配達
目が覚めて、朝のルーチンをこなす。昨日のランニングの疲れは少しも残ってない。すごいな。年齢的な理由で身体を鍛えることを諦めていたけど、こんな感じなら考えを改めようか。
今日は街中にいるのでスパーができないが、気持ち的にはすぐにでも昨日もらったバトルスタッフを試してみたい。骨先生が砕けちゃうかな。スケルトンウォリアーとスパーしようか。俺が砕けちゃうかも。
肉体強化のポーションを飲んでみたい。いつ飲むのがいいんだろ? やっぱジャイアントと殴り合う時か。そういや効果時間を聞いてなかった。
まあいい。まずは依頼をこなす。そして宝石を買い取ってもらい、魔女っ子に会いに魔法道具屋に行き、そしてヨーギに帰る予定だ。
俺は魔術師ギルドのローブを着て、昨日もらったスタッフを片手に、ペプはお留守番で、王城区画へ向かった。
区画は王城を囲む壁で仕切られている。一般の区画は、門番が立ってはいるが誰でも入れるのに対し、王城区画への立ち入りはがっちりガードされている。
俺は衛兵に身分証を見せ、訪問理由を伝えた。ついでに訪問先のフライターク伯爵家のへの道順を聞いた。
配達は滞りなく済んだ。応対した伯爵の手下が無礼(意味を取り違えているのでは?慇懃の意味は「真心がこもっていて、礼儀正しいこと。また、そのさま」)なやつだったが、そんなもんだろう。腹を立てるだけ損だ。
俺は王城区画を出て、冒険者区画へ向かった。そう呼ばれているらしい。ペプをハウスから出して一緒に歩く。
貴金属店に寄って、宝石を三つ売った。マナ充填量が低い物をピックアップした。やはりマナが充填されていると高品質に見えるらしく、予想より多めの金貨十二枚で売れた。チョロい。
店主に、エンチャント宝石が売っているがソケット武器が売ってないことについて尋ねた。ソケット武具は基本的にサンデージ国でオーダーして作ってもらうものらしい。冒険者がダンジョンで落として、つまり死んで、それを別の冒険者が拾って街で売って出回ることもたまにあるとのこと。
一度使ってみたいが、サンデージ国ってどこか分からないけど遠そうだし、ドロップ品が出回るのを待つか。必要ではないしな。
俺は貴金属店を出て、魔法道具屋に向かった。大人の魔女っ子がいた。
「やあ、鑑定を依頼したいんだが」
俺はブレスレットと剣を出した。リッチのドロップ品だ。
「これはブレスレットじゃなくてアンクレットですねー。足が速くなったり転びにくくなったりしまーす」
つまり足の筋力が増すのかな?
「効果時間は、そうですね……付けっぱなしで1週間くらいでーす」
マジックアイテムは、基本的に効果時間が限られている。魔法陣に充填したマナが消費されて無くなるまでだ。俺はマナを充填できるので何も問題ないが。
アンクレットの充電、いや、充マナも朝のルーチンに入れるか。まてよ、夜寝る前の方がいいな。でも夜は忘れそう。
「こちらの剣は、茨の剣でーす」
「茨の剣?」
「斬ると剣の先から魔法のトゲトゲが出てダメージが増しまーす」
「ちなみにその魔法のトゲトゲってやつは、人間には効くのか?」
「人間には効かないでーす。魔法生物にしか効きませーん」
マナのエネルギーを直接、敵にぶつける魔法は、魔法生物にしか効果がないらしい。魔法生物以外——人間や野獣——には、マナを変性した炎熱や冷気などが効く。
「この剣は小さいトゲトゲが出るタイプでーす。三十回くらい使えまーす」
なるほど。ふと思いついたが、ハルバードにでかいトゲトゲとか超かっこよさそうだ。作れるかな?
「この剣を買い取って欲しいんだがいくらだ?」
俺は俺製の炎熱の剣を出した。
「これは……ほほー、刃の先から炎が出るタイプですねー。見たことないでーす。二十回ですかねー。金貨二枚で買い取りまーす」
「じゃあ、それで頼む。ちなみにこれって、使い切ったらどうするんだ? どっかでチャージできるのか?」
「魔術師ギルドでお金を払ってチャージできまーす」
掘り出し物はなさそうだった。魔石を一個売って店を出た。
俺は時間がかなり余ったので、商業地区でたんまりと買い物をして暇つぶしをして、乗合馬車でヨーギに向かった。
ヨーギに着いたのは夕方だった。
活動はまた明日にしよう。いつもの街外れが今夜の宿だ。世界が滅ぶと言われても結構マイペースに生きている。まあ、サボっているわけじゃないが。
ジンをロックで飲みたいので、今夜はペプと一緒に宅呑みだ。ペプには水だ。
飲みながら、もらったバトルスタッフをしげしげと眺めてみる。かっこいい。テントの支柱を竹刀代わりにして棒術のトレーニングをしようか。独学になるが、まあいいだろ。俺の戦闘スタイルは魔法との組み合わせだから、そういうのは誰も教えてくれないだろう。魔法っていうか、魔法で目潰しするやや卑怯な戦法だが。
これってエンチャントできるよな。何をエンチャントしようか。一回きりだから迷うな。っていうか本当に一回きりか? 魔法陣が剥がせるんじゃないか?
