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無口

 目が覚めた。かなりの二日酔いだ。朝のルーチンをこなし、シャワーを浴びた。ペプと朝ごはんにする。



「ペプ、昨日は楽しかったな」

「ナア」


 昨夜はカールと話して、レオと飲んで、冒険者たちと飲んだ。エミリーはビアンカと殴り合いになりそうになったり、大笑いしたりしてた。アーベルは早々に潰れてた。ペプは俺と一緒にいたが、冒険者たちに触られまくっていた。俺はマジックアローの杖で人をペチペチ撃ちながら、一番酒が強い魔術師にこの杖をやるぞって言って飲み比べさせた気がする。誰が勝ったか覚えてない。


 片付けが大変そうだったので、宴会が終わる前に抜け出し、倒れかけのエミリーを宿屋に押し込み、俺は路地裏から久しぶりのハウスに入り、すぐ寝た。


「ペプ、エミリーを迎えに行こうか。あと、冒険者ギルドに行くのがちょっと怖いな」

「ナア……」



 宿屋に行くと、いつも通りのエミリーがいた。二日酔いでふらふらなのを予想していたんだが、


「タクヤさん、おはようございます。昨日は楽しかったですね」

「ああ、おはよう」

「ナア」

「今日はどうされるんですか?」

「まだ決めてないが、とりあえず冒険者ギルドに行こうと思う。エミリーはどうする? 魔術師ギルドに帰るんだろう?」

「いえ、まだ帰りません」


——あ、そうなの……


 ストレージハウスに泊まりながらダンジョンに深く潜ろうと思ってるんだけど……どうしようかな……。



 冒険者ギルドに着いたら、十数人の冒険者が床に転がっていた。俺は酒の残りの樽や皿を手早くストレージに入れた。めんどくさいから皿を洗いたくないが、捨てるわけにはいかない。貧乏性なので。あとは転がってるやつらに任せるとして、俺は受子ちゃんに話しかけた。


「おはよう」

「おはようございますー」

「昨日は騒がしくして済まなかったな」

「いえいえー。楽しくてよかったですー。お片付けはきちんとお願いしますー。……ってギルド長が言ってました」


 真顔で言われた。俺は目が覚めた冒険者を捕まえて片付けの指揮を依頼した。



「下級冒険者の育成のために、マジックアイテムを報酬にしてクエストを作ろうと思うんだが、どうだろう?」


 下級も上級もないんだが、ヘタれ冒険者って言葉をオブラートに包んで言った。


「いいアイデアですー。ギルドとしても助かりますー」

「何かちょうどいいターゲットはないだろうか?」

「今ですと、ある洞窟にゴブリンが何匹も入っていくのを見たという情報がありますー」


 ゴブリン案件か……以前のことがあるからそれは俺がやるか。それにゴブリン相手じゃ簡単すぎる。


「フォートモーラーのキマイラ、トロールケイブのファイアトロールくらいでどうだろう?」

「いいですねー。報酬はどうしますかー?」

「ファイアショットの杖と、敏捷性アップのアンクレットだ」


 俺は鞄から出してカウンターに並べた。


「手練の冒険者は参加資格無しだ。アーベルのパーティはダメだからな」

「承りましたー」


 俺には一文の得にもならないところか赤字だが、これで冒険者たちが成長してくれれば将来的に助かるはず。あれ? もしかして、冒険者たちに死体を持ち帰らせて、換金して俺の儲けにすれば黒字になるのかな? まあいいや。



 ゴブリンの件を片付けに行こうと思うんだが、その前に、


「エミリーの杖を作りに行こうか」

「ナア」


 なぜかペプが返事した。



 武器屋に入った。店主に話しかけた。俺のメイスはまだできていなかった。


「この魔石で魔法の杖を作ってもらいたい」

「申し訳ありませんがそれは作れません。魔石は木を変形させてしまうため、杖に固定できないのです」


——なんと……


「いかがでしょう、杖ではなく腕輪などの金属のアクセサリーならお作りできますが……」


 実際、杖の形にする意味ってあんまないんだよな。火とか出さない限りは、杖の先からでも腕輪からでも魔法は一緒だ。杖を向けた方向じゃなくて思考でエイミングするわけだし。もし攻撃魔法じゃなく、防御魔法や補助魔法をエンチャントするとしたら尚更だ。


