ヒント
朝のルーチンを終えて、ハウスを出た。
エリックにマジック製氷皿を渡した。水を張って、エリックに実際にやらせた。数十回は使えると思うがいつか使えなくなる、俺がいたらチャージできるってことを伝えた。
ついでに光る石ころもあげた。あと大木を三本出した。
作ってもらう家については、今の小屋をベースに少し広く、部屋の仕切りがない感じにしてもらう。どうせ俺とペプしか住まない。ついでにベッドも注文した。
「エリック、俺は拠点を王都に移そうと思ってる。地下神殿も終わったことだし、ここに来る機会は減るだろうが、気まぐれにちょくちょく寄るよ。家についてはゆっくり作ってくれ」
俺は軽く別れを告げて街へ向かった。
最後じゃないんだが、言葉にするとしんみりしたので、なんとなく気分で、村はずれに柑橘類の種を植えて、ヒール水をかけた。次にくるときの楽しみ要素を増やした。柑橘類の名前はいまだによく分からない。
街へ行く途中で骨先生とスパーをした。スパーの途中でやっと、昨日の姉幼女神が言ってた言葉を思い出した。っていうか、いろいろあって忘れてた。
『お主、もう持っておるではないか』
——俺が? 魔族を倒せる力を? 何のことだ?
俺は防御力って言ったよな。考え始めるとスパーどころではない。骨先生とのスパーでも気を抜けば死ぬ。危ない。
俺はハウスに入って考えてみた。
——もう持ってるって、やっぱ魔法だよな
IDEを開く。このIDEの仕組み、エンチャントの仕組みも強いことは強いが、これのことではないだろう。力って感じではない。
ストレージのことかな。魔族が吸い込めるのかな。魔族だってきっと生きてるから無理だろ。
あれか、謎魔法のブラインドのことか。魔族に目潰しが効くんだ! これだ!
ってバカー!
ペプが俺の顎を舐めている気がする。IDEを開いているとよく分からない。ペプか。ペプが魔族をやっつけるのか! ってそれは困るし。ペプを危険に晒したくないし。
なんか話が逸れてきた。やっぱIDEに入ってる魔法のことだよな。なにか防御力アップのヒントが……。
やっぱストレージかな。コードを開いてみる。ストレージ魔法は、対象物の指定、対象物の保護、ストレージ窓のオープン、対象物の吸い込み、保護解除、ストレージ窓のクローズ、というプロセスになっている。対象物の保護って、もしかして俺も保護してくれるかな? あれ? ビンゴ?
俺は対象物の指定と保護のコードを抜き出して、新しく呪文エリアにアイコンを作った。それをストレージと同じ詠唱エリアにセットする。
IDEを閉じて、魔法を使ってみた。すると、俺の周りに、皮膚にぴったりとなんかの膜ができたような気がする。
俺は外に出た。外に出ても膜がある。俺は骨先生を呼び出した。骨先生は問答無用で襲いかかってくる。右腕でガードしたが、木刀をはじいた。痛くない。元々、骨先生のパワーは落としてあるが、普通に殴られると痛い。
鎧を脱いで、骨先生に殴られるままにしてみた。あまり痛くない。木刀で頭を殴られた。これは結構痛かった。しかし、痛いで済んだ。なかなかの防御力だ。硬い革鎧が全身についているような感じか。これでもう似合わないヘルメットを被らなくて済むか。
ハウスに入り、もう一度IDEを開くと、俺のマナが少し減っていた。殴られるたびにマナが減るみたいだ。
この魔法をプロテクションと名付けよう。
俺は嬉しくて叫んだ。またペプをギターにしてヘッドバンギングした。
街外れのいつもの木のところまで来た。柑橘系の実がなっていた。っていうか木が大きくて実が採れない。こういうもんなんだっけ?
俺は杖で実をたたき落として、採って食べた。
——おいしい!