俺は加熱メイスを取り出し、先端に付いている魔法陣を剥がそうとしてみた。
——ペリッ
普通に剥がせた。シールのようだ。何度でも貼り替えできるじゃん。これもしかして、二つつけることもできる?
俺はメイスの先端に、片面は加熱、片面は冷凍を付呪した。そして風呂にドボンと入れてスイッチを入れた。メイスの片面からはジューっと、片面はピキピキと凍り始めた。おもしろい。
二つ目の魔法陣は、少し距離を離さないと設置できないようだ。その分、魔法陣が小さくなってしまい、マナの充填量は下がる。複数設置しても、効果的ではないかも知れない。でも例えば剣、刃の部分にエンチャントの魔法陣を置いて、効果範囲を広げて設定しているが、可能な限り魔法陣を敷き詰めれば……炎がたくさんでる剣とか、剣のつばのところは冷気が出るので使ってても手が熱くならない剣とか、冷気と炎熱、どっちかが弱点なら効く剣とか作れるんじゃないだろうか?
魔女っ子は正しく鑑定できるだろうか? やってみよう!
とりあえず、手が熱くならない炎熱の剣を作ってストレージに入れておいた。今度王都に行くのが楽しみだ。
次にIDEで茨の剣のコードを呪文エリアにコピーした。いったん閉じて、茨の剣を眺めていると、暫くして魔法陣が見えてきた。魔法陣と同時に、茨の形も見えてきた。ちょっと棘が多い薔薇の茎が刃に絡みつくような感じだ。自分でも作ってみよう。
スケルトンウォリアーのハルバードを拝借する。刃の部分に茨の魔法陣をペタッと貼り付ける。トゲトゲを粘土細工のように魔法陣から手で伸ばして形成していく。ハルバードは、大きい円錐の棘が四本飛び出るような形にしてみた。作ったはいいが、これ使えるだろうか? 重いし。当たらない気がする。リッチなら鈍かったから当てられるか。
さて、スタッフには何をエンチャントしようかな。発動方式には、今のところ、思考によるスイッチと接触がある。炎熱の剣の場合は接触して発動する。接触って言っても触ったらどんな場合でもすぐ発動するわけじゃなく、戦ってるって状況じゃないと発動しない。思考による安全装置が付いているんだと思う。
バトルスタッフには、新しい魔法、アイスショットを付呪することにした。ファイアボール改めファイアショットのコードをコピーして、それを冷却に変えた。これで上手くいくかどうか、明日確認しよう。石突きの方にも何か仕込みたいなあ。
明日は地下神殿に行こうかな。それともダンジョンを攻略するか。エリース村にも行きたいから地下神殿かな。
◇◇◇◇◇
朝起きて、ルーチンをこなし、外に出た。スパーは街から少し離れたところでやらないと、人に見られて、俺がスケルトンに襲われてると勘違いされて厄介なことになる。
ふと見ると、一昨日植えた柑橘系の木が生えてる。既に俺の背丈よりも高い木になってる。びっくりした。元からあった木も、心なしか以前より生い茂ってる気がする。
そういやエリース村の森林浸食事件、魔石が置いてあったのが原因だったな。マナは植物の成長に影響を及ぼす。俺が植えた種には、ヒール水が効いたのかマナ水だから効いたのかわからないが、効果はあるんだな。実がなるのが楽しみだ。
俺はエリース村に向かった。
途中で森に入り、骨先生とスパー。テントの支柱をバトルスタッフに見立てて、防御を中心にトレーニングした。
次に、可哀想な犬二号を呼び出し、アイスショットの餌食になってもらった。骨の胴体にあたり、骨が砕けて、その周りが凍った。このアイスショットの中身は魔法でできているものだから人間にはほとんど効かないはず。でも冷却は人間にも効果があるので、手に当たったら武器を触れなくなるし、足に当たったら動けなくなるだろう。IDEで確認したら、二、三十発くらい撃てそうだ。いい感じになった。
シャワーを浴びて、足首にアンクレットをつけた。エリース村へ歩き出すと、足が軽い。すごい。しかし思った、俺この先一生、このアンクレットを外せない。外したら身体が重くなる。これが呪いのアイテムってやつか。
まあいいか。でも今後もこういうのいっぱい見つけてどんどん身につけて、ジャラジャラした人間になるのかな。チャラい。次はピアスが欲しい。
バトルスタッフを持つ手が重い。見た目より軽いんだが、ペプを左肩に、右手にスタッフを持ってると重い。しかし、これ超かっこいいし、ローブを着てるとそれっぽいから持ち歩きたい。まあ、今のうちだけでも。
村へ向かおうとしたら、鹿が現れた。寄ってきて俺に頬ずりを始めた。アミュレットの効果か。困った。お食事にしたいんだが、これじゃ殺せない。ほっといて村に向かったら、ずっと付いてきた。
「やあ、エリック。頼みたいことがあるんだ」
「それ、食べていいかい?」
鹿はエリックの手によって天に召された。エリックのお隣さんの手によって、鹿肉へ変わった。肉を半分もらった。罪悪感はすごい。
エリックに、製氷皿について口頭で説明した。すぐ作ってくれるという。村のために二つ三つ余分に作っておけばいいよと言って、地下神殿へ向かった。




