表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/145

カイ

 王宮の窓から飛び出した後は、アクセルを繰り返して走った。とにかくすぐに離れたかった。街の外の森でハウスに入った。


「ペプ、ペプ、大変だったな」


 ペプはそれに答えず、すぐにトイレで用を足した。


 超大金持ちにはなれなかったが、元々金持ちなのでそこは残念には思ってない。


「ペプ、宝石だけでもらっちゃってもよかったかな」


 エンチャントに使えるから欲しかったな。まあしょうがない。



 ジンをロックで飲んでると、だんだんと緊張が解けて、ゾンビ事件解決の満足感が出てきた。シスターについては気になるけど、そのうち会えそうな気がする。っていうか、なんかのスキルで監視されてるんじゃないのかな。呼んだら来るんじゃないか?


 疲労感はすごいが、気が張って眠れそうにない。自分スリープを掛けて眠った。



  ◇◇◇◇◇



 目が覚めて、淡々とルーチンをこなす。


 金貨数万枚をゲットしたがすぐに去って行った。さすがに堪えた。俺は小市民なので、本当に俺のものにしてもいいのかどうか迷ってて、多少の罪悪感があったから、こういう形になってすっきりしたのは確かだ。


 ストレージ魔法のことが国にバレてしまったが、今は考えないことにしよう。トラブルになるようなら他国へ逃げるか。その時は逃げる前に王国の宝物庫に忍び込んで……。



 思い返してみると、昨夜は最終的にうやむやになった気がする。リーゼロッテはあれで満足しているだろうか? まあ、少し時間が必要だろう。伯爵に対する処罰が確定したら決着するだろうし。俺は俺の目的へ向かって邁進するか。だが、まずは……。


「ペプ、今日は一日休もう」

「ナア」


 休むって言っても暇なんだよな。娯楽がない。ビーチに行きたい。さすがにやるべきことを放り投げてどこにあるかも分からないビーチには行けない。外をぶらぶら散歩でもしようか。



――雨だった……



 ますますやることがない。しかたないので戦闘準備っぽいことをする。伯爵からゲットしてコピーしておいたインプラントって魔法を検証してみよう。


 IDEを開いてコードをのぞいてみる。他の魔法のコードと同じく、なんとなくしか理解できない。魔法準備とかそういう手順はなく、『インプラント』のコードだけ存在してる。やってみるのが一番早いか。


 俺はアイコンをIDEの画面の下部の、使用魔法領域にセットした。


——インプラント

——金属に宝石を埋め込む

——埋め込みたい金属の上に宝石を置いて魔法を発動


 と、スクロールにメモしてあった。俺は片手剣を一本と、小さく赤い宝石を一個用意した。剣の束のところに宝石を置いて、人差し指で軽く押さえる。


「インプラント」


 魔法が発動して、ゆっくりゆっくりと宝石が剣に吸い込まれていく。十秒程度で完全に埋まった。マナは三パーセントほど減った。思ったより食う。


 ペプもお座りしてその様子を見ていた。心なしかいつもより目がまんまるな気がする。



 IDEを開いて剣をチェックする。まだエンチャントをしていない。試しにどこかでゲットした片手剣に炎熱をエンチャントしてみる。


 炎熱のエンチャントの魔方陣は、必ずしも剣の刃先に設置する必要はない。効果範囲の設定のみ剣先にすればいい。どっちにしろ柄も細いので、大きな魔方陣は設置できない。


 魔方陣に充填できるマナ量は、魔方陣の面積に比例する。炎熱の剣の発動回数は約二十回だ。使用者の意思で使用のオンオフを切り替えられるので、必要なときだけ発動することができるが、それでも二十回は少ない。


 もちろん俺なら剣を何本も瞬時に交換して使用したり、ストレージに入れてマナを充填できたりするから問題はない。


 しかし、剣に宝石を埋め込むことで、マナの充填量が圧倒的に増える。発動回数を増やせるし、回数を犠牲に効果を強化することができる。簡単に言えばめちゃめちゃ強くなる。



 俺は剣に、俺オリジナルの手が熱くならない三段炎熱の剣をエンチャントした。IDEのウインドウに表示されるマナ充填量メーターの最大値が、今までの三段炎熱の剣の十倍になった。発動回数二百ってことか。魔術師用スタッフのエンチャントでも実感してたけど、宝石すげえ。基本的に綺麗なだけのただの石ころじゃなかったのか。



 宝石も、おそらく内部の傷とか、カッティングしてあるかどうかで充填量が変わる。見た目が綺麗なほどいい。どういう仕組みなのか。


 ストレージにはダンジョンからゲットした宝石の原石がいっぱいあるから、大きめのものは貴金属店に依頼してカッティングしてもらおうか。


 複数の宝石をインプラントするとどうなるか試してみた。決戦用ナイフに宝石が何個も嵌まっていることからだいたい結果は想像していたが、宝石を増やすと単純にその分のマナ充填量が増える。たくさんインプラントすれば最強の剣ができるんじゃね? と思ったが、剣をなくしたり折られたりするリスクを考えると、そこそこ強い剣を何本も用意する方がいいだろう。何しろ俺ならディスアームして剣を奪えるし。



 宝石を二つ埋め込んだやや狭い幅広の剣には、効果四倍のプロテクションをエンチャントした。すんげえ硬くて鋭いはず。四倍は相当マナ効率が悪いが、マナ充填の多さでそれをカバーする。


 発注しているロングメイスが出来上がったらすぐにインプラントしよう。今使ってるのは売ることになるから、やらなくていいかな。それとも予備にしようか。



 他に何本か宝石なしのエンチャント剣を作った。マナも相当減ったのでこの辺にしておく。宝石付きの剣は高く売れるだろうが、どうせ軍に流れる。軍なら宝石無しのエンチャント剣でいいだろ。宝石付きは冒険者のレベル底上げの賞品にするのがいいかな。



 ちなみに、雨の中わざわざ外に出て確認してみたが、思ったとおりインプラント魔法もストレージハウスの外では使えなかった。



——金属に宝石を埋め込む


 これって、土魔法ってやつだよな? ガラスを作るのも土魔法らしいし。土魔法って攻撃魔法じゃなくてこういう生産系魔法なのかな?



