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筋トレ

 夢を見た。


 元の世界、アパートだ。知らない部屋だ。玄関の扉を開けるとすぐに台所が見えた。ゴミ屋敷のようになっている。何かが詰まったゴミ袋で床が見えない。ゴミや雑誌や食器をどかしてみるとでかいスケルトンウォリアーが寝ていた。声をかけると起き上がった。ゴミを片付けるように命令すると暴れ出した。ゴミが散乱し、壁には穴が開き、ガラスが割れた。収拾が付かないので逃げた。



  ◇◇◇◇◇



 目が覚めた。朝のルーチンは全て省略。腕枕で寝ていたペプを起こしてしまった。ハウスに入ってプロテクションをかけ直し、水と朝ご飯をあげた。


 スケルトンウォリアーが気になる。エミリーはまだ寝てる。IDEで見てみよう。


 スケルトンウォリアーは、地下神殿で捕まえたまま、特に調べることもなくストレージに収納していた。じっくり見るのは初めてだ。身体が普通のスケルトンより大きい。スケルトンが主に片手剣や盾を装備しているのに対し、ウォリアーは両手剣やポールアームを持っていたり、革鎧を着ていたりする。


 魔方陣は普通のスケルトンと同じく頭蓋骨の裏側にあり、コードもほとんど一緒だった。しかしコード部品のアイコンが一つ少ない。戦闘設定については、パラメータがスケルトンよりも大きく設定されている。試しに書き換えてみると、スケルトンより強くすることが可能のようだ。


 いったん弱めに設定して、オーナーを俺に書き換え、IDEを閉じてストレージから出した。見張りをしていたスケルトンと比べてみたが大きさと武器以外は違いがない。スケルトンの背丈がだいたい百七十センチ、ウォリアーは二百五十センチくらいだ。


「まあ、座れ」


 スケルトンウォリアーも女性なのかもと思ったが、命令を聞かず立っているから分からない。骨盤などの形で骨格から男女の区別がつくらしいが、俺にはさっぱり分からない。まあ、どっちでもいいが。


「魔物を探して見つけたら帰ってこい」


 スケルトンは顎をカクカク鳴らしたあと、何処かへ走っていったが、スケルトンウォリアーは突っ立ったまま動かない。


——あれ? バグってる?


 コードの書き換えで失敗したのだろうか? ストレージに戻してIDEで確認しようとしたら、スケルトンが帰ってきた。遠くを指差してカタカタ言ってる。指差した方を見たら、ツノウサギが五匹、ぴょんぴょん飛び跳ねながら近づいてきた。


「倒せ」


 するとスケルトンウォリアーが短くカクカクした後に、走って行って両手剣でツノウサギ五匹を全て斬った。スケルトンも参戦しようとしたが、ウォリアーがあっという間に倒したので、そのまま帰ってきた。


——もしかして、こいつは戦闘系の命令しか聞かないのか?


 まあ、追々検証しよう。エミリーが起きだしたので、骨三体を引っ込めて朝食にする。



「おはようございます。あまりよく眠れませんでした」

「次の階が目的地だな。バルログを見たらさっさと街に戻ろう」


 朝食には昨日のスープとフルーツとパンだ。


 薪を燃やすよりずっと高熱を出す炎熱の石を覚えたので、石窯さえ作ればパンを焼けるかも知れない。もしかしたらピザ、いや、ピッツァも焼けるかも知れない。


 俺が元の世界でよく食べに行ったピッツェリアには、丸いドーム状の石窯があった。石造りの丸い屋根は俺には組めそうにない。街か村の職人に頼んでみようか。良質な小麦粉の入手なんかも課題だな。ヒール水で栽培出来そうだが、俺は大麦と小麦の区別も付かない。



「そういやエミリーは非力だって言ってたな。筋トレはしないのか?」

「筋トレって何ですか?」


 あれ? 筋力トレーニングを知らないのか?


「筋力増強法だが……もしかして超回復理論とかも知らないのか?」

「チョーカイフク……?」

「筋力トレーニングで筋肉細胞を壊すと、修復する時により強くなろうとして、結果、力が増すんだが……」

「知りませんでした! タクヤさんってすごいですね!」


 元の世界じゃ常識だが……。中世じゃまだ発見されてなかったんだろうか? 顕微鏡が無いから細胞は発見されてなさそうだが、経験的にわかりそうなもんだ。


 俺は毎朝のルーチンの一つ、腕立て伏せをエミリーに教えた。超回復はすぐに始まるから、筋トレ直後にヒールした方がいいことも、筋肉痛にもヒールが効くことも教えた。一〜二ヶ月たつとエミリーがマッチョになったりして。腕力増強のアクセサリーのおかげですでにパワーはゴリラ並みだが。



