表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/32

歪な盾

 サントバール北西の村 ウィート


 まだ日が昇らない、辺りが暗い時間に男は目を覚ました。


「リテル、畑に出んのかい?」


「ああ、行ってくるよ」


 リテルと呼ばれたこの男は、この村で生まれた。


 暗いうちに畑に出るのは仕事が好き、だからではない。


「おはよう、リテル」


「おはよう、ケミー」


 幼なじみで密かに憧れているケミーに会えるから、それだけの理由だった。


 いつも通り畑仕事をはじめる。


 空が少し白んできた時、遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。


「これは……蹄の音だ!」


「えっ!」


 三拍子で迫る蹄、不規則に金属を擦り合わせるような響き。

 奇声のような雄叫びが、耳に届いた。


「これは……盗賊だ」


 リテルは落ち着いてケミーを馬小屋に連れて行く。


「いいかい? この馬に乗ってサントバールまで走って。ギルド本部に駆け込むんだ」


「リテル、あなたはどうするの?」


「村の人を起こして、少しでも時間を稼がないと」


 たくさんの人が死ぬ、そう言いかけたが言えなかった。それは防げる未来ではなく、これから起こる現実だったから。


「早く行って! ケミーが捕まったら全てお終いだから」


 そう言って押された背中を振り返りながら、ケミーは馬を走らせた。


「リテル……」


 その声は風に攫われて、届く事はなかった。




「何よ! パッとした依頼がないわね」


 パッとした依頼ってなんだ……?

 ギルド本部の掲示板の前で、俺たちは依頼を探していた。


「今日は依頼が少ないですね、受付に聞いて来ます」


 そう言ってルーナは受付に向かった。


「まあ、いいのがなければ休みでいいんじゃないか?」


 ミリアが振り返り人差し指を立てて、メトロノームのように左右に振る。


「あまいわね。そうやって言い訳して休んでると、あっという間に引きこもりになっちゃうんだから!」


 いや、お前の場合は魔法をブッパしたいだけだろ?と喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。


 戻って来たルーナが眉を下げながら言った。


「ダメですね、今日の討伐依頼は無くなってました」


 ミリアがガックリと肩を落とす。


「何でもウィート村での盗賊警戒任務があったようですが、別の冒険者パーティーが受けたようです」


「仕方ないわね、また草刈りでも……」


「助けてください!」


 受付に助けを求めるその声は、広場に響いた。

 す胸の奥が、嫌な予感で締めつけられる。


「この場にいる冒険者の皆様は、こちらにお集まりください!」


 受付嬢がカウンターから身を乗り出し、広場に向けて声を張り上げた。


「ウィート村が盗賊の襲撃を受けたようです! 

