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バルログ

「ペプ、サイって初めて見たな」

「ナア」


 エミリーは呆けている。


 それにしてもスケルトンがエミリーを守ったのには感心した。特に命令はしてなかったが、自発的に動いたのか、口に出さなくても頭の中で考えた命令が伝わるのか。しばらく連れ回してみようか。


 エミリーを守ったスケルトンを護衛にしようとしたが、もうどのスケルトンだったのか分からなくなっていた。どいつも頭の中は同じはずだから変わらないか。仕方ないから新任骨先生を出す。パワーは抑えめだが、戦い慣れている。


「エミリーを守ってくれ、よろしくな」


 と言うと、骨先生はカタカタと顎を鳴らした。



「もう大丈夫です」


 しばらく休んだらエミリーがそう言って立ち上がった。


「一度帰ろうか」

「いえ、あとちょっとですから、先に進みましょう」


 気丈だ。


「護衛もいますし」


 骨先生は顎をカタカタ鳴らした。話が分かるのか。



 十二階へ降りる階段までは魔物は現れなかった。さっきのサイはもしかしたら守護モンスターだったのかも知れない。


 十二階は、また真っ暗だった。しかし、妙に暑い。だいたい理由は分かるが。


 光る石ころを投げながら慎重に進んでいく。しばらく進むと通路の先が、奥の部屋からオレンジの光が漏れて明るくなっていた。熱気も増している。


「エミリー、これを使え」


 以前に作った冷たい布を渡した。俺は首に巻いた。もう一枚をコートの下に入れて左胸にあてた。心臓に近い動脈を冷やすと身体全体が冷えるらしい。


「心の準備はできたか?」

「大丈夫です。見るだけですよね」


 バルログと言えばエルフの天敵だ。クォーターエルフのエミリーにとっても恐怖の対象だろう。っていうか、エルフの天敵なら人間にとってバルログは強敵を通り越して邪神レベルじゃないだろうか? エルフの心配より俺の方を心配すべきだ。



 俺は通路から顔を出して部屋を覗いた。


 広さも高さもドーム球場ほどある大きな部屋、その真ん中にそいつは座っていた。全身が炎を上げて燃えていて、赤黒く光っている。そのせいで容姿が掴みにくい。頭から左右に二本の角が生えているようだ。ドリルのような気がする。手には炎の鞭を持っている。意味があるのか分からないが時々地面に鞭を振り、バチッと音を立てている。鞭の先端は、やはりドリルのようだ。


 エミリーがつぶやく。


「あれが……火の悪魔バルログ……ですか」

「思ったよりちっちゃいな……」


 そう、想像してたより小さい。十メートルか二十メートルくらいあるのかと思ったら、俺と同じくらいの背丈のようだ。


「勝てるかな……?」

「戦うんですか!?」

「いや、だって、思ったより強くなさそうだし」

「でも燃えてますよ?」

「火を消せばいいんだな……」


——アイスランス!


 俺の一番の特大魔法をストレージから放った。氷の槍は二秒後にバルログの胸に刺さり、数瞬の後に冷気の大爆発を起こした。槍を構成していた水分が水蒸気となって視界を塞ぐ。大部屋が真っ白になった。冷気がここまで届き、首に巻いた布が氷のように冷たくなった。


「タクヤさん、倒したみたいです……」


 なかなか霧が晴れないが、エミリーのマナ視によると敵はいなくなったみたいだ。


「タクヤさん、磯臭いです」

「ああ、海水を使ったからな」

「どうして……」

「真水より海水の方が凝固点が低いからな」


 思いつきでインテリっぽいことを言った。氷を作るなら凝固点が高いほうがいいはず。単純に真水がもったいないから海水を使っただけだ。



 爆心地を中心に、広範囲で床が凍っている。少し離れたところに、炎の鞭が落ちていて、蒸気が立ち上っている。バルログは凍って粉々に吹っ飛んだようだ。だだっ広い部屋にバルログの死体が散乱しているのだろう。


 歩きまわって、なんとか凍った頭を発見した。もう燃えていない。顔が怖い。やはりドリル状の角が生えている。俺はそれをストレージに入れた。


「どうだろうエミリー、炎の鞭を使いこなせば相当強くなると思うんだが」

「使いこなすも何も、持ち運ぶこともできませんよ……」


 だよな。せっかくなのでストレージに入れた。永遠に燃えるとすれば、魔法道具屋の看板に最適だ。夜も明々と光る。ネオンのようだ。火事になるが。まあしかし、どうせチャージ式だろう。充填したマナが尽きたら火が消えるはず。


「炎の鞭の他にはドロップは無かったのかな?」

「タクヤさんが吹き飛ばしちゃったんじゃないですか?」


 そうだろうな……。これだけ広いと探せないし、まだ地面が凍っている。そしてむせ返るような潮の匂いがする。無理だな。



 目的は果たしたので、地上に帰ることにする。帰り道では、地下十一階から九階への隠し階段を発見した。九階から一階まで隠し階段を上り、隠し部屋に辿り着いた。隠し部屋の入り口は、松明掛けを手前に引くと開くというベタな仕掛けだった。


