召喚魔法陣
シスターに会うのは、フライターク伯爵の手下の小男がゾンビになってた時以来だ。
「ちょっと、探したよ?」
「探さなくても俺の居場所が分かるんだろ?」
「そうでもないのよ。ダンジョンの中は分からないし、いつも森で見失うし」
——それ以外は分かるのか……
「そんなことより大変なのよ」
「またゾンビか?」
「それはもう終わったの」
「伯爵の屋敷に火をつけたのはお前なんだろ?」
「今はそれはどうでもいいのよ」
「お前、最初からゾンビの原因がウイルス感染症って知ってたよな。この世界のこの時代にはウイルスは発見されてないのに」
「それも今はどうでもいいの」
「お前、どこの国の——」
「あのね、魔術師ギルドが襲撃されるの」
「え?」
「イグレヴ王国の精鋭部隊が今から魔術師ギルドを襲撃するの」
「え?」
「早く行かないと間に合わないよ」
罠を疑った。俺を街から離したい? 魔術師ギルドに行く途中で襲う? いや、意味が無いな。ってことは本当?
俺は走りだした。走りながらペプをハウスに入れる。停車場に向かうが、すでに馬車は終わってる。最近は物騒だから夜に城門を閉めているとさっきバーで聞いた。馬車は無理だし、走ったほうが早そうだ。
城壁をアクセルで難なく越える。幸いなことに今夜は月明かりがある。街道なら明かり無しで走っていける。
走りながら俺はアクセルを使う。地面を蹴る、と同時に自分の身体を前方に飛ばす。勢いがつきすぎてうまく着地できない時は、逆向きにシュートをかけて勢いを殺し、また走る。
そのうち、連続で自分をアクセルすることにより、空を飛べることに気付いた。自分を空中に飛ばし、放物線を描いて落ちる。落ちる途中でまた飛ばす。それを繰り返す。
森の上空を飛んでショートカットする。道は蛇行しているので、これで時間を稼げる。俺は相当な高所恐怖症だが、闇夜のおかげか怖さは薄い。逆方向にシュートをかけて着地する。
魔術師ギルドに着いた時にはマナが半分以上減っていた。そして、入り口で衛兵が倒れていた。事切れている。俺はギルドホールへ急いだ。
階段の踊り場に副ギルド長が倒れていた。ルーカスと言ったか。怪我をしているが意識はある。ヒール水を飲ませ、俺は先を急いだ。
メインホールでは、襲撃者十人がヴァレリウスを取り囲んでいた。エミリーがヴァレリウスの前に立って守っている。どうやらギリギリ間に合ったようだ。
「タクヤさん!」
「エミリー、無事か?」
「はい!」
俺はロングメイスを手に、敵とエミリーの間に割り込む。襲撃者たちは後ずさって少し距離を開けた。ヴァレリウスが落ち着き払って言う。
「タクヤ、こいつらの狙いは私のようだ。エミリーを連れて逃げてくれ」
「そういうわけにもいかないだろ。たった十人だし」
襲撃者を睨むように見回す。九人は先がかなりカーブしている短剣を構えている。曲刀ってやつか。中央に一人、武器を持っていない奴がいる。魔闘気の男だ。
「また会ったな。お前、ルスランだろ?」
「タクヤと言ったか。ゾンビ狩りのやつか」
「降参するなら命は助けてやるぞ」
「こっちの方が人数が多いが?」
端の男が横から襲いかかろうとしたのでロングメイスで牽制する。そして……。
——骨のお友達!
スケルトンを五体出した。
「エミリーとヴァレリウスを守れ」
スケルトンたちは一斉に顎をカチカチ鳴らした。
「なんだ? スケルトンだと!?」
「召喚魔法か!?」
「しかも無詠唱だと!?」
襲撃者たちは狼狽し始めた。
「ここは魔術師ギルドだぞ。召喚魔法くらい使えて当たり前だろ」
大嘘をついた。
「この部屋にも召喚魔法陣があるのか!」
真に受けたようだ。
「どうする? 降参するか?」
「一斉にかかれ」
ルスランが手下に命令した。こいつは俺の技を一度見ている。なぜ強気でいられる? 何か策があるのか?
――ディスアーム!
斬りかかってきた襲撃者たちの剣と鎧をストレージに吸い込んだ。俺に接近すればこうなる。ロングメイスをぐるんぐるん回して、防御が手薄になった襲撃者たちの手足を折り胴体を薙いだ。
「#####ファイアボール」
襲撃者の中に魔術師が混ざっていた。これが策か? だが、飛んできたファイアボールはストレージに吸い込まれ、消える。
――焼け石!