警戒任務に当たっていたパーティーも、まだ戻っていません。ギルド本部より、盗賊討伐任務を依頼します!」


「マックス!」


 ミリアが即座にこちらを見る。

 ……そんなに目を輝かせて受けるような依頼じゃないんだがな。


「受けていただける方は、この場に残ってください」


 まあ、断れるような内容じゃない。

 そう判断した冒険者も、確かにいた――が。


「盗賊って、アレだろ?最近噂の……」


「うちはゴメンだね。命あってのナントカってやつさ」


 ざわめきと共に、人が引いていく。

 複数いたパーティーも、その大半が広場を離れていった。


 残ったのは――

 俺たちと、もう一組の五人パーティー。

 それから――。


「あ? 何か文句あんのかよ?」


 聞き覚えのある、ぶっきらぼうな声。


「アンタ! マックスに喧嘩売っておいて、人助けって何よ!」


「は? 人助けして文句言われてりゃ、世話ねえな!」


「ううう……ザックゥ!」


 ……どうやら。

 ミリアとアイザックが、もうやり合っていた。


 ギルド本部が用意した二台の馬車に乗り込む。

 ホロの中は、汗と布が焦げたような臭いがこもっていた。


 俺の隣にはミリア。

 その向こう――俺を挟む形で、ザックが座る。


 ……嫌な予感しかしないんだが。


 向かい側には、五人組のパーティーのうち、

 盾を背負った青年と、杖を持った女性が腰を下ろしていた。


「じ、自己紹介でも、しようか」


 沈黙に耐えきれなかったのか、俺が切り出す。

 俺とミリアは簡単に名乗った。


「アイザック」


 ザックは、それだけ。

 それ以上話す気はなさそうだ。


「僕はこのパーティーのリーダー、カシムといいます。こちらはメイジのエリナです」


「よ、よろしくお願いします……」


 ほら見ろ。

 エリナさん、完全にザックを警戒してるじゃないか。少しは愛想というものをだな……。


「討伐任務は、よくやるんですか?」


 会話をつなぐように、俺が聞く。


「いえ、普段は簡単な薬草採取ばかりで。

 今回みたいなのは、正直あまり……」


 そう言って笑う顔から、根は真面目な好青年だと分かる。


「他のメンバーのことも、聞いていいかな?」


「はい。治癒士ヒーラーのリア、スカウトのハマン。それから――」


 エリナが一瞬、言葉を濁した。


「……暴れ者のキャッシュです」


 含み、ありまくりだな……。


 その後は到着後の戦闘について相談しながら馬車に揺られていた。


 村より少し離れた場所で馬車が急に止まった。


「降りてくれ、ここから先は危ないから近づきたくない」


 御者がそう言うのも無理はない、ここからでも村から上がる煙と金属がぶつかる音が聞こえる。


「わかった、待っててくれるのか?」


「ああ、安全のために少し引き返した場所で待機しているよ」


 馬車から降りて、全員の顔を見る。

 暴れたくてウズウズしてそうなのが三人いるな……。


「さあ、行こうか」


 気づけば全員の視線が俺に集まっていた。

 一行は村に向かって進みはじめた。


 村に入ると、別の冒険者パーティーが酒場の入り口を守るように戦闘していた。


「ルーナ」


 俺が声をかけるとルーナは黙って隠者ハイディングを使った。


「慎重に、隙をついて一気に……」


 一気に叩こうと言いかけたが、計画は破綻してしまう。


「うおおおお!」


 雄叫びを上げてキャッシュが集団に突っ込んでいく。まずいな。


 ちらりとザックに目をやると、溜息をつきながらキャッシュに続いた。


 一番手前の盗賊をキャッシュが斬りつける。

 しかし、すぐに囲まれて退路を絶たれた。

 はぁ……もう止められないな。


「キャッシュ!」


 カシムが叫ぶ。


「どけ! 死にてえのか!?」


 後ろから突っ込んで行ったザックが、キャッシュを囲んだ三人を剛腕で殴り倒した。


「ザックに続くぞ!」


 盾を構え、ザックの背を追うように距離を詰めていく。


 残りは六人か。

 盗賊たちは慌てはじめる。

 だが、そのうちの一人が――


「ち、近づくな! コイツを殺すぞ!」


 カシム達の顔が青ざめる、だが俺には確信があった。


「ち、近づくなって言ってるだろ!?」


 盗賊が手に持っていた短剣を振り上げる。


「がっ……!」


 盗賊達の後ろから現れたルーナのナイフがそいつの首を貫いた。


「へっ、やるじゃねえか!」


 ザックが前に出る、カシムが盾を構えてエリナが詠唱をはじめた。


 勝利を確信したその時。


 建物の陰に隠れていた盗賊の剣が、エリナの胸を貫いていた……。


「うわあああ!」


 カシムがエリナの胸を貫いた盗賊に剣を振り下ろす。


 舌打ちをしたザックが残りの盗賊を次々と殴り倒して行く。


「ヒナ! 回復だ!」

 

 ヒナを見ると、震えながら首を振っている。


「ヒナ……!」


「……ヒナ?」


「無理だ、もう死んでる」


 盗賊を仕留めたザックが、俺の肩を掴んで止めた。


 酒場前にカシムの慟哭が響いた。


 誰も、次の言葉を見つけられなかった。




 ……聖女セインテス


 何度も、何度も。

 心の中で祈るように唱えた。


 でも。

 何も、起きなかった。


 いつもなら、ほんの微かでも感じるはずの反応がない。

 癒える兆しも、流れも、気配すらも。


 ――ああ。


 この人は、もう。


 膝が、勝手に震えだす。


 治せなかった。

 間に合わなかった。

 それ以上に――


 私は知ってしまった。


 マスターの力は、

 「命を救う」ためのものじゃない。


 誰かが生き残る結果の裏で、

 “何かを肩代わりしている”力だ。


 だから。

 死んだ人には、届かない。


 ……じゃあ。


 もし、守れなかった時。

 その代償は、誰が払っているんだろう。


 視線の先で、

 マスターは黙って、盾を下ろしていた。


 その背中が、

 さっきより――少しだけ、遠く見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