ヒールエネルギーで急速成長したから、栄養分が不足でパッサパサかと思ってたら、甘くていい感じになっている。俺は可能な限り実を採ってストレージに入れた。
菜園を開こうかなあ。エリース村で。めんどくさいかな。人を雇うか。ジュース飲み放題だな。冷蔵庫を作れば遠くへ出荷できるな。待てよ、俺すんげえ金持ちになったから、売る必要は全くないんだな。ジュース作って全て俺の分。なんだよこの世界、夢の大地かよ。
街に着くと、シスターに会った。
「ちょっと、探してたのよ。あら、かっこいい杖ね」
褒められた。シスターはまたゾンビ退治に一緒に行って欲しいらしい。翌朝、準備して冒険者ギルド前集合になった。今からでもよかったが。
暇だったので市場で食料を買った。次に武具屋で矢とボルトの購入。そのあと魔法道具屋に行き、掘り出し物を探したがなかった。魔石を売ろうと思ったが、よく考えたら俺は大金持ちなので、売る必要がなかった。むしろ魔石の方が金より貴重だ。魔石もいっぱい持ってるけど。
街外れから森に深く入り、スパーの続きをした。骨先生の強さと速さをちょっとだけ上げた。これはちょうどよかった。多少殴られても大丈夫と思うと、一歩踏み込んだ技を試せる。人生の歯車がいい感じにまわってる気がする。
矢とボルトを撃ってストレージに入れて、ロックフォールも補充して、マジックアローとマジックミサイルも詰め込んだ。
シャワーを浴びて、宝石にマナを充填したり、武器や石ころにエンチャントしたりした。マナを使い切ったので、大木をストレージに吸い込んで卒倒。昼寝した。
◇◇◇◇◇
目が覚めると夕方だった。居酒屋で食事を済ませて、また森に帰り、大木を吸い込んで卒倒。寝た。
◇◇◇◇◇
翌朝、ルーチンをこなして、シスターとの待ち合わせに向かう。
黒ローブで左肩にはペプ、右手にアイスショットをエンチャントしたバトルスタッフだ。
エンチャントしたアイスショットは、マジックミサイルもそうなんだが、発動時にタメがある。マナを集中させるのと発射の間に一秒くらいのタイムラグがある。その間に杖の発射口が光る。まるで波動の大砲を撃つような光り方をする。これがかっこいい。
マジックアローはタメが少なく、発射後に硬直時間がある。出は早いが連射はそうでもない。
そういうものに対してストレージショットは、全くタメがなく、どこから発射されるかも見当が付かない。ストレージから発射する意味は大きい。
考えていたら冒険者ギルド前に着いた。シスターはもういた。
「やあ、待った?」
「いくよ」
ううん、いま来たばっかり、と返して欲しかった。この世界でもこれはお約束なんだろうか? まあ、デートじゃないんだけど。
王都に行った話などをしながら歩いて行くと、目的地についた。また洞窟だ。ペプを隠して、洞窟に入った。
洞窟の中には光源がなにもない。俺は光る石ころを出した。進んでいくと、大部屋に辿り着いた。部屋の真ん中にゾンビが一体いる。覆面をかぶせられている。
「どうした? 楽勝じゃん? 俺、必要だった?」
「それがね、なんかおかしいの」
俺は石ころをゾンビの足下に投げた。うん、これは罠だ。と思ったらシスターが殴りかかっていた。
「待って! 罠だ」
シスターのメイスはゾンビの頭にクリーンヒット、そして、何か踏んだのか仕掛けが動いて、部屋の左右からたくさんのゾンビが出てきて、シスターを襲った。
「##########ファイアウォール!##########ファイアウォール!##########ファイアウォール!##########ファイアウォール!##########ファイアウォール!!!!」
「ちょっ!!! 何発撃つの?!」
辺りは一面の炎だ。ゾンビが焼かれながらも近づいてくる。黒い煙がもくもくと部屋を満たし始める。
「逃げるぞ!」
俺はシスターを抱えて部屋を飛び出した。あ、俺、筋力が上がってる、シスターを抱えながらそう思った。以前は人を持って走るなんてできなかった。
それは今はどうでもよく、辛うじて洞窟の入り口まで逃げてきた。ゾンビもヤバいが煙もヤバい。
洞窟から燃えながら出てきたゾンビをバトルスタッフで殴ろうとして、止めた。スタッフが汚れる! 俺はストレージからメイスを取り出してゾンビの頭を殴った。
全部で六体、燃えながら出てきたのを順番に殴って仕留めた。これで最後らしい。
俺はシスターに何か言おうとしたが、言葉が出なかった。
「…………」
「ちょっと焦ってしまいましたわ」
口調が変わってるぞ。
「とにかく助かりましたわ。ありがとうございますわ」
「…………」
「たまにはこういうこともありますわ。ゾンビは危険なモンスターですわね」
ゾンビよりあんたが危険だよ……。
「煙を見て誰か来るかも知れないから、場所を変えようか」
場所を変えると言いながら、街に戻ってそのまま解散になった。
まだ昼過ぎくらいだったが、さっとシャワーを浴びて焦げ臭さを流した後、ローブを着替えて居酒屋に行った。飲みながらちょっと考えたかった。
あの罠、確実に狙ってたよな。人間が。罠なんだからそうだが。狙われたのはシスターで間違いないだろう。他にゾンビハンターがいるのかどうか知らないけど、そう考えておいた方がいいよな。
もう一回整理すると、誰かがゾンビを使って、シスターを狙った。仮に狙われたのがシスターじゃなくても、結構な事件だよな。人間が裏で手を引いてゾンビを使って人を襲っている。シスターは気づいているのか? 相当頭弱そうだけど。
その日は飲んだくれて寝た。




