バスタードソード
夢を見た。
俺はシャワーを浴びようとしている。給湯器の熱々のお湯が出るやつだ。俺が服を脱いでいると、スケルトンがシャワーを浴び始めた。俺はパンツ一丁でスケルトンに文句を言おうとしたら、スケルトンが徐々に大きくなっていき、シャワールームの天井を突き破った。
◇◇◇◇◇
目が覚めて、朝のルーチンをこなす。街中なのでスパーは無しだ。そのためいつもより時間に余裕がある。ゆっくりと朝風呂に浸かって、髪を少し短くして、念入りに洗髪をした。
石鹸で洗髪するとごわごわになるが、俺は男なのでこだわらない。既婚者だし年齢的にも小綺麗にしてモテたいなんて思わない。なんだったらスキンヘッドや超短髪にしても構わないが、手入れが余計にめんどくさくなるから長髪にしている。石鹸がどういう質のものかわからないが、アフロのようになるならさすがに考えようかと思うが、今のところ大丈夫っぽい。洗っただけでアフロになる石鹸があったらそれはそれで発明だが。
明日はエミリーが来る日だが、今日は予定を立ててない。暇だ。マナが余ってるので、新しい骨のお友達を増やしたりしてマナと時間を使う。そしてペプと一緒に外に出た。あまり遅い時間に出ると人通りが多くなって、ストレージハウスから出てくるところを目撃されるかも知れない。
とりあえずペプを連れて冒険者ギルドに顔を出す。
「タクヤさん、大アリが出てきて困ってますー」
受子ちゃんが俺を見つけて駆け寄ってきた。
「なんかー、冒険者が大アリに追いかけられてトレインしちゃってー、ダンジョンの外にもアリが出てきそうですー」
「そうか。しかたないな」
トレインとは、ダンジョンの中で冒険者が大量のモンスターを引き連れながら逃げる行為だ。車両が連結した列車が走っていくような様からそういう名前が付けられたのだが、この世界には鉄道が無い。なぜトレインという言葉が使われている? 元の世界のスラングやネットスラングまでも会話に入ってくる。そもそもこの世界の言葉を俺が最初から理解できているのがおかしい。俺の脳内に不思議翻訳システムがあるのかも知れない。
大アリについては、可能性は低いが、もしかしたらリアルヒカリゴケにヒール水を撒いたことから間接的に俺が大アリを育ててしまったのかも知れない。ダンジョン攻略の障害になっていることだし、責任を持って掃討することにする。
「ところで、賞品の件はどうなってる?」
「両方とも討伐されて賞品を渡しましたー。敏捷性のアンクレットを着けた人は突然どこかに走っていきましたー」
気持ちは分かる。
代わりの、宝石を埋め込んだエンチャント剣を懸賞に懸けようとしたが、今は大アリ退治を優先にする。早速キャッスルヒルパートに向かった。
ヒルパートのキャンプ場は大賑わいになっていた。大アリのせいで低層の下級冒険者が追い出されたせいだろう。冒険者も多いが、サポーターの売り込みもたくさんいる。大アリの死骸を運ぶ仕事の需要をビジネスチャンスと考えているのだろう。
屋台もたくさん出ている。何かよく分からない肉の串焼きを売ってる。昆虫だろうか? だいたいは大ネズミと大イノシシの肉のようだが。他に店舗を持たない手売りの武器屋を見つけた。中古の武器の売買をしている。研ぎ屋も兼ねているようで、地面に置く回転式の砥石を抱えている。あの研ぎ機、魔法で自動で回ったりしたら便利だな。
他にもいろいろな行商がいる。携帯用食料や酒はもちろんのこと、水を売ってるのには感心した。確かにここからは水場は遠い。
キャンプをしているパーティの中に、肩口をざっくりやられている冒険者を見つけた。大アリに噛まれたのだろうか? 忍びないのでヒール水を飲ませたらすぐに回復した。シャワーの残り湯ではなく、最初に魔石を溶かして作った方のヒール水だ。エンチャントしたヒール素子は薄いが効果はあり、直ぐに怪我が治った。
そうこうしていると、ダンジョンの入り口から大アリが一匹出てきて騒ぎになっている。キャンプ場からは遠いが、倒さなきゃすぐにこっちにやってくるだろう。
先日は大アリに囲まれたときは、スケルトン軍団を呼び出して、俺はアクセルを駆使して戦った。さすがに楽勝だったわけだが。ここではたくさんの冒険者が見ている。手の内は明かしたくない。
なにしろアクセルを使えば、伯爵の屋敷に侵入することもできるし、梯子をかけずに王宮の王女の部屋に忍び込むこともできる。スケルトン軍団に関しては、どう考えても魔族とかネクロマンサーとか、悪者が使う下僕だ。
ロングメイスは昆虫相手にはイマイチ相性が悪い。奴らは固いうえに素早い。剣の方が良さそうだ。俺は肩掛けカバンの陰に隠して、ストレージからバスタードソードを出した。
一般的な片手剣のショートソードがだいたい腕の長さ、ロングソードがもう少し長く作られているのに対し、バスタードソードはさらに長く、そして重く作られている。片手で扱えないこともなく、両手で扱いやすい両刃の剣だ。俺はこれにプロテクションのエンチャントを付与した。