ストレージから放たれた焼け石二発は、魔術師の口と腹部に直撃した。
回り込んでヴァレリウスを襲おうとしていた襲撃者は、エミリーとスケルトンにぼこぼこにされていた。
残りはルスランだけだ。こいつには俺の必殺技ロックフォールを見られている。同じくとっておきにするつもりだった骨軍団も見られた。殺すしかない。
ロングメイスで三段の突きを繰り出す。俺の腕には敏捷性強化の魔法がかかっている。突きの速さはものすごいはずなのにルスランに難なく躱される。懐に飛び込まれて脇腹にパンチを食らった。コートのプロテクションの上からでも少し痛い。ロングメイスを振り回して突き放し、足に魔闘気を集中して、下段ローキック、上段回し蹴りのコンボを放ったが簡単に往なされた。
「お前の魔闘気は俺のとは違うようだな。どこで覚えた? ここで教えてるのか?」
「……」
「お前、召喚者なんだろ? 困るんだよなあ。異世界から勝手に呼び出されて俺の世界をぐちゃぐちゃにされるのは」
「お前らが戦争を企まなければ召喚されなかったらしいぞ」
ルスランの体術は俺の遙か上のレベルだ。どう仕掛けても切り替えされそうな気がする。プロテクションの剣なんか使おうものなら、うまく絡め取られて逆に俺に刺さりそうだ。
――さて、どうするか……
攻めあぐねている。それは向こうも同じようだ。ロックフォールを当てるには隙を作らないと。ブラインドを仕掛けてもお構いなしに組み伏せてきそうだ。アイスショットガンあたりをぶち込んでみようか……。
手下の一人が入り口から駆け込んできた。
「お頭、召喚魔方陣は壊しました」
「よし、ずらかるぞ。タクヤと言ったな。勝負はお預けだ」
ルスランは腰の小袋から煙幕の玉を取り出して地面に叩きつけた。
――逃がすか!
煙玉の対策は立ててある。俺は空気ごと煙幕を吸い込んだ。逃げるルスランの背中が見える。
――爆発の矢!
三本放った。三本とも、ルスランを庇った手下に刺さり、爆発した。ルスランは振り返らず逃げていった。
ヴァレリウスは怪我をしているが無事だ。エミリーがヒールしている。スケルトンを回収し終わると、ルーカスと魔術師ギルド員が数人やってきて、襲撃者の生死を確認し、生きているやつを縛った。
ヴァレリウスに聞いた。
「召喚魔方陣を壊したと言っていたが……」
「そのようだ。確認しに行く」
途中で魔方陣を破壊したと言っていたやつ、爆発の矢で即死だが、ヴァレリウスはそいつの腰袋から握りこぶし大の紫の石を取り出した。
ギルドホールの一つ上の階に、半径十メートルくらいの円形で、三十センチくらいの高さの台がある。これがどうやら召喚魔法陣らしい。台の端に先ほどの紫の石が嵌りそうな凹みがある。台は所々破損している。傍らにツルハシが落ちている。これを使ったんだろう。
俺はここで召喚されたらしい。ひどく酔っ払っていたので覚えていない。さっきも酔っ払っていたが、空を飛んで酔いが覚めた。
「完全に破壊されている」
ヴァレリウスが肩を落とす。俺は不思議と、どうでもいいような気がした。もう無理矢理召喚される人間がいなくなればいい。
「修復はできないのか?」
「タクヤ、この召喚魔方陣は元々この遺跡にあったものなのだ。失われた太古の技術が使われている。この魔方陣が先にあったからここを魔術師ギルドにした」
なるほど、それで王都から離れているわけだ。できるかどうか分からないが俺のIDEに魔法陣を記録できていれば、もしかしたら再現方法もあったかも知れない。なんにせよもう遅い。
ルーカスがヴァレリウスに報告にきた。
「ルーカス、何人死んだ?」
「ギルド員が十人、衛兵が五人、非戦闘員が六人です。敵は死者五人、捕虜が六人」
「分かった。ありがとう。捕虜を取り返しに来るかもしれないから見張りを立ててくれ。それと、明日、捕虜と一緒に王都へ移動する。指揮は全て任せる。非戦闘員の世話も頼む」
「承知しました」
と言ってルーカスは立ち去った。
「エミリーは反戦派だったな。残念ながらこれで開戦だろう。魔術師ギルドは解散になる。エミリーは冒険者ギルドを頼ってくれ。タクヤ、巻き込んでしまって済まない」
ヴァレリウスは力なく項垂れた。かける言葉がない。それとものすごい疲労を感じてきた。今日はいろいろありすぎた。
俺は魔術師ギルドのそばの森からハウスに入り、すぐに眠った。




