それぞれの夜
五十七話
大広間では、晩餐会の準備が行われていた。
リライアの有力者や大商人と呼ばれる人物、城の文官らが集められ、すでに席についている。
「おお、これは見事な料理ですな」
「ええ、エギル様から当商会にご依頼いただきまして」
「ほお、あのエルフ様ですか」
エギルが上手く立ち回ってくれているおかげで、街の人々の評価も順調に良くなっている。
文官の一人が、会場中央へ歩み出た。
「お集まりいただいた皆様、これよりリライアンスの皆様が入場されます」
会場の視線が一斉に扉へと向く。
兵士たちが、ゆっくりと扉を開いた。
「おお、クリス様!」
「お綺麗ですー!」
ドレス姿のクリスが入場し、歓声が上がる。
その後ろから、ルーサーとガイが続いた。
「リライアンスの皆様ですよ」
拍手と歓声の中、リライアンスのメンバーが次々と入場した。
「あの方々はサントバールの駐在様らしい」
「それは重要なお役目ですわねぇ」
グロックとニーナが腕を組んで現れた。
続いて、ミーナとリア、そしてカシムが入場した。
「なんだか場違いな気もするな」
「ふふ……」
緊張したカシムを見て、リアが小さく笑っているのが見えた。
少しずつ、回復してきたのだろうか?
カシムには、感謝しないとな……。
その後ろから、アスペンとレオンが現れる。
「アスペン、ルーナちゃんは来てないのか?」
レオン、声が大きいな……。
アスペンが首を横に振ると、レオンは頭を抱えて叫んだ。
「ルーナちゃんのドレス姿見たかったー!」
会場がどっと湧いた。
まあ、こいつはこれでいいのかもしれない。
「エギル様!」
「エギル軍師閣下! ソフィア様!」
会場の声がさらに大きくなる。
エギルとソフィアが腕を組んで現れた。
エギルは笑顔だが、どこか引きつっているな……。
「ソフィア様は高名な魔法道具師なんですよ!」
さすがはエルフ、名前をよく知られている。
ソフィアはエギルに引っ付き、上機嫌だ。
「聖女様!」
「聖女様だわ!」
ヒナが現れた。
珍しくドレス姿のヒナは、儚い美しさで、思わず見惚れてしまった。
「痛てて! 何するんだよ!」
頬を思いっきり引っ張られた。
ミリアを見ると、ぷいっと向こうを向いている。
「何だよ……やきもちか?」
「なっ……!」
真っ赤になったミリアが、ぽかぽかと俺を叩いてくる。
「よそでやれ……」
溜め息をつきながら、ザックが部屋に入っていった。
「剣士様!」
「剣士ザック様!」
ザックも人気者だな……と思いながら見ていた。
「ディーデリックを処刑されたと聞いて、ザック様のファンになられた方は多いんですよ」
扉を押さえている兵士が教えてくれた。
まあ、あいつクズだったもんな……。
「ではマスター、お入りください」
兵士たちが深く頭を下げる。
腕を差し出すと、ミリアが腕を組んだ。
二人で、大広間へと入っていく。
会場から、驚くほどの歓声が上がった。
「マスター!」
「守護者様! 魔女様!」
「リライアンスの守護者、マクスウェル守護者閣下!」
「黒炎の魔女様、お綺麗です!」
震えるほどの大歓声の中、ゆっくりと進んでいく。
エギルに言われた通り、真っ直ぐ前を向いて歩く。
隣のミリアも、一生懸命に毅然と振る舞おうとしているのがわかる。
ふとミリアを見ると、こちらを見上げて微笑んだ。
それにつられて、俺の頬も緩んだ。
「まあ、見つめ合われて……」
「お美しい……」
思わず顔が熱くなり、慌てて前を向いた。
会場の奥。
進んでいくと、クリスが胸に手を当てて深く頭を下げた。
周りもそれにならって、順番に頭を下げていく。
一段高くなった席が見える。
その中央に、二つの席が並んでいた。
――俺とミリアの席だった。
◇ ◇ ◇
ロウルに着いた私は、早速ベネディクト・ロウルに近づく。
隠者で姿を消し、すぐ近くに張り付く。
ベネディクトは合理的な考えができる、有能な文官タイプの人物だ。
これは、マスターの交渉もうまくいくかもしれない……。
そんなことを考えていると、後ろに人の気配を感じた。
振り返ると、ベネディクトの妹――セシリアが立っていた。
この子はどこかヒナさんに似た、儚げな印象を受けた。
「どなたですの?」
えっ……私に気づいている?
「セシリア、誰かいるのか?」
ベネディクトが声をかける。
「いえ……どなたか、いらっしゃいますの」
「ああ……私には見えないが」
「まあ……目では見ることができませんの?」
この子は、何を言っているんだろう……。
その疑問は、すぐに消えた。
セシリアは――盲目なのだ。
だから、目が見えないからこそ、私に気づいたのかもしれない。
「誰だ? 誰かいるのか?」
ベネディクトが、見えない私を探している。
この場は早めに立ち去った方がいい。
そう思い、ゆっくりと離れていく。
マスターにいただいた、大切な仕事なのに……。
セシリアがいると、近づくのが難しくなる。
「あの方、どうしてあんなに悲しそうだったのでしょう?」
「はは……セシリアは、見えないものが見えるんだな」
二人の会話は、私の耳には届かなかった。
宿に戻り、一人で食事をした。
この街の名物らしい、鶏肉を蒸した料理だった。
味は良かったけれど――
何だか、味気なかった。
部屋の窓から、夜空を見上げる。
ふと、マスターの顔が浮かんで、ボヤけていく。
一人きりの夜だった。




