バー
朝のルーチンのあと、骨先生とスパーをした。なんとなく今日は素手で戦ってみた。思いきり殴ると拳が痛い。すげえ痛い。手のひらでカウンターを取ったり、出足にキックをしたり、バランスを崩させたりして戦った。
スパーの後のシャワールームでは、常備灯にしてた魔石は使えなくなったので、親指大の水晶に光量を落としたライトをエンチャントして置いた。宝石にはマナを大量に充填しておけるので、そのマナをライトの魔法が使うとすれば、かなり長い間も充填しなくても大丈夫なはずだ。この水晶の常備灯、量産すれば売れるかも。どっかで水晶を仕入れてこれないだろうか。洞窟とか?
そして今日は、魔術師ギルドまでランニングをする。
元の世界でぶっ壊した膝がよくなってる気がするんだよな。走って確かめてみるのと、もしかしたらヒールをし続ければ何百キロも走れるんじゃないかと思って。そういうわけでペプはお留守番。
ローブを脱いで走り始めた。スマホもGPSもないから何キロ走ったか分からない。以前は二キロ走ったら力が抜けるような痛さで走れなくなった。
ブーツがすんげえ走りにくい。この世界ってランニングする人間いないのか? もしかして俺、珍狂なことをやっているのではないだろうか? しかしランニングは身体作りの基本だ。万人がやった方がいい。
走りながらも定期的にヒールをする。息をするように。ペースを速くすると息が上がって苦しくなるが、有酸素運動の範囲なら永遠に走り続けられるような気がしてきた。膝はもう大丈夫そうだ。
さすがにちょっと疲れてきたので休憩。ヒールは疲労にも多少効くが、ポンと飛ぶようなことはない。
俺はハウスに入ってペプの様子を見た。丸くなって寝てたので、そっとハウスを出た。
休憩しつつ、矢とボルトをストレージに補充、スリングの石も。海で一回使ったし、この先も使うかも。マジックアローとマジックミサイルも補充した。
また走り出した。靴がなあ。スニーカーが欲しい。ゴムさえあれば、品質はともかく今よりマシな靴が作れるかな? ゴムの木さえあればいいんだよな。ゴムの木って言っても知らないから見ても区別がつかないんだけど。
魔術師ギルドに着きそうだ。時間も距離も分からないので、ランニングのモチベーションは上がらないかも。ログや記録を録るって重要だ。今日だけの一日坊主になるかも知れない。今日は二時間は走った気がする。
ハウスに入り、ざっとシャワーを浴びて、ローブを着てペプを連れて、ギルドに入った。訪問理由は、定期的に顔を出せと言われてるからだ。仕事を用意してくれるらしいし、今回に関してはなんか武器をくれるらしい。ちょっと待て、仕事って、俺やる必要ないぞ、金持ちだから。
「やあタクヤ、待っていたよ」
ヴァレリウスがいた。傍らに魔術師ギルドのお揃いのローブを着た女の子がいる。
「彼女はエミリー。魔術師見習いだ」
「よろしく、エミリー」
「よろしくお願いします、タクヤさん、猫ちゃん」
金髪でポニーテール、意思が強そうな目と眉毛、それほど高くない鼻、血色のいい唇、尻顎。美人だ。スキンケアをすれば女優になるだろう。テレビがなくてもこの世界にも女優やアイドルはいるはず。舞台演劇とかあるのだろうか。
「約束通り、君に武器を用意した」
ヴァレリウスは俺に杖を渡した。銀色の金属製だが見た目より軽い。杖の先は簡単に飾り付けられている。魔法の杖というよりも、メイスの先に近い。杖の逆の先端は尖った石突きが付いている。
「魔術師の杖をアレンジしたバトルスタッフだ。攻防一体の武器が君には似合うかと思ってね」
お礼を言ってありがたく頂戴した。ローブを着ていれば魔術師に見えることだろう。
「それと、仕事があるんだが、受けてくれないか? この子に頼もうと思ってたんだが、別の予定があってね」
肉体強化ポーションを五瓶、王都の貴族へ配達する仕事だ。いわゆるお使いクエストだ。
「肉体強化とはどういうものなんだ?」
「その名の通り、身体を強化する。筋力、敏捷、打たれ強さなどだ」
——打たれ強さ! めっちゃ欲しい。
「一本もらえないか? この仕事の報酬でいい。足りなければ金を払う」
「いや、問題ない。先に渡しておくよ」
先払いだ。信用されているのか?
「それと、ギルドのローブを着ていくといい。身分証も作ってある。貴族の住居区画に入る時に必要になる」
ローブと身分証を受け取った。羊皮紙だ。お使いが終わったらマナ水に浸してもいいだろうか? ダメか。それと、今気がついた。ポーションの瓶がガラスだ。
「ガラスか?」
「そうだ。材料があれば土魔法で精製できる。しかし高価なので、できれば飲み終わった瓶は返して欲しい」
「ポーションというのはどうやって作る物なんだ? 俺でも作れるのか?」
「やる気があるなら教えよう。素材を乳鉢と乳棒で磨り潰し、計量、混合、蒸留、マナ注入が基本の流れだ」
「いや、いい、俺には合わなそうだ」
めんどくさそう。
他にこの世界のことや魔法のことなど、疑問に思ってたことを聞ける範囲で聞いた。なんとなく、魔族の倒し方については聞かなかった。めっちゃやる気があると思われるとなんとなく都合が悪いと思ったからだ。
俺はギルドを出て、馬車で王都に向かった。王都についたら夕方になっていたので、配達は翌日にする。
王都のヨーギ側の門、西門のあたりは商業区画と呼ばれているらしい。主に商人で賑わっている。
俺はヨーギでは売ってなかった食材を買い集め、バッグに入れた。新しい食材を入れたら、底にある食材をストレージに入れる。永久に入る。
雑貨屋にも行った。なんだかんだで箱や壺やデキャンタを使ってる。必要そうなものを買い増しした。特に皿やボウルは、露店でスープを買うときに使う。とにかく買いまくった。
なんとなくだが店の外見な酒の種類にこだわってそうな雰囲気の居酒屋に入った。オーセンティックバーっぽいところだ。そしたら、猫はお断りだと言われた。腹が立ったが、酒のためだ、ペプに我慢してもらうしかない。一度店の裏でペプをハウスに入れてから入店した。
買い物して歩いていたらいつの間にか貴族の住居の方まで歩いてきていたらしい。この世界の酒場はみんなわいわいガヤガヤやってるものかと思ったら、こういう落ち着いた、