俺がこのバスタードソードを買った理由の一つが重心だ。剣先はショートソードと同じ幅だが、手元にいくに従って幅広になる。重心が手元の近くにある。叩き斬りには向かないが、振り回しやすく、刺突に向いている。そして、俺のエンチャントによって斬撃性能が高められている。振り回しやすいうえに、剣の重さを利用しなくてもさくさく斬れるはず。
それを確かめるべく、俺は大アリに向かって走った。ペプはお留守番だ。
盾を持った大柄の冒険者に噛み付こうとしている大アリの首を狙ってバスタードソードを振り下ろした。刃先は見事に節にヒットし、アリの頭は地面を転がった。
「ありがとうございます。不意を付かれて危ないところでした」
「気にするな。次の一匹はいけるか?」
「はい」
二匹が新たにダンジョンから出てきた。
「よぉ、間に合ったみたいだなぁ」
アーベルが走ってきて、俺に襲いかかろうとしていたアリの胴体をごつい剣で横から真っ二つにした。俺のバスタードソードより遥かによく斬れる……。
「兄さん、横取りしちまったか?」
「いや、全然気にしてない」
レオが楽しげに言った。レオのパーティなら大アリはいい獲物なんだろう。二十匹に囲まれたりしなければ……。
「レオ、新しい炎熱の剣をやるよ」
俺はかばんの陰から、インプラントして作った俺製の手が熱くならない三段炎熱の剣を出して渡した。代わりに古い炎熱の剣を引き取る。
「今までの十倍長持ちするはずだ」
「サンキュー兄さん、恩に着るよ」
ビアンカたちが追いついてきた。アーベルが荷物持ちの少年に言う。
「このアリを解体してぇ、終わったらキャンプで待っててくれ。タクヤァ、一緒に行こうぜぇ」
「いいだろう」
ダンジョンに入っていきなり遭遇したアリを正面から真っ二つにするアーベルを先頭に、レオ、ビアンカ、カール、もう一人の荷物持ちの順に並んで進んでいく。俺はその後についていった。これでは新しい剣を試せないが、奥に行けばいっぱい獲物がいるから別にいいか。
いつもどおり、入ってすぐの部屋にいる大オオカミ二匹に手を上げて挨拶する。大オオカミは大あくびをした。こんなところにいて他の冒険者に狩られないんだろうか? 不思議だ。
二階に降りると暗くなった。俺は光る石ころを手で投げた。光に大アリが映しだされる。こちらに気づいて走ってくる。
「#####アイスショット」
ビアンカの魔法がアリの顔にヒットする。怯んだアリの顔をアーベルが真っ二つにした。アーベルはいつも剣を頭の上に振り上げて斬っている。それしか知らないんじゃないだろうか? それでどんな敵も倒せるなら何の問題もないんだが。
更に前から接近してきたアリをレオが剣で刺す。クリーンヒットしなかったものの、剣から炎が吹き出てアリを焼く。
触角が溶けたアリは、俺がブラインドをかけた奴らのように、敵を見失って狼狽えているようだ。レオが追撃をしてアリは絶命する。
カールは三匹目のアリの背に乗って、触角を根本から切断した。ウロウロしだしたアリをアーベルが仕留めた。
「兄さん、この剣すごいな! こんなに火が出るのに手が熱くない!」
気に入ってもらえたようだ。俺の出番が無かったが、まあ、照明係でいいか。
アーベルがアリの死骸の腹を切り裂いて、荷物持ちがナイフで捌いている。レオとカールも同じようにアリを解体している。ここで小休止のようだ。普通はこうだよな。アリの死骸を丸ごとストレージに入れたりしない。こんだけ堅い甲殻と鋭い鉤爪なんだから、何かいろいろ使い道があるんだろう。何に使うか分からないが。鎧かな?
それにしても、アリって触角が弱点なんだな。よく切れる剣があれば余裕だな……。
小休止が終わり、こんな感じで危なげなく地下三階まで進む。俺は光る石ころを投げて明かりを確保した後、対アリ戦法を試してみたくなったので、先に四階に飛び降りてうろついているアリを三匹、触覚を切ってから頭部を斬り落とす戦法で仕留め、ストレージに入れた。
アーベルの所に戻ると、他のパーティも追いついてきて、先に進んで戦っていた。
「アーベル、もう脅威は無さそうだから帰るぞ」
「おぅ、ありがとぉ、俺らはもうちょっと稼いでいくよぉ」
アーベルたちのペースに合わせて時間がかかったせいで、ギルドに帰ってきた時は昼をかなり回っていた。受付でフィリーネを呼び出した。
「アリの件は片付いたようね」
「アリの死骸が二十数体ある。買い取ってくれ」
「いいわ。アリは高く売れるのよ」
冷蔵庫の一角に積み上げた。全部で金貨十二枚になった。
「トロールよりは儲からないな」
「これでも他のパーティよりも高く買い取ってるのよ。充分でしょ」
まあ、弱点がある雑魚だしな。囲まれなければ問題ない。
俺はペプと街をぶらぶらして、バーで飲んで、街の北門から出て森に入り、ハウスに入って寝た。




