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空気

 目が覚めて、朝のルーチンをこなし、骨先生とスパーをして、風呂に入った。



 一つやりたいことがある。例えばいきなり水の中に落とされたり、毒ガスの罠にハマったりした時に、呼吸ができるようにしたい。ストレージに空気を大量に入れておいて、毎朝入れ替えてるハウスの空気でもいいとは思うが、ピンチの時にその空気で呼吸できるようにしたい。


 試しに、頬を膨らますように口の中に、ストレージから空気を出して、吸い込んでみた。これはうまくいかない。以前は喫煙者だったから分かる。口の中の空気を肺に送り込むために、口からさらに外気を吸い込まなければいけないのだ。この辺の医学的な仕組みはの知識は持っていない。とにかくそういうもんだ。


 結局、道具を使うことになる。革袋か何かに空気を詰めて、それを吸うのがいいみたいだ。毒ガス対策なら、辺り一帯に大量の空気を出せばいいか。革袋は雑貨屋で買ったのがあるから、空気を入れてストレージに入れておく。他に、大量の空気をストレージに入れて、いつでも出せるようにしておく。



 あと気になってるのは、突然寒くなったり熱くなったり、主に魔法で攻撃された場合に備えて対策を考えておいたほうがいいよな。


 例えばファイアウォールを食らったりして突然火がつきました、なら水を被ればいいか。


 突然寒くなりました、は、どうしよう。アイスボールとかアイスランスとかだな。ヒールと炎熱のメイスでなんとかするか。威力とか効果範囲とか細かく想定しないと対策のしようがない。うーん、魔術師ギルドで相談してみようか。


 考えてて思いついたんだけど、普通の布に弱い熱のエンチャントや、弱い冷気のエンチャントをして、暑さ寒さの対策をしてみようか。ホッカイロみたいなもん。ただエンチャントするだけじゃ効果が続かなそうなので、布を魔石が溶けた水に漬けて、急速乾燥し、弱い冷気の魔法をエンチャントした。お気に入りのコートを着ていると暑いから涼しくしたい時がある。決戦用にすると言いながら、かっこよくて気に入ってるのででずっとコートを着ている。


 エンチャントで、最大量のニ十分の一のマナを使った。他のエンチャントと比べ、効果を考えればかなりの充填量だ。マナ水の効果だろう。冷たい布ができた。胸元に入れておけばかなり身体が冷えそうだ。


 同様に温熱の布を作った。これ、電気毛布が作れるな。そもそもの話、今の季節は何で、これから暑くなるのか寒くなるのか。ハウスは毎朝、空気を半分入れ替えてるから外気温と同じ。冷暖房の心配をしたほうがいいのか? 誰かに聞くか……。



 それから俺は街に出て、皮袋を三つ、雑貨屋でシーツを二枚、毛布を二枚買った。タオルケットというものはなかった。そもそもタオルがない。材料はあるんだろうけど、起毛させるのって、手じゃできないよな、たぶん機械が必要だよな。しょうがないか。



 他に一通り買い物を済ませて、エリース村へ向かった。


 村に行く前に地下神殿に入った。相変わらずだった。インプの死体と、各種スケルトン類をゲットして出てきた。



「やあ、タクヤ。かっこいい服だな。家とベッドができてるぞ」


 村に着くと、エリックに発注していた新築ハウスが完成していた。うれしい。


「ペプ、どうよ、この家。新しい家だぞ」

「ナア」


 ペプはピンときてないだろうか? そうだろうな。


「エリック、ありがとう」


 今回はお金を払った。金貨五枚だ。多すぎると言われたが、ダンジョンで稼いだから気にするなと言った。俺は早速ストレージに入れて、時間停止を解除し、空気を入れて、森に入って、ペプと一緒に新居に入ってみた。


「どうよペプ」

「シャー!」


 新築の臭いが気に入らないらしい。まあそのうち慣れるだろう。



 新居は、基本的に前と同じような間取り、ワンルームだ。少し広くなっていて、何より新しい。部屋の隅にベッドを配置した。真新しく清潔だ。布団は前と同じだが。


 入り口近くの壁にルームライトをエンチャント、ベッドから手が届く壁にベッドライトをエンチャントした。本棚とテーブルを配置して、常夜灯の魔石を置く。ペプのトイレとごはん処を設置して完了だ。


 ペプは早速トイレに入り、ザッザッと穴を掘って用を足した。縄張り的な意味があるのだろうか?



