トロールケイブ
目が覚めて、朝のルーチンをこなし、骨先生とスパーをして、シャワーを浴びた。
ゾンビ伯爵の件も気になることは確かだが、最優先事項はダンジョン攻略、魔族の討伐。ゾンビの件は自分から首を突っ込むようなことは控えて、頼まれたら手伝うくらいで考えておくか。
「ペプ、そろそろダンジョンに潜ろうと思うんだ。ペプのお留守番時間が長くなるな」
「ナア」
王都シンシアにはダンジョンは三つある。正確には俺が見つけたラフレシアダンジョンを入れて四つだが、そこには当分の間は行かない。
まず、キャッスルヒルパート。古城がダンジョン化したものだ。上級魔族がいるとされている。敵が最も強く、罠も多い。地下十階まで踏破されている。巨大な甲虫類が攻略できないと聞いた。最下層は三十階よりも深いとされている。ここがラストダンジョンの可能性が高い。
次に、フォートモーラー。四階までは行った。十二階に火の悪魔バルログがいるらしい。魔族は確認されていないが、バルログがいるくらいだから魔族もいる可能性が高い。
その次がトロールケイブだ。外に出てきたトロールを一匹倒した。中には似たようなのがうじゃうじゃいるんだろう。今の俺なら、一匹なら余裕で倒せる気がする。集団となるとキツくなりそうだ。ここは低級魔族の存在が確認されている。
さて、どこから行こうか。冒険者ギルドで最新情報を聞いてみようか。
俺は外出の準備をして、ペプと一緒に外に出た。
——雨だった
仕方ないのでペプをハウスに入れて、サンダルに履き替え、外套を被って歩いた。街道は舗装されているが、森から街道へ辿り着くまではぐちゃぐちゃだ。まあ俺の場合、目的地に到着してから風呂や着替えが出来るから恵まれている。
街道を通り、西門から入って真っ直ぐに冒険者区画のギルドへ向かった。
冒険者ギルドでは、雨宿りなのか、暇そうにしている冒険者が何人も屯していた。
掲示板をチェックする。ゴブリン関連の依頼はまだそのままだった。いずれ減るだろう。
受付で情報を仕入れる。
「最近のダンジョンはどんな感じだ?」
「進展はないですねー。トロールケイブは相変わらず冒険者がいませんー、皆さんキャッスルヒルパート上層で地道に稼いでるようですー。アーベルさんのパーティはフォートモーラーで苦戦してるそうですー。なんでもー、天井に剣が届かないとかー」
なんだろう、それは?
「ヒルパートの高層階は何が稼げるんだ?」
「昆虫系が多いですー。甲虫の殻が高値で取引されてますー。とっても硬いからやっつけにくいんですけどねー」
——うげっ!虫!
「あとはやっぱりお肉ですねー。大ネズミ、大イノシシ、大バイソンですねー。持って帰るのが大変ですけどもー」
——肉……牛……
さて、どこ行くか迷う。虫は嫌だけど、いずれ通らなきゃいけない道だよな。でも雨だからな。街道から近いのは……トロールケイブかな。
「トロールケイブについて知ってることを教えてくれ」
「トロールケイブはまだ誰も攻略してませんー。トロールが強くて割に合わないですー。調査隊は入り口を入ってすぐに五体のトロールに囲まれたって言ってましたー。トロールの血は回復ポーションの精製に使えるので高く買い取りますよー」
「ほう」
——ストレージに一体あるんだよなあ……
まあ、行ってみるか。
俺は冒険者ギルドを出て、雨の街道を走った。トロールケイブの手前までは行ったことがある。洞窟のすぐ裏の森でハウスに入った。
「ペプ、嫌な雨だな」
ペプは丸くなってた。 拗ねてるのか?
俺は戦闘服に着替えた。お守り代わりに隠密の指輪を付ける。剣を一本出した。今回はプロテクションの剣だ。トロールは火に弱いが、切れ味優先で試してみる。
「ペプ、行ってくる。安全なところでキャンプして帰ってくるからな」
「ナア」
外に出て、すぐに洞窟に入った。扉にはトロールケイブと書かれた木板が取り付けられていた。これを取り付けるのも命懸けだったのではないだろうか?
洞窟に入ると、すぐに大部屋があった。小学校の体育館ほどの広さだ。天井がボンヤリ光っている。ダンジョンの謎機能だ。トロールが三体うろついていた。
——いきなり三匹か……
できればトロールの背後からこっそり近づいて、バックスタブで仕留めて数を減らしたい。でもバックスタブ用の短剣を用意してないな。大部屋じゃ隠れにくいし。いや待て、トロールの視線がどこを見てるか分からないけど、まだ見つかってないのは隠密の指輪の効果なのかな? 試してみたいけど、近づいていきなり見つかるとピンチになるんだよな。元の世界の仮想世界でよくやった。
迷っていたら、一匹のトロールが奥の通路へ歩いて行き、いなくなった。残りは向い合ってしゃがんでるトロール二匹。距離は四、五十メートルってところか。
——リッチのファイアボール!
後ろを向いてる奴を狙って撃った。もう一匹は迫ってくる火球に気付いたが、逃げる間もなく、後ろ向きのトロールにクリーンヒットしたファイアボールに巻き込まれて、吹っ飛んで燃えたが、瞬時に起き上がって走ってきた。
走る速度が思ってたより速い。なので、五メートルの距離でマジックミサイルを放った。クリーンヒットして仰け反った時は一メートルの距離だ。剣の刃を寝かせて喉に突き刺し、左に切り裂く。
——どうだ?!
