第64話:真なる王の建国宣言(第二部・完)
北、北東、北西、南、南東、南西。
六つの頂点に位置する「関所」という名の宿場町を通り抜け、各国のVIPたちは驚愕していました。
そこにあるのは、ただの防御壁ではなく、旅人を骨抜きにする「おもてなし」の洗礼。
そして、その関所をすべて越えた先に待っていたのは、霧に包まれた森の最深部に燦然と輝く、この世の楽園――首都『ゼロ・ヘイヴン』でした。
タケルは今、白米の香りと共に、世界に向けてその名を轟かせます。
大陸の歴史が、音を立てて変わろうとしていた。 連邦国の中央、かつては魔物だけが跋扈していた「禁忌の森」の最深部。 そこには今、ドワーフの石積み技術とアラクネの銀糸、そしてタケルの現代知識が融合した、文字通りの『聖域』が完成していた。首都、『ゼロ・ヘイヴン』。 六つの関所――ラシの要塞、ソラの学府、レミの教会、ファソの演武場、ミファの港、シドの遊園地。 これら全ての「宿場町」を命からがら(あるいは至福の表情で)通り抜けてきた各国の要人たちは、中央の正門が開かれた瞬間、言葉を失った。「……な、なんだ、この光景は。空気が……甘い?」豪華な馬車から降り立った帝国の皇太子は、眉間に刻んでいた険しい皺を、驚愕によって見開かれた目で見事に上書きしていた。 彼の目下には、アイアンビートルたちが整地し、タケルの『浄化の煙』が常に循環する、塵一つ落ちていない白亜の街並みが広がっている。 中心部には、地下から湧き出る温泉をドワーフの魔導炉で完璧な温度に管理した、巨大なスパ・リゾート施設。 そして、トウワから届いたばかりの畳の香りが漂う、和洋折衷の迎賓館がそびえ立っていた。「ヴァルゴア帝国皇太子、および各国の代表たる皆様。ようこそ、我らが父上……タケル様の庭へ」 執事服を完璧に着こなした長男のドレが、優雅に一礼する 。
その後ろには、アラクネ形態のシルヴィ、そして漆黒のドレスに身を包んだのじゃロリ古龍・紅が、圧倒的なプレッシャーを放って控えていた 。*** その夜、迎賓館の大広間。
最高級のシルク(シルヴィ製)を敷いた長机に、世界を動かすVIPたちが並んで着席していた 。
彼らは皆、先ほど入った「温泉」と「ビール」の魔力によって、すでに顔を赤らめ、政治的な殺気をすっかり霧散させている。「……待たせたな。飯、冷めないうちに食ってくれ」 扉が開き、一人の男が姿を現した。
ヤマグチ・タケル。35歳 。
彼はあえて派手な王冠もマントも身につけず、仕立ての良いスーツを纏い、片手にはいつものタバコ、そしてもう片手には――炊き立ての白米が入った茶碗を握っていた 。「さて、お歴々。……この一ヶ月、あんたたちは俺の子供たちが守る『関所』を通ってきたはずだ。そこで、この国の『おもてなし』の片鱗は味わっただろう?」タケルは、白米の香りを吸い込みながら、不敵に笑った。「北でラシの事務的な管理に閉口し、西でレミの慈愛に骨抜きにされ、東でミファの歌声に酔いしれた。……それが俺の国の『挨拶』だ。……だが、ここは違う。この中央都市は、戦うためじゃなく、あんたたちが日頃抱えてる重苦しい責任を、全部置いていくために作った」タケルは、手元の白米を一口、幸せそうに噛み締めた。「俺は、美味い飯を食って、静かに暮らしたいだけなんだよ。……だから、建国宣言をさせてもらう」タケルが、空いた手で空を指差した。 その瞬間、首都の上空に展開されていた六芒星の結界が、かつてないほどの輝きを放ち、連邦国全土を眩い光で包み込んだ。「これより、この森は**『ローテン・ヘイズ連邦国』**として独立を宣言する! 俺が許可しない限り、いかなる軍隊も、いかなる宗教も、この六芒星の内側には一歩も入れさせねぇ!」タケルの力強い声が、静まり返った大広間に響き渡る。「……だが。客として、平和を愛して金を落としに来るなら、これ以上の贅沢はねぇと約束してやる。……帝国の皇太子も、聖法皇国の使者も、今日からはただの『お客様』だ。……さあ、食え! これが俺の、そしてこの国の、最高の『平和の味』だ!!」 タケルがパチンと指を鳴らすと、ドワーフたちが運び込んできた特製料理が一斉に並べられた。
東和の白米、ワイバーンの熟成肉、エルフの秘境の野菜、ドワーフの最高級酒 。「……っ!! 美味い……美味すぎる……!」皇太子が、王族の作法も忘れて白米を掻き込んだ。 枢機卿は温泉の余韻に浸りながらワインを啜り、エルフの賢者は現代科学で調理されたサラダに涙を流している。武力でも、宗教でも、魔法でもない。 「温泉」と「飯」と「酒」。 現代日本のサラリーマンが培ってきた、究極の接待。 それこそが、タケルが導き出した「世界征服」の答えだった。「……タケル殿。認めよう。……ヴァルゴア帝国は、この国への不干渉を約束する。その代わり、この『米』と『酒』を定期的に我が国へ輸出していただきたい。……それと、一ヶ月に一度、私がここに泊まる予約を今すぐ取れ!」「ははっ、毎度あり。……ただし、予約は三ヶ月待ちだぜ?」タケルは、満足そうにタバコの紫煙を吐き出した。 六芒星の結界の外側では、いまだに利権を巡って各国が蠢いている。だが、その中心にあるこのリゾートだけは、もはや誰も壊すことができない「世界の聖域」となっていた。ヤマグチ・タケル。 異世界に転移して、Lv.99まで登り詰め、彼はついに手に入れた。 誰にも邪魔されない、最高に贅沢で、最高に美味しいスローライフを。建国の夜は、魔導花火の光と共に、どこまでも賑やかに更けていった。『スモーキング・サバイバル』 ――第二部:建国リゾート編・完
第二部、完結いたしました!
タケルが「カツ丼(白米)」を求めて始めた冒険が、ついに世界を黙らせる「究極のリゾート国家」の建国へと至りました。
六つの関所を宿場町とし、中央にリゾートを配置する構造が、見事に世界を屈服させましたね。
タケルの次なる目標は、リゾート内に「パチンコ・パチスロホール」を建設し、世界中の魔力を吸い上げること……あるいは「カレー」や「寿司」といった、さらなる新メニューの開発かもしれません。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
第二部(あるいは番外編)をご希望の際は、いつでもお声がけくださいね。