 俺は外に出て、エリックに話しかけた。


「ありがとうエリック、部屋を見せられないのが残念だが、最高だ」

「それはよかった。ところで、ブドウ畑がすごいことになってるんだが……」


 畑に行ってみると、ものすごく繁殖していて、当初想定してた畑は倍の面積になっていた。森にも入ってしまいそうだ。


「収穫して村のみんなで美味しく頂いているが、これはどうすればいいんだ?」

「ワインを作るんだ」


 俺は、収穫して潰して樽か容器に入れて発酵させ、いいタイミングで濾せばいいと、ざっくりとワインの作り方を教えた。というか、細かいことは知らないしやったこともない。元の世界じゃ勝手に酒を作ったら犯罪だから当然やったことがない。


「やってみるが、本格的にやるには人手が足りない」

「美味しく作れるようになったら人を増やせばいい。エリック、これは貴族に高く売れるぞ」


 そういうとエリックはやる気になったようだ。


 俺は木を抜いて畑を広げておいた。



「エリック、この地方の気候を教えてくれ」

「今は秋だ。タクヤがこの村に来た日が夏の終わりだった」


 じゃあこれから冬か。


「これを使ってくれ」


 俺はさっき作った電気毛布を渡した。電気じゃないけど。


「一冬はもつと思うんだが」

「ありがとうタクヤ」

「それと、すまないができるだけ長い梯子を作ってくれ」

「今あるぞ。これでいいか?」


 だいたいビルの三階まで届きそうな長さだ。話が早い。


 宴会をしたかったが、まだ昼だ。時間が惜しいので村を出た。村の入り口の柑橘類を二つもいで昼飯の足しにした。ペプにはさっきお昼をあげたので、俺は歩きながら干し肉を食べた。


 次に行くところは魔術師ギルドだ。



 ペプを抱きかかえながら、村から魔術師ギルドまで歩いた。時々ペプを原っぱで遊ばせた。


 ギルドに着いたのは夕方近くだった。外にやたら豪華な幌馬車が停まっている。来客かな? 魔術師ギルド員は貧乏そうだから違うと思う。


 中に入ると、ヴァレリウスとエミリーが来客対応していた。遠巻きに見ながら終わるのを待っていたら、手招きされたので行った。


 ヴァレリウスがやや畏まって言う。


「こちらはハロン王国王女、リーゼロッテ殿下だ」


 色白で金髪のストレートロング、二十歳前後だろうか、ものすごい美人な上に、どことなく、あどけなさとは違う可愛さがある。レースで装飾が施された、黒ベースなのに派手さがあるドレスのようなワンピース。武器は携えていないが、すぐ後ろに護衛の騎士が二人、大柄な初老と、顔に刀傷が五つもある中背の男。どちらもレザーアーマーにプレートの胸当てを着けて剣をぶら下げている。


 エミリーが続けた。


「殿下はゾンビの件でいらっしゃいました」


 王女に挨拶をしようとしたが、あがってしまい、気後れした。タイミングを失って見つめてしまった。切れ長の力強い目、ブラウンの吸い込まれそうな瞳、少し上を向いた鼻、主張しない顎。何よりすごくいい匂いがする。知ってる匂いだ……。


「……ネズミ?」

「失礼ね、人間よ」

「いや、ネズミじゃん。その指輪とネックレス」

「失礼ねタクヤ、今は人間よ」


 今は、の部分が小声だった。護衛の二人が剣に手をかけた。怖い。


「俺まだ名乗ってないのによく分かったな」

「!」


 護衛のおっさんの方が剣を抜いた。リリーが、いや、リーゼロッテがそれを制す。多分、騎士の剣でも俺は斬れないと思うけど、絶対の自信はない。怖い。

 

「タクヤさんの事は聞き及んでおりますわ。でも一応、ご紹介してくださるかしら?」


 エミリーが慌てて紹介した。


「これは当ギルドが異世界より召喚した勇者、タクヤです。ゾンビ退治の実力者です。元々はこの王国のダンジョンに巣食う魔族の討伐のために召喚しました。実力は当ギルドが保証致します」

「俺は異世界の人間なため、王国の礼儀を知らない。失礼があれば詫びたい。許してくれ」

 

