コート
夢を見た。
ジムのプールサイド、俺は飛び込もうかどうか迷ってる。するとプールの入り口から、スケルトン軍団が行進してやってきた。
俺は咄嗟に水の中に入り、身を隠した。水の中から上を見上げると、スケルトン軍団が俺を探してキョロキョロしてる。俺は浮かび上がらないように、必死にプールの床に貼り付いた。
そこに、骨先生が俺を助けにやってきて、水の中に沈んだ。肺が無いのに口がブクブクと泡を出している。骨先生は浮力が無いので何もできなかった。ただ、カタカタカタカタと口を鳴らした。
◇◇◇◇◇
目が覚めた。久しぶりに泳ぎたくなったが、海では泳いだことがない。プールじゃないと泳げない。プールなんて無いだろう。作れないかな? っていうか、土魔法が使える人が作ってくれないかな? まず土地が必要か。コンクリっていうかセメントなら自然にあるんだっけ? 石灰が取れるところを探せばいいのかな? どこかわからない。なんか無理そうな気がする。湖を探そうか。あ、でもこの世界の湖って魔物がいそう……海もか……。
朝のルーチンをこなし、骨先生とスパーをして、朝風呂に入った。
矢とボルトと魔法系の補充をして、また骨先生とスパー、シャワーを浴びて、ランチを食べて、昼寝した。
午後はペプと一緒に、まず冒険者ギルドに寄った。ゴブリン関連の情報はまだ入っていないようだ。
次に、服屋に行った。注文したコートができていた。着替えてみるとぴったりだった。採寸したから当たり前か。鏡が無いので似合ってるかどうか分からないが、とにかくいい感じだ。エンチャントは後回しにして、着たまま外に出た。
しかしこのコート、大オオカミのようにニオイが付けられることもあるし、決戦用にしたほうがいいかな。普段は替えの効くローブが一番かな。俺ってそういう貧乏性がある。
次に魔法道具屋に行ったが、何も買うものはなかった。
ちょっと時間があったので、商業区画の市場に行った。露店がたくさん出ていて賑わっている。俺は以前に会った置物商の少年を見つけた。狼か犬の他に猫の置物が増えてる。
「猫は売れてるか?」
「そうでもないよ」
「そうか……売れる魔法をかけてやろう」
猫を一つ手に取り、ストレージに入れてエンチャントして返した。猫はぼんやりオレンジに光る。最近わかったんだが、簡単なものならハウスに入らなくても、IDEを開かなくても、ストレージに入っているアイテムをエンチャントできる。
「どうだ? これなら売れるだろう?」
気に入ったようなので、他の猫の置物全部に同じエンチャントをした。光量を絞ってあるので一ヶ月くら保つと思う。
「使い捨てだってちゃんと客に伝えろよ」
なんとなくペプが満足げな気がした。そして市場で食料を適当に買い込んで、バーに行った。
しばらくバーで飲みながら、いろいろ考えた。フライターク伯爵の件が気になる。スーパーゾンビを作って何を企んているのか。国家騒乱? いや、もしかして、戦争? そうなると国家が絡んでるってことにならないか?