 エミリーも頷いている。いま気がついたが、今日はなんだか口数が少ない。


「では、腕輪で頼む。ついでにもう一つ同じものを頼む」


 魔石をもう一つ出して俺用の腕輪も注文した。そして、エンチャント用の武器と魔法の杖を買い増しした。



 次に服屋に行った。注文していた新品のコートを受け取り、焦げたり綻んだりしている、着ていたコートをお直しに出した。クリーニングに出していた下着も受け取った。端布を買い占めて用事は終わった。


 次に雑貨屋に行き、主に食器類を補充した。俺がちょくちょく買い占めるので在庫が増えたような気がする。

 

 露店に行き、新しい器でスープを二つ買った。皿が要らない燻製肉や肉串、ドライフルーツなども買い込んだ。この世界は紙がない。あっても羊皮紙だ。葉っぱで食品を包む店もあるが少ない。木から紙を作る魔法はないだろうか? 紙魔法だろうか? それは聞いたことがない。残念ながら俺は紙の作り方を覚えていない。試行錯誤すれば原始的なものは出来そうだが。化学薬品が必要なものは無理だ。



 次にパスタ屋に行った。俺が注文したパスタの麺が出来ていたので、それで料理を作ってもらった。と言っても、スープに茹で上がったパスタを入れるだけだ。しかし、久しぶりの麺に感動した。


 店主が満面の笑みで言った。


「この、麺ってやつですか? すごく評判がいいんですよ。タクヤさん、ありがとうございます」

「正式名称はスパゲティだ。直径は一・八ミリが理想とされている」


 直径はうろ覚えだ。乾燥スパゲティの袋にそう書いてあった気がする。外れてても出来上がりの誤差が大きいから問題ないだろう。そもそも蕎麦のように切って作ったパスタをスパゲティと言わないはず。


 店の隣の空き地のベンチで、エミリーと一緒にスパゲティを食べる。が、エミリーの食が進まない。だいたいの理由は分かる。


「エミリー、この後はキャッスルヒルパートに潜ろうと思う」


 エミリーは返事をしない。無表情だ。


「俺は昆虫が苦手だからエミリーの助けが必要だ」


 エミリーの目に涙が浮かんできた。


「今回はかなり奥まで挑戦しようと思う。何泊かすることになる」


 エミリーはぷるぷると首を横に振った。


「タクヤさんはあれだけ飲んだのにどうして平気なんですか……」

「俺は前の世界で、酔えば酔うほど強くなる対人戦闘術、スイケンを極めている。ようは慣れっこさ」


 テキトウ言ったが辻褄は合った。しかし、男女逆の買い物デートのように連れ回したのに、二日酔いを感じさせず付いてくるとは気丈な女性だ。


「今日は休みにしよう。明日迎えに来る」


 俺はエミリーを、商業区画の一番いい宿屋に押し込み、西門を出て森へ入り、ハウスに入った。



「ペプ! ペプ! 自由時間だよ!」

「ナア!」


 エミリーの事は大好きだが、ハウスに入れないのはキツい。夜はハウスで寝たい。こういうのはインドア派って言うのだろうか? ネットに繋がったゲーム機が欲しい。映画もレンタルして見れるやつ。そしたら二度とハウスから出ない自信があるくらいにはインドア派だ。



 まずやりたかったのは、エミリーに空けてもらったピアス、というか空けてもらったピアス穴に嵌ってるピアスのエンチャントだ。ピアスは何個もゲットしているが、黒い宝石一つのシンプルなやつが気に入って、今はそれを着けている。


 IDEを開いてピアスを選び、呪文エリアから効果半分のプロテクションのアイコンをドラッグドロップする。効果範囲を全身に設定。硬さより持ち時間を優先した。このプロテクションは普段は活躍しない。俺が気を失ったときの保険だ。


 新調したコートには、効果二倍のプロテクションをエンチャントした。こっちはメインの防御システムだ。



 次に宝石のナイフを選んだ。宝石が十個埋まってる、エンチャント用としか思えないナイフだ。マナの充填量は今の俺のマナの最大量とほぼ同じ。ファイアをエンチャントしてものすごい火炎が出るナイフにしようかと思ったが、刀身が短いから俺が燃えると思うのでやめた。