 俺たちはダンジョンを出て、冒険者ギルドへ向かった。



 冒険者ギルドで受子ちゃんに、


「たくさん倒してきたんだが、換金してもらいたい」


 と言うと、支部長のフィリーネの部屋に通された。


「エミリー、あなたまだ冒険者の真似事をしてるの? タクヤの邪魔をしてないでしょうね? って、あら? 随分いい装備をしてるわね……」

「エミリーのユニークスキルはダンジョンで役に立つ。魔法も武器も使える。頼もしいパーティメンバーだ」


 控えめにフォローした。実際のところ、この装備なら戦闘に慣れるだけで相当強くなると思うんだよな。マジックアイテムに自前でチャージできるのも強い。


「で、今日はどこに行ってきたの?」

「バルログを倒してきた」

「え?」

「申し訳ないが粉々にしてしまったので、死体は頭だけしか持って帰れなかった」


 俺はバルログの凍った頭をテーブルの上に置いた。フィリーネの顔が引き攣っている。


「この他にもツノウサギ多数、トゲオオカミ多数、死んだスライムの粘液、サイ、ここの倉庫より大きいイノシシがある。エミリーと山分けにしたいから買い取って現金精算してくれ」

「……冷蔵室に入るだけ入れてちょうだい。スライムとイノシシは買い取らないわ……」


 今日は金貨二十枚、後日残りを用意しておくから取りに来いとのこと。やっぱりドリルは武器に転用すると強いらしく、軍が高く買ってくれるそうだ。二日前に軍から内々に、今まで以上に買い取るからいいものを回してくれと依頼があったらしい。軍資金の出どこはあれだな……。


 その後、受子ちゃんにフォートモーラーの状況を報告した。地下九階と十一階が林になっているのは新情報だったらしく喜ばれた。直通の隠し階段のことは隠した。あの三人がキャンプをやめるまでは内緒にしておこうと思う。


 ギルドの掲示板には、『急募!解体職人』の掲示が出た。



 ダンジョンで過ごした日数は地上とほとんどずれていなかった。今は出発してから三日目の昼過ぎだ。腹が減ってきたのでランチにすることにした。商業区画のパスタ屋のテラス席で、俺の注文で作ったスパゲッティを食べた。ペプには水と生魚をあげた。


 食後に今回の精算をする。エミリーも頑張って魔物を倒したので、ギルドに売れた金は山分け、いろいろマジックアイテムを渡したので、その他のものは全て俺が貰うことになった。イノシシの肉が大量だ。


「いろいろもらっちゃって、タクヤさんには本当に感謝しています」

「気にするな。金持ちだから」

「一度、魔術師ギルドに戻ろうかと思います。ゾンビの件の報告もありますし。タクヤさんも一緒に行きませんか?」

「いや、俺は今回のことで何点か気づいたことがある。先にそっちを片付けてから顔を出すよ」

「わかりました。あたしは少し一人で修行します。戻ってきたら冒険者ギルドかバーに伝言を預けておきますね」


 エミリーは乗合馬車でギルドに帰っていった。俺は速攻、森でストレージハウスに入った。


「ペプ、やっぱ我が家は落ち着くなあ」

「ナア」


 ペプはトイレを済ませ、部屋で寝そべったあと、お腹のグルーミングを始めた。



 フォートモーラーで得たヒント、それは爆発する矢だ。刺さってから発火したり、冷気爆発したり、魔力爆発する。元の世界に、地球に接近する巨大な隕石を砕くのに、隕石の表面で核爆発させても効果が薄いから、穴を掘ってその中で爆発させて隕石を割り、地球を救う映画があった。巨大スライムを倒した時のように、敵の体内で発火したり爆発したりすれば効果はものすごいはず。


 矢もボルトも、木のシャフトの先端に矢尻が付いている。反対側には三枚の羽根がある。これが矢を回転させてジャイロ効果を生み出し、真っ直ぐに飛ぶ仕組みになっている。


 矢尻には石や鉄が使われている。俺は武器屋で矢を買ってきて、ストレージからホイホイ撃っているが、矢を作るとなるとものすごい手間で、俺にはちょっと無理だ。せめて数に頼らずに一発の威力を高められたら、と貧乏性の俺は思う。


 まずはIDEを開いて、アイスランスのコードを表示する。欲しいのは、魔法が敵に刺さってから爆発するまでの僅かなタイムラグのコード。画面を何度も上下にスクロールさせて、やっとそれらしいコードを見つけた。それをコピーし、今度はファイアボールの魔法のコードを表示し、接触と爆発の間にペーストする。そしてその魔法を矢の矢尻にエンチャントした。


——さて、試し撃ち


 と思ったが、こういうときに活躍する可哀想な犬には矢が刺さらない。骨だけだから。しばらく考えて、ストレージに入れておいた大オオカミの死体に撃ちこむことにした。


 森へ出て、死体を地面に置く。俺は弓が下手なので、シュートで矢を飛ばした。弓に比べて威力は落ちるが、刺さるから問題ない。


 矢が刺さって一拍置いてから、火炎爆発が発生し、大オオカミの死体の肉が抉れた。黒焦げになり、肉の焼ける匂いがした。矢尻は表面積が小さいため、大きな魔法陣を付呪することはできないが、この大きさでも充分な殺傷力がある。大オオカミの死体は穴を掘って埋葬した。友達だからな。死体に矢を刺したけど。


「ペプ、思ったとおりだったよ」


 ペプは寝ていた。ダンジョンでずっと抱いて歩いたから疲れたのだろうか? 俺の肩の上で寝ていたみたいだけど。


 俺は爆発する矢とボルトを計五十本作って、発射してストレージに仕込んだ。



 それともうひとつやりたい事があるが、今日はもう無理そうだ。IDEの操作はものすごい集中力が必要で、新しい魔法を作ったりすると精神的に疲れる。また後日にする。



 夕方になっていたので、俺はバーに向かった。


「リリー様から伝言をお預かりしています」


『会いに来い』とのことだった。ダンジョンから帰ってきてもいろいろ活動した。明日でいいだろう。


 俺はいい感じに酔ったので店を出た。



「ちょっと、探したよ?」


 店を出るとシスターが立っていた。




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