気になる。ちよつと様子を見に行こうか。行ってもどうにもならないと思うが気になる。
俺は持ち帰りの酒を受け取ってバーを出て、王宮区画へ向かった。
伯爵の屋敷は壁の中、壁は三メートルくらいある。街の外壁と違い、壁の上には歩道はない。城塞から離れたところで素早く乗り越えれば入れる。この世界には街灯がないから暗い。ローブに着替えた。俺のローブは真っ黒なのでフードを被れば闇に溶け込める。
「ペプ、ちょっとお留守番な」
俺は王宮区画の壁に梯子をかけて登り、飛び越えた。
ストレージから隠密の指輪を出して指にはめた。自分じゃどうなっているか分からないが、効果はあるんだろう。暗がりを通って伯爵の屋敷に向かった。と言っても基本的にどこも暗い。屋敷の入り口に明かりがあるくらいだ。もちろん兵士が見回っているので注意が必要だ。
伯爵の屋敷に着いた。二回目だが、暗くて迷いそうになった。俺の背より高い壁に囲まれている。ぐるっと回ってみると、敷地はかなり広い。中庭が広いようだ。ちょいちょいジャンプして覗いてみたが、建物は屋敷だけしか把握できなかった。
そういえば昔、元の世界でガキの頃に、引っ越した友人のうちに自転車で遊びに行く途中の国道沿いに、壁に囲まれた広い区画があって、ずっと中が気になってた。ある日、自転車を止めて、その上に乗って中を覗いてみたら、目線より少し低い高さの木、深緑がどこまでも広がっていた。後から知ったところによると、野鳥の保護区だった。
そんなノスタルジさを感じていたら、首筋に冷たい金属が触れた。
「動かないで」
女性の声だ。俺は首に魔闘気を集中する。隠密の指輪を付けててもみつかるんだな。
「何をしていたの?」
「通りかかっただけだ」
まあ、通じるとは思ってない。首筋にあてられた金属に力が入った感触。ナイフだと思うが、魔闘気があるから切ることはできないはずだ。
「とぼけないで」
「探ってた」
とぼけてもしょうがないか。伯爵側の人間だったら倒す。しかし女性には優しくしたい。
「何のために?」
「ゾンビだ」
「ゾンビ?」
「知らないのか?歩く死体だ」
「それは知ってるわ」
「じゃあ何だと思ったんだ?」
俺は自分の首をナイフに押し当てながら、自分の首を切るように、ゆっくり振り向いた。
「ネズミ?!」
しまった! 口から出た! そこにはローブを着たネズミ顔の女性がいた。暗がりでもはっきりとネズミ顔だとわかる。この世界って亜人いるっけ? 聞いたことない。初めて会う他種族がネズミ? エルフかドワーフじゃないのかよ。
「失礼ね。人間よ。お前は何者なの?」
「いや、ただの冒険者だ。人間だ」
「人間なのは分かるわよ。ゾンビってなんの事?」
くっそ、ネズミ顔なのになんかいい匂いがする。
「お前は伯爵の手のものじゃなさそうだな。場所を変えるなら教えてやる」
「ついてきて」
一ブロック離れた敷地の建物の地下室に連れて行かれた。元は倉庫のようだ。今はテーブルと椅子が置かれていて、何かの作戦本部のようだ。
「で? 話して」
「ゾンビ退治の依頼を手伝っていた。そしたらゾンビを作っているのはフライターク伯爵家のお抱え魔術師、ビクターだということが分かった。やつは普通のゾンビの何倍も強いスーパーゾンビを作り出す方法を発見した」
「なるほどね。それで屋敷の周りをうろついてたわけ?」
「ああ、事件が気になってしょうがなかった。そっちは?」
「伯爵が買った奴隷が行方不明になっているの。何人も。だから調べてるのよ」
「ゾンビに変えられたか」
「え? まさか、そんな……」
「本当だ。伯爵の手下の小男が喋った」
「そう……こっちでも調べてみるわ。あなたへの連絡方法は?」
「そこのバーのマスターに伝言を頼め。お前の名前は?」
「リリーよ。そっちは?」
「タクヤだ」
俺は王宮区画を抜けだし、バーに戻った。他に客がいなかったので、マスターに伝言があったら頼むと依頼をしておいた。
「マスター、エルフやドワーフってのはいないのか?」
「この大陸にはほとんどいませんな。南の大陸にいるという話です」
「なるほど、船があるならこの大陸にもいてもよさそうなものだが」
「なんでも、この大陸はマナが薄くて息苦しいと聞きました」
——ここでもマナが薄いのか
南の大陸ってどんだけマナが濃いんだろう。濃いってことはそれだけ強い魔獣がいるってことか。あれか、世の中は広いパターンか。この大陸を制覇したら、倒したボスより強い雑魚が別の大陸で待っているパターンか。じゃあ魔王や魔族も別の大陸に……? 逆にこの大陸にいるのはなんのため……?
——っていうか、この大陸ってどのくらいの大きさなのか知らないや……
だんだん酔ってきて、聞いても忘れると思ったのでその話はやめて、帰ることにした。
いい気分だが、さっき暗闇の中をこそこそ歩いたからか、誰かにつけられていないか不安な帰り道になった。街外れの森の中までは誰も追ってこないだろうから、なんてことはないんだけど。