 キャンプを片付けて先に進もうと思ったが、どこに階段があるか分からない。昨日は魔物を見つけて倒してうろうろしてた。先へ進む手がかりも道もない。


「ペプ、困ったな」


 ペプの顎をくしゅくしゅしたら、ペプはぎゅっとしてブルブルと震えた。



「試してみるか」


 俺はスケルトンのお友達を五体出して、階段を探すように、見つからなくても二十分たったら帰ってくるように命令した。ここに来て初めて、護衛とか探索とかの複雑な命令を出してみた。もっと凝った命令も出せるかも知れない。こいつら学習能力あるし。二十分が正確に測れるなら時計やタイマーの代わりになるかも。


「タクヤさん、スケルトンって便利そうですけど、ものすごくイメージが悪いですね……」


 そうなのか……。かっこいいと思っていたが……。なんだろう、骨に色を塗ればいいだろうか? ピンクとか、パステルカラーとか。いっそ花がらとか。って言ったらエミリーにジト目で見られた。



 そのうちスケルトンが戻ってきて、遠くを指差してカタカタ言った。なんとなく予想していたが、トゲオオカミが二匹付いて来た。


「やっつけろ」


 スケルトンに命令すると、戦い始めた。狼のツノがスケルトンにの肋骨の間に刺さる。ダメージは無いようだ。下向きに剣を突き下ろして、まず一匹を倒す。二匹目のツノが胸に刺さって肋骨を折り、体制を崩した。でもスケルトンはすぐ再生するから、問題ない。


 二体目と三体目のスケルトンにも戻ってきたが、やはりツノウサギの大群を引き連れてきた。ナイスな作戦だと思ったんだが……。


 俺はスケルトンウォリアーを出して、殲滅するように命令した。


 四体目のスケルトンは何も連れて来なかった。戻ってきてすぐに戦闘に合流した。


 五体目のスケルトンが戻ってきて、直立して顎をカタカタ鳴らしたが、直後に突進してきたサイに体当りされてバラバラになった。あんまり強くない長持ちタイプのスケルトンだが、普通にプロテクションをエンチャントしてる。それが一撃でやられるのか。


——マジか……


 サイの顔には一本のツノが生えていて、真っ直ぐなドリルのようだ。サイのツノは、骨でも牙でもなく毛で出来ているとテレビで見た。毛でできたドリル。このダンジョンでは様々なものがドリルだ。いったいどうなっているんだ。


 サイの胴体は鎧に覆われているように見える。この鎧は皮膚で出来ている。


 サイは、俺ではなくエミリーの方へ向いた。


——ヤバい!


 サイが突進する。一体のスケルトンがエミリーの前に立ち、サイの進路を塞いだが、粉々になり、エミリーと一緒に吹っ飛んだ。


——マジックミサイル!


 十発同時発射、念のため更に十発発射、おかしなことを言うようだが、マジックミサイルのショットガンだ。サイの尻に当たった。致命傷にはなっていないが、後ろ足の片方が動かなくなったようだ。


 俺はペプを下ろし、サイに駆け寄った。鎧のような皮膚の隙間を縫ってバスタードソードをやつの首に深々と刺した。反対側からスケルトンウォリアーがサイの首に何度も斬りつけている。結局俺の一撃がトドメとなり、サイは倒れて動かなくなった。


「エミリー!」


 素早くペプを抱き上げて、エミリーに駆け寄る。エミリーは目をまんまるにした表情のまま座って固まっていたが、どうやら無傷のようだ。


 見回すと戦闘は終わっていた。壊れたスケルトンは修復を始めていた。他のスケルトンは駆け寄ってきて、直立不動で次の命令を待っていた。


「タクヤさん、あたし、空を飛びました」

「うむ、いい体験をしたな」


 鉄の盾の中央部が少し凹んでいる。木の盾じゃ危なかったかも知れない。鉄の盾を渡しておいて良かった。


 俺は魔物の死骸とスケルトンたちををストレージに収め、エミリーに氷水を渡した。エミリーは一気飲みして、ふー、と言った。


「ちょっと待ってください。腕が痛いです」


 骨折か。エミリーのヒールの腕輪に魔法陣が浮かびあがり、光っていた魔石が暗くなった。


「もう、大丈夫です」


 エミリーは気丈にも立ち上がって歩き始めたが、心なしかひょこひょこしている。


「ちょっと休んでから行こうか」


 エミリーは木にもたれかかり、座り込んだ。


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