 なんとなく王女に横柄な態度をとった。まあ、正式な礼を知らないんだけど。すると王女が言う。


「タクヤさん、二人でゾンビについて話がしたいですわ。あちらへ」


 おとなしく付いていった。


「ペプも一緒だけどいいか?」

「そんなことどうでもいいわよ。わたしがリリーって事は黙っててよ」


 小声で怒っている。


「護衛の人たちは知らないのか?」

「知られたら王宮から出られなくなるわよ」

「すごいな、王女だったのか。本物か? もしかして、ネズミが王女に化けているのか? 本物の王女はどうした」

「そんなわけないでしょ! わたしが本物よ。アーティファクトでネズミに変身するのよ。違うわ! ネズミじゃなくて人間よ」

「で、今日は何しに来たんだ?」

「情報収集よ。今来たところなの」

「じゃあ俺も聞かせてもらうか」

「あんたは報告する立場じゃないの」


 内緒話を終えて戻った。護衛のおっさんに睨まれている。剣から手を離してほしい。



 俺は昨日の話を魔術師ギルドの二人に報告した。


「ということだ。黒幕はフライターク伯爵、もしくはその家臣の魔術師ビクターであることは間違いない。俺、シスター、ネズミのリリーの顔を知られたはず。前回の時も見ていたかも知れない。エミリーの顔も知られている可能性が高い」


 エミリーが口を開く。


「当ギルドで調査したところ、肉体強化ポーションの材料が大量にフライターク家所有の倉庫に運び込まれている事を突き止めました。また、サンデージ国の奴隷売買に手を出しているようです。奴隷はヨーギの施設に連れられています」

「わが国の貴族が奴隷売買に手を染めているなど、あってはならないことです。私はこの事態を秘密裏に食い止めたいのですわ」


 リーゼロッテの言うことはなんだか芝居がかって聞こえる。やはり正体はネズミ……。


「ギルドではビクターについて何か知っているのか?」

「ギルドには登録されていない。他国から流れてきた魔術師だ。おそらくイグレヴ王国の出身だろう」


 ヴァレリウスが答えた。


「じゃあ、面識はないのか」

「エミリーが倉庫で見た時はフードで顔を隠していた」

「王女殿下、フライタークの倉庫に攻め込んでもいいか?」

「タクヤさん、それはまだ時期尚早ですわ。まずは伯爵の犯行か、家臣の魔術師の暴走か見極める必要があります」

「わかった。しかし、次のアクションはどうするべきか。今まではずっと受け身だった。そろそろ攻勢に出たい」

「まずはビクターの狙いを知ることですわ。他に、シスターが何か隠しているように思えます」


 シスターに会ったのはリリーだろ。


「わかった。俺はシスターから聞き出してみる。ビクターの方はエミリーに任せよう」

「わかりました」


 会議は終わり、リーゼロッテたちは帰って行った。ギルドホールの外まで送ったが、護衛にがっちりガードされていて話はできなかった。王女の次のアクションを聞いてない。きっとリリーが何かするはずだが。


 ギルドホールに戻ったらエミリーが話しかけてきた。


「タクヤさんが殿下と面識があったのは意外でした」

「まあな。王女とは知らなかったが」


 ヴァレリウスが言う。


「もし伯爵が黒幕だとしたら、ゾンビを使って何をするつもりだろう。戦争だろうか。もしかして伯爵は誰かから指示を受けて動いているのではないだろうか?」

「うむ、国王か、他国の王族か」

「どちらにしても大変なことになる。我々に危険も及ぶ。慎重に進めて欲しい」


 他国って感じじゃないんだよな。なんか、実験チックだし。ってことはハロン王国の国王か。リーゼロッテは気づいているのか、または黒幕側の人間でこっちを探りに来たのか。全てビクターが勝手にやったことであれば丸く収まるのか。勝手じゃなくてイグレヴ王国のスパイで、ってことにしたい人間もいるのかな? 魔術師ギルドとしてはそれは避けたいわけだ。今日はいない副ギルド長はどうかわからないが。



 あとは、一応、冒険者ギルドの話を報告した。トロールケイブを途中まで攻略したこと、ハーフエルフの支部長とつながりができたこと。ストレージの能力とそれがバレたことは隠して。


「本来の目的に邁進している中で、ゾンビのような無益な厄介事に助力いただき感謝している。今すぐ魔族討伐に集中してもらいたいが、この件に関しては君しか頼れる人間がいない。乗りかかった船と思って今後も助力をいただけないだろうか?」

「そのつもりだ」

「足りない物があれば言ってくれ。最大限の努力を約束しよう」


 なんか、いろいろあった気がするが、いいかな……。



 俺は魔術師ギルドを後にした。エミリーが送ってくれた。


「タクヤさんに連絡を取るにはどうすればいいですか?」

「王宮区画の近くのバーに伝言を残してくれ」


 次はシスターに会うか、ダンジョン攻略に戻るか。しかしその前にちょっと寄りたいところがある。俺はギルドを出て川沿いに北へ向かい、日が暮れたところで、新築のハウスに入った。


 夜は新築ハウスにペプを慣れさせようと、魔石を転がして遊んだ。前の小屋は床に穴が空いていたのでできなかった。


 その後は晩酌しながら寝た。


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