仰向けに倒れたが、まだ息があるようだ。再生される前に焼け石を口に突っ込む。斬っても良かったんだけど焼け石が余ってるので……もう風呂にも使わないし……。
ファイアボールがヒットしたトロールは全身が炎に包まれて、のたうち回っている。
しばらくしたら二匹のトロールは息絶えた。どっちもストレージに入れて死亡確認をする。
すると、物音を聞いてやってきたのか、奥の通路からもう一匹のトロールが現れた。
——マジックアロー!
頭に二発、両膝に二発ずつ。膝のは貫通して刺さった。トロールは前のめりに倒れた。しかしこれで死なないのは分かってる。俺は首を切り落とした。
この剣ならトロールの首も斬れる。イケる。リッチのファイアボールで一発なのが分かったのも収穫だ。次は俺のファイアボールを試してみよう。なんかリッチのやつって、俺も自爆して食らったけどやたら強いんだよね……。
大部屋の奥の通路を進む。狭い通路だ。トロールが少し身を屈めて走れるくらい、俺はぴったりだ。ここで闘うのは厳しい。と、思っていたら正面からやってきた。少し屈んでゴリラのように四本足で走ってくる。
さっきのやつと同じパターンで転ばせる。貧乏性だからマジックミサイルじゃなくてマジックアローを使ったが、これはこれで効果が高い。適材適所だな。狭いので剣で首を何回か突き刺して止めを刺した。
通路内は暗い。光る石ころを投げたら、奥からトロールが走ってくるのが見えた。
——ファイアボール!
俺が威力調整したバージョンだ。トロールは、吹き飛びはしなかったが、火だるまになった。煙がヤバいのでいったん大部屋まで戻って様子を見る。トロールはそのうち動かなくなった。火が収まるとその向こうからもう一匹走ってきた。
——ファイアボール!
ファイアボールがやたらと効く。距離があれば楽勝だ。今、燃えているトロールの後ろにもいるかも知れないと思って撃ってみた。
——インプのファイアショット!
貧乏性なので……。予想通り後ろにいたトロールに当たった。ファイアショットじゃさすがに倒せないのでファイアボールを追加で撃つ。煙がすごい。風魔法があったら吹き飛ばせるのに。
もう襲ってくるトロールはいないようだ。煙をストレージに吸い込みつつ、死体に近づいてストレージへ入れる。黒焦げだが、血は採れるだろうか……? もしかしてやり方、まずかった? まあ、やっちまったものはしょうがない。先へ進む。
通路を抜けると、小川が流れている岩場だった。水は右手から出てきて、奥へ向かって流れを作っている。奥は鍾乳洞になっているようだ。光る石ころを投げながら奥へと進む。幅と高さが五、六メートルくらいの洞窟が続いている。奥に進むにつれ、だんだんと下っていく。傾斜がキツくて歩きにくくなってきたところで、平坦になり広い空間に出た。広いと言っても鍾乳石があちこちにあり、入り組んでいる。小川は途中で岩の下に流れ込んでいって、ここにはない。
寝ていたトロールが俺に気づいて立ち上がった。俺は急いで距離を詰め、トゲハルバードで頭に一撃を食らわせ、絶命させた。
もう一匹、寝たままのやつもハルバードで首を落とす。照明の範囲にはもう他にトロールはいないようだ。再生能力が高いトロールは、燃やすか首より上を潰すに限る。
俺は鍾乳石に身を隠すようにして、時々光る石ころを投げながら進んでいった。なんというか、ここまではダンジョンっぽくない。普通の洞窟に普通にトロールが生息してるだけのようだ。トロールの生態が分からないが。マナを食べて生きてるならまさにダンジョンだが、ネズミのようなものがチョロチョロしている。
すると物陰から大ネズミが飛び出してきた。特大サイズ、大型犬の大きさだ。元の世界では近所で、誰もが目を見張る、子供がいたら泣き出すような大きな犬を散歩させてる女性をよく見た。犬が走り出したら絶対止められない、そんな危険をはらんでいたが、犬の表情は愛くるしく、危険など微塵も感じさせなかった。大ネズミにはそのような愛嬌はない。
走ってきた大ネズミは首への剣の一振りで止まった。
嫌な予感がして、咄嗟に大ネズミの死体をストレージに吸い込んだが、間に合わなかった。トロールが走ってくる音が聞こえる。血の匂いのせいか。
俺は大ネズミの死体を戻し、素早く鍾乳石の陰に隠れた。トロール三匹がほぼ同時にネズミに齧りついた。
——ファイアボール!
一発ずつ当てた。剣で三匹を相手にするのは、できるかも知れないけど厳しそうだ。三匹とも火だるまになって藻掻きながら、そのうち動かなくなった。
——また燃やしてしまった
まあ、しょうがない。俺は死体を片付けて先へ進むことにした。
その後は何匹か大ネズミを倒した。血が出ないように素手で殴った。鍾乳洞はだんだん収束していき、通路状の洞窟に変わる。手前でハウスに入り休憩をすることにした。
「ペプ、疲れたよ。今、何時かな?」
「ナア」
ペプの様子を見ると、結構長い時間、洞窟内にいたようだ。時間が分からないのは本当に不便だ。そうだ、時間計測用のライトのエンチャントアイテムを作って、充填したマナの減り具合で時間を計ろうか。ここを出たら作ってみよう。
ペプのご飯を用意して、水を替えて、俺も食事にした。干し肉とフルーツ。感覚的には午後三時か四時くらいだろう。寝るにはまだ早そうだ。




