感情の向こうに
「警戒任務のパーティーですか?」
俺が声をかけると、先に戦っていたパーティーの一人が頷く。
「パーティーは六人ですか?」
「いや、村の若い男が他の村人を逃すために混ざって……」
視線の先を見ると、若い男が血を流して倒れていた。
「イヤァァァ!」
依頼主のケミーが悲鳴を上げた。
「リテル、起きてよ。お願いよ」
ケミーが泣きながらリテルと呼ばれる男に縋り付く。
「……その方は亡くなっています」
「嘘……よ……」
表情を感じられない目つき、落ち着いた声でヒナが続ける。
「リアさん、そちらの方を」
「そんなっ!間に合いませんよ!」
確かに俺から見ても傷が深く、ヒールでは回復が追いつきそうにない状態だった。
「では、軽症の方をお願いします」
「はい」
ヒナが手を構え、深い傷を負った冒険者にヒールをかけると傷が見る見る癒えていく。
「そんな……!」
リアは目を見開いた。
彼女の知っているヒールとは、明らかに違っていた。
「エ、リナ……」
ミリアがエリナに駆け寄る。
動かなくなったエリナの手を握って、肩を震わせている。
ミリアから不穏な感情が流れ込んでくる。
「終わり……ましたかのう?」
酒場の中から老人が顔を出した。
「リテル……そうか……」
悲しそうな顔をしていた老人の顔が強張る。
「す、少ない……」
「どうしましたか?」
「村を攻めて来た盗賊は、この倍はおったよ!」
老人が興奮気味に訴える。
離れた場所から蹄の音が聞こえた。
「おじいさん、酒場に戻って!」
老人を急いで酒場に入れる。
これ以上、こんな姿を見せたくない。
ミリアがゆらりと立ち上がる、まるでその魔力が可視化されたかのように揺らめいている。
ダメだ、もう抑えられる線を超えてしまった……。
杖を構えたミリアが詠唱をはじめる。
向かってくる盗賊の数は、十人……いや、二十人近くいる。
「耐えられない奴は目をつぶってろ!」
無意識にそう叫んでいた。
ミリアの魔力が放たれた瞬間、
全身から力が抜けた。
立っているのが、やっとだった。
ミリアの後ろに下がっていたが、それでも爆風で体が焼けるように熱かった。
炎の眩しさで目が眩む……。
遅れて爆発音が聞こえた後、そこには盗賊と馬だった物の黒い塊が飛び散っていた。
振り返ったミリアは涙を流していた。
「マックス……エリナが……」
ミリアを抱きしめると硝煙の匂いが鼻についた。
「ミリア、もう大丈夫だ。少し休めばいいよ」
俺がそう言うとミリアの体から力が抜け、意識を失った。
「相変わらず、恐ろしいな」
ザックがミリアの顔を覗き込む。
「バアさんの指輪してて、それかよ」
ミリアの手に祖母から贈られた指輪が光っていた。
「とりあえず、終わりだ。村の人に説明しないとな」
俺がそう言うと、一同は俺を見て頷いた。
酒場の扉を開き、終わったことを告げても村人達はすぐに動こうとはしなかった。
いや、動けなかったんだろうな。
俺が抱き抱えているミリアに、村人達は一瞬だけ視線を向け、すぐに逸らした。
それが、普通の反応なのかもしれない。
「盗賊の死体は、お願いできますか?」
「もちろんです、この度はありがとうございました」
先程、顔を出した老人が深々と頭を下げた。
外へ出て、みんなに向かって頷く。
歩きはじめるとリテルのそばで蹲っていたケミーが立ち上がり、頭を下げた。
彼女もそれが精一杯なんだろうな。
帰りはエリナの遺体を囲むように、カシム達は一つの馬車に乗り込んだ。
ギルドへの報告が終わり、エリナを埋葬する為に教会に向かった。
「何から何までありがとうございます」
「いいよ、一緒に戦った仲間だろ?」
そう言うとリアは少し笑って、深々と頭を下げた。
その向こうで、エリナの墓を見つめながら強く拳を握るカシムの姿が、頭から離れなかった。
「ミリアを休ませたいから、先に宿に戻るよ」
そう言って、俺たちは教会を後にした。
「やはり、何も感じません」
ヒナがポツリと言った。
「何を?」
「聖女は、痛みや傷に反応するものだと……思っていたんです」
そう言って俯いてしまったが、
その目は何かを求めていて――
落ち込んでいる、という感じではなかった。
「マックス、ちょっといいか?」
ザックが改まって、どうしたんだ?
「俺も、お前らのギルドに入れろ」
「は?どうしたんだ急に」
「マスター、私も賛成です」
ルーナまで、一体どうした?
「お前もミリアも、無駄死にさせるには惜しい」
「あの方なら、信頼の代償のカバーが出来ます」
確かに、ミリアを守る俺のカバーには最適な男かもしれない。
「……あんな死に方は、もう見たくねえ」
「わかった、明日ギルド本部で報酬もらう時に手続きもしよう」
宿に着くと、ミリアを部屋に寝かせて食堂に集まった。
あまり食欲は無かったが、酒と軽食を頼んでチョビチョビと口に運んだ。
それぞれが自分の事を考えている時間のような、そんな空気だった。
「お願いがあります!」
食堂に響くような声に驚いて、俺たちは振り返った。