 やっぱ、トゲ。すんごいトゲがいい。ナイフの先端は敵に刺さるようにプロテクションをエンチャントしておく。先端を除いた刃の部分から、何本ものトゲが出るように加工した。



 今回気づいたのだが、トゲはそのエンチャントされた媒体の表面積よりは太くはならない。つまりナイフから出るトゲの太さはたかが知れてるってことだ。その代わり、長さはマナの量に応じて延びる。おそらく硬さも。


 俺はトゲが左右に往復しながら刺さるように加工した。なんとなくDNAの二重螺旋に似ている。決戦兵器だ。ナイフが敵に刺さらなくてもトゲが刺さればいいので、最初にやったプロテクションのエンチャントは無駄だと気づいたが、そのままにしておいた。



 次のお楽しみはチャージ魔法のコードだ。魔法準備、マナ注入。ヒールよりシンプルだ。他の魔法と同じく、魔法準備でマナの最大量をチェックし、使い過ぎを防いでいる。俺がいつもやってるマナ充填は、魔法準備の手順をすっ飛ばしてマナ注入だけを実行しているようだ。


 他の魔術師ももし、この魔法準備の中のセーフガードを詠唱から省略することが出来れば、おそらく俺と同様にマナを使い過ぎた分だけマナの最大値が増えるかも知れない。だが無いマナがチャージできるとは思えないので、そう簡単ではないかも知れない。俺のストレージ魔法がどうしてマナが足りなくても成功するのかが不思議だ。



 チャージ魔法に期待をしていたのは、これを宝石にエンチャントして、充塡したマナを俺に流す、いわゆるマナ電池が作れることだ。


 俺は充填容量が大きい宝石を選んだ。親指の爪の大きさ。青いから多分サファイアだろう。リッチからゲットしたやつだ。原石ではなく加工済みだ。


 この宝石にチャージをエンチャントする。この宝石一つで俺の最大マナの三倍くらいを充填できる。今までに何日もかけて余ったマナを充填してきたので、今は満タンだ。さっきのエンチャントで減った分のマナを宝石から取り出すと……。


「できた! ペプ、できたよ!」


 俺のマナが最大まで回復した。オーバーヘッドがあるのかどうかはよく分からない。そのうち計りながら検証してみよう。今はとにかくできただけで嬉しい。



 あとは買った武器にエンチャントした。何個か人にあげたし、これからもあげるだろうし。光る石ころも補充した。あとはシュートで飛ばすためのプロテクション石。プロテクションのエンチャントは結構マナを食うが、シュートでぶつける分には満充填でなくてもいいので量産できる。


 楽しみにしてた自由時間だが、いっぱいエンチャントをしてマナがなくなって、やることがなくなった。まだ昼だが、ペプを抱いてスリープを使って寝た。



  ◇◇◇◇◇



 起きたら日が暮れていた。時刻が分からないが、またすぐ寝る気もしなかったので、バーへ行った。


「マスター、伝言はないか?」

「ありません」

「リリーについて何か聞いてないか? その、ネズミじゃない時の……」

「噂によると、ご自宅から出られないようです。処分の件も芳しくないようですな」


 他に客がいたので隠語で話した。事態は思ったとおりではない方に転がっているらしい。約束があるからな、行かなきゃいけないだろう。リーゼロッテ姫は約束を覚えていない可能性が高いが。


 朝まで残っていた酔いは昼寝ですっかり回復していたが、酒は控えめにしておく。そういえばいつの間にかペプが入店オッケーになってる。最初は追い返されたのに。今じゃカウンターの上で丸くなって寝ている。さっきは焼いた小魚をもらってた。マスターに聞いてみると……。


「タクヤ様にお世話になっているのはもちろんのこと、猫戦士のお噂も聞き及んでおります」


 やっぱり世間で猫戦士と呼ばれているのか……。


 バーの支払いは今日はなかった。前回の宝石の支払いで当分はタダで飲めるらしい。お土産に酒樽も貰った。


 さっきと同じ西門を出た森でハウスに入った。昼の続きで石ころのエンチャントとチャージをした。ペプは俺の顎をひとしきり舐めてから枕の横で丸くなった。俺は自分にスリープをかけて寝た。




いつもお読みいただきありがとうございます。ブックマークや評価をしていただけると本当に励みになります。是非よろしくお願いします。

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