり花音の恋人 花音の卒業を機会に現在は彼のマンションにて同棲中

・高科 和樹 花音の高校時代の恩師:バイオリン

・天野 雪彦 花音の高校時代の恩師:ピアノ


 薄黄色に輝く朝陽が幸せな空間を包み込み、まるで私達を祝福してくれているかのような、柔らかで温かい陽射しが差し込んでいた。


 空は青く小鳥のさえずりが聞こえ、世界中の全てが私達を応援し、幸せを祈っているかの……

 ようでもなかった……


 ──ガッシャン


「きゃあーー」


 ()()やってしまった!


 床に散乱したスクランブルエッグと転がって行ったウインナー、ちぎっただけの野菜が醜い姿を覆い隠すように重なり、割れた皿の破片と混ざり、なんとも形容し難い光景が視界に広がっていた。




 ──ガチャリ



「これで何枚目だ?」


 先生が眠そうに目を擦る。

 至福な時間だけれど今は、そんなことを言っている場合ではない……


「起こしちゃいました? ごめんなさい」


 床に散らばった無惨な姿を片付けようとしゃがんだ時だった。


「触るな。危ないから!」


 先生の声に、手を止めた。


「無理しなくて良いって言ったろ。お前に家事をさすつもりはないって」


 先生が苦笑いしながら、床に散乱した物体を片付けてくれている。


「だって。先生に作ってあげたかったんだもん……」


「その気持ちは、全て音で返してくれたらそれで充分。今日から家政婦入れるぞ。決定事項な」


「……はい」


 言い返せなかった……


 先生と一緒に住みはじめた時からずっと今日までの問題点だった。

 先生はずっと家事は一切しなくて良い、家政婦を入れると。


 でも私は二人だけの生活が……

 それに先生のご飯ぐらいは作ってあげたくて。


 その気持ちに先生も折れて今日まではなんとか。春休みだったこともあり、私の時間が比較的自由だったからだ。


 自分のことだけで精一杯な私に情けなくなる。


「花音。おいで」


 先生に呼ばれて寝室に戻る。


「今直ぐ完璧を求めてないし必要ない。音もそうだ。完璧なんか客は望んでない、俺もな。今のお前のままでいい。料理は俺の誕生日だけでいいよ」


「せんせい!」


 優しく微笑む愛する人に飛びついた。


「誕生日ってまだまだ先じゃないですか?」


「今年は逃げるなよ?」


「まだ言います? それ」


 優しく頭を撫でてくれる先生に申し訳ない気持ちがいっぱいで……

 再び強く抱きついて、先生にキスをする。


「なぁ、いいけど、お前時間大丈夫か? 今日って面接だろ?」


 愛しい人の腕の中で、少し呆れた顔した先生の顔で我に戻る。


「はっ!! やばあああいい!! どうしよう! これ!」


「出る準備してなさい。片付けるから。送って行ってやるよ」


「ありがとう御座います!!」


「い、痛っ」


 ベッドから急いで飛び降りようとして、(つまず)いた。


「何も無いところで転けそうになるのまでは、面倒見切れんぞ」


 本当に申し訳ない……

 帰国してからも、毎日忙しく仕事をされていて、夜中までしていることもある先生だけど、私との時間もちゃんと大事にしてくれるし、私がこうして失敗を何度しても、怒ることは全くなかった。


 先生って怒ったりするのかしら?

 音楽では厳しいと聞くけれど……

 その厳しいと言われる合同練習が今日から始まる。


 ちょっと不安ではあるが、先生の指導を受けられる!

 と思うと、ワクワクする気持ちのほうが大きい。


 楽しみ~~






 ◇




 先生の車に乗って、先生に学校まで送ってもらうのって未だに慣れない。


 と、言うかこれ大丈夫なのか? と最初は凄く心配したが、誰も()()に何か言う人はいなかった。


「しかし、お前が面接官になるとはなぁハハハッ」


「笑わないで下さいよ。私だって驚いてるんですから!」


 去年の今頃、私は一般公募の特待生試験に「生徒」希望で同じ試験を受けた。


 高科先生が本来は担当予定だったが、御婆様がお亡くなりになり、急遽ご実家に戻らなくてはいけなくなった為、その代理として私に白羽の矢が。


「先生代わりにどうですか?」


「嫌だよ。今日、口頭面接だけだろ。どうでもいいわ」


「どうでもって……」


「それに俺もう、あそこの先生じゃないし」


「……そうでした」


 私が卒業すると同時にさっさと非常勤講師を退職してしまった先生。

 今後はオケ指導にアカデミーの講堂や練習室に行くだけでそれ以外の学校行事には参加しないと言われた。


「面倒な奴は一人で充分だわ。これ以上増えたら俺、寝る時間なくなる」


「……すいません」


 先生の意地悪そうな笑いに、謝るしかなかった。


「先生、一旦帰るんですか?」


「何処かで飯食って時間潰す。仕事あるし」


「音楽誌のですか?」


「いや、編曲何個か依頼受けてる」


「相変わらずお忙しい」


「お前ら養わないといけないから」


 先生が笑いながら言う。


「すいません……」


「これは俺の問題だから。ただ最初に言ったけど、ずっと一緒は無理だからな? そうなりたいなら、俺が他の仕事受けなくてよくなるように頑張れ」


「はい……」


「早く養ってくれよ」


 笑った先生の笑顔が眩し過ぎて、神の存在がより強く明確にされた気がした。


 神を満足させれる日が、そんな事が実際可能なのか?


 私にそんなことが出来る?

 神すら従えた先生を超える?


 大きすぎる目の前の愛おしい人に、改めて隣に居ることの重圧を感じた。






 ◇






 先生と別れ、慣れ親しんだ学校の門を私服姿で潜る。

 ほんの少し前まで、私はあそこで制服を着て「生徒」をしていた。


 全てがここから始まった。

 あの日、先生との出会いから。


 あの時、たまたま見た電車の広告から、私の世界は180度変わった。

 何の取り柄も無かった私が、音楽界屈指の至宝と言われる御神 貴志と、まさか……

 一緒に住むことになるなんて……


 あの時、こんな未来予想すら出来なかった。


 そんな凡人な私が──


 今度は世界に向けて、新たな挑戦が始まる──



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― 新着の感想 ―
新しい挑戦を心待ちにしておりました。 2人のこれからの活躍を期待しております。
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