 また暇になった。娯楽がない。この世界の人たちはみんな何してるんだろ? 元の世界の中世の人たちの娯楽ってなんだ? コロシアムとか頭に浮かんできたけどそれはローマ時代だな。それも今欲しい室内の遊びじゃなくてイベントだな。


――寝るか


 俺は大岩をストレージから出し入れして卒倒した。



  ◇◇◇◇◇



 目が覚めると夕方だった。マナは回復していた。昼メシを食いそびれている。雨はあがったようだ。飲みに行くしかない。



 俺はペプを連れて、市場と服屋に寄ってから、いつものバーに行った。


「マスターには迷惑をかけたな。どうやら全て解決したようだ」

「それは幸いでございます」

「ナア」


 ペプがお腹を空かせているのでご飯をあげた。



 ペプを撫でながら静かに飲んでいると、顔に刀傷がある、姫のお付きの騎士が店に入ってきて、俺の隣に座った。


「お前はリーゼロッテの護衛だな」

「そうだ。名前はカイという。王女殿下が世話になった。礼を言う」

「気にするな」


 カイは俺と同じウイスキーを注文して飲み始めた。


「殿下はまだ謹慎中だが、タクヤに礼を言いたいとおっしゃっている。代理で俺が感謝を伝えに来た」

「一件落着したようでよかった。お前は王女付きの騎士なんだよな?」

「王女付きの護衛だ。騎士というほどでもない。クンツと違ってな」


 クンツとは、あの大柄の初老の騎士のことだろう。


「王女の様子はどうだ?」

「タクヤが来るまでは落ち込んでいたが、今日は気分が良かった」

「そうか。結局、伯爵はどうなる?」

「つい先ほどだ、爵位を剥奪され、領地も没収になった。もう終わりだろうが、逆恨みして何か仕出かすかも知れないから監視を付けている」

「領地はどこにあるんだ?」

「王国の北西だ。小さい町と鉱山がある」


 前に美味しい水を汲みに行った辺りかな? ゴブリンがいた辺り?


「領地の屋敷には財産はなかった。王都を活動拠点としていて、領地で集めた税金は全て王都の屋敷に送っていたらしい。領地の執政は代行官に任せっきりだったという話だ」


 人任せでも定期収入がある、うらやましい話だ。元の世界でそういう立場の人間になりたかった。


「フライタークは、屋敷に残ってたゾンビが最後の一匹だと言っていた。ゾンビを作るには人間にゾンビの血肉を触れさせる必要があるらしい。つまりもう作れないということだ」

「それは良かった。お前も王女と一緒に活動してたのか? 王女というか、ネズミの方の」

「殿下は単独で行動してた。俺もクンツも知らないふりをしていた」

「危なくなかったのか?」


 実際誘拐されてるからな。


「殿下は剣が使える。相当腕が立つし、いざというときの切り札も持っている。本当に危なかったら使うはずだ。ただ、フライタークには魔法で眠らされたと言っていた」


 スリープ。禁呪だ。


「魔術師のビクターについてはどうなった?」

「あいつの顎はお前が潰したんだってな。飲んだヒールポーションが低級だったため完全には治らなかったらしい。もう魔法が使えないそうだ。何もできないだろうから解放した」

「そうか。安心した」


 そういうこともあるのか……。ヒールは常に本気を出さないと。


「ところで、国王は、戦争についてはどう考えているんだ?」

「陛下は戦争には消極的だ。だが、隣国が本気で侵略しようとしてるようだ」

「イグレヴ王国か」

「そうだ。国境近くで度々問題を起こしている。挑発だ。こちらが乗れば、それを口実に開戦になる」

「実際、戦争になったらどうなる? 戦力差は?」

「イグレヴ王国は大国だ。そのうえ武術と魔法に長けている。戦争になれば苦戦するのは間違いない」

「魔闘気か」

「そうだ。あいつらは厄介だ。タクヤは戦ったことがあるのか?」

「ああ、殺されかけた」


 魔闘気使いの男。おそらくイグレヴ王国の第三王子、ルスラン。


「ハロン王国は小国だ。イグレヴ王国に対抗して軍を強化しているが、それでも戦力差は大きい。だから傭兵になりそうな冒険者を集めている。イグレヴ王国の狙いはダンジョンかも知れないけどな。だが、ダンジョンのおかげで国庫が潤うから軍備に投資できる。あとは召喚者だな。だがそっちはうまくいってない。お前のようにな」

「やはり俺は戦争のために召喚されたのか」

「半々だな。ダンジョンの奥にいるとされている魔族が脅威なのも本当だ。実際に魔物を率いて攻めてきたこともある。この国の話じゃないけどな。ダンジョンで鍛えて、魔族を討伐して、この国の守りにも参加して欲しいってところさ」


 俺は九割方この世界に満足しているからあまり考えないようにしているんだが、他の世界から人を攫ってきてることについてはどう考えてるんだろうか?


 その後、しばらくカイと一緒に飲んた。案の定、ストレージ魔法のことを聞かれたが、差し障りのないように答えた。


 いい気分になって店を出て、バーの裏手の路地裏からハウスに入って寝た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