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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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新たな船出

「お願いがあります!」


 その声に驚いて振り返ると、そこにはカシムが立っていた。


「カシム……、もういいのか?」


「ご心配をおかけしました」


 カシムが深々と頭を下げた。


「しかし、ここで立ち止まってはエリナに申し訳ないので」


「そうだな……」


 エリナのためにも、か。


「そこで、僕たちはもっと強くならないといけない。そう話し合いました」


「うん、そう……」


「だからこそ!」


 何だ? びっくりしたな。


「僕たちのパーティーをギルドに入れてください」


 また頭を下げる。


「な……何で?」


「あなた方、リライアンスは強い。僕たちはリライアンスと共に行動することで、今よりも強くなりたいと考えました」


 本気なんだな……しかしな。


「僕たちのパーティーって言ったけど……みんな納得してるのかな?」


 特にあの、暴れん坊の……。


「はい、特にキャッシュなんかすごく」


 ええ、意外。


「アイザックさんみたいになりたいって」


「あ、なるほど……」


「マスター、よろしいでしょうか?」


 ルーナに呼ばれて少し外す。


「配下に加えればよろしいかと」


「配下って……」


「彼らにとって、我々が対等な関係では納得されないでしょう。力量の差がありすぎてミリアさんを守ることにも疑問を感じるのでは?」


「なるほど、じゃあ加える理由は?」


「ミリアさんの強すぎる力。それを隠すのは大所帯のギルドを作る。これは最適解かと」


 なるほどね、そんな理由でいいのか?

 人が増える、守るものを増やす。

 俺にとってそれは簡単な事じゃない。


 ミリアを守るためなら俺は……。

 胸を貫かれたエリナの顔が脳裏を過ぎる。


 いや、ミリアを守るためだ。


 道を決めよう、アイツを伝説のウォーロックにする。最初から決まっていた事だ。


「わかった、カシム達のリライアンス加入を認めるよ。一度みんなを集めてくれないか?」


「はい、わかっ……かしこまりました!」


 カシムがみんなを集めているうちに、ミリアの様子を見に行こう。


 ミリアの部屋をノックしたが、返事がない。

 ドアをゆっくり開くと、ミリアはベッドに寝ていた。


「ミリア、そろそろ起きないか?」


 声をかけても起きないので、ベッドの隣に椅子を置いて座る。

 眠っている間くらいは、何も背負わずにいられればいいと思った。


 葬儀で見たエリナの顔が、脳裏をよぎる。

 それ以上、考える前に視線を逸らした。


 寝顔を見ていると、眉間の辺りに皺を寄せて、「うぅーん」と言いながら目を開けた。


「あれ、マックス?」


「おはよう、ミリア」


 しばらくボーッとこちらを見ていたが、急に何かを思い出した様子で、「ここ……どこ?」と聞いた。


「サントバールの宿屋だよ。依頼が終わって戻ってきたんだ」


 そう言うとミリアの目から涙が溢れた。


「マックス……エリナが、エリナ……」


「うん、悲しかったね」


 頭を撫でると、ミリアは声を上げて泣いた。


 ミリアが泣き止むのを待って、あの後起こったことを順番に話した。


 エリナの葬儀に行けなかったことを悔やんだが、後で墓参りに行こうと決めた。


「じゃあ、カシムたちが仲間になるのね?」


「そうだ、少し人数が増えるから考えないとね」


「ザックも……うちに入るのね」


「ああ、まあ……ね」


 勝手に決めた俺を睨んでいたが、小さく溜め息をついた。


「あいつ、強いからね」


「そうだろ?」


「それに、マックスが決めたんでしょ?」


 真っ直ぐ俺を見つめる瞳が眩しくて、照れ隠しに思わず目を逸らしてしまう。


「じゃあ、行きましょう! みんなにも会いたいわ」


 そう言って、ミリアはもう一度だけ深呼吸をして立ち上がった。

 俺はその背中を支えながら、部屋を出る。


 食堂に降りると全員揃っていた。


「ここだと、手狭になってしまうな」


「そうですね、ギルドホームを考えたほうがいいかもしれません」


 ルーナはそう言うが、ギルドホームっていくらかかるんだ?


「当たってくれるか?」


「はい、マスター」


 頷き返して、みんなの顔を見回す。


「リライアンスのギルドマスター。マックスだ」


 マスター然としろって言われてたからな……。


「まずは、それぞれ自己紹介をしてもらう」


 喋り終わる前に、ミリアが前に出た。

 さっきまで泣いていたのが嘘みたいだ。


「ミリアよ! メイジ! 逆らうやつは消し炭にしてあげるわ!」


 カシムたちは引き攣った顔で拍手した。

 いや、怖いだろ。ほら、みんな引いちゃってる……。


「アイザック、前衛だ。以上」


 いや、愛想。まあザックには無理か……。

 キャッシュだけ目を輝かせてるな。


「ルーナです」


 ルーナとヒナが普通の自己紹介をしてくれて、少しホッとした。


 治癒士ヒーラーのリア以外は、もともとソロで活動していたらしい。


 だからだろう、全員が「自分の立ち位置」を無意識に測っているように見えた。


 カシムは盾職というわけじゃない。

エリナの隣に立つために、盾を選んだだけだった。

 一瞬だけ、カシムは少し寂しい顔をしたが、すぐに顔を上げた。その目に迷いは見えなかった。


 ハマンは採集が得意だと言ったが、

 その口調はどこか誇らしげで、戦いより自然の中のほうが落ち着くらしい。

 スカウトってルーナしか知らないから、こういう生き方もあるんだなと思った。


 キャッシュはアイザックの真似をして、

 当然のようにカシムに突っ込まれ、場の空気が一気に緩んだ。

 ——こういう役回りが、こいつの武器なんだろう。


 翌日、簡単な手続きを済ませるつもりでギルド本部へ向かった。


 受付でザックとカシムたちの登録をお願いする。


「マクスウェルさん、少しよろしいですか?」


「何か問題でも?」


「いえ、登録の話ではありません」


 何の話だ? あ、報酬かな?


「報酬の話なんですが」


 ほら、やっぱり!


「まずは、ウィート村をお救いいただきありがとうございました」


「いえ、断れるような話ではないでしょ?」


 そう言うと受付嬢は苦笑いした。


「まず、ウィート村の件が金貨二十枚です」


 どういう計算なのかわからないけど、多いのか少ないのかもわからない。


「そちらの犠牲者を考えると少ないとは思いますが、小さな村ですのでこれが精一杯です」


 なるほど、これはウィート村からなのか。


「なのでギルドからも金貨二十枚をお渡しします」


「……受け取ります」


「カシムさんのパーティーと半分ずつの予定でしたが、その必要はなくなりましたね」


 受付嬢が悲しそうな目をしてカシムを見ている。


「もう、いいのかな?」


 声をかけると受付嬢はハッとして、


「いえ、それと……」


 台帳を捲り始める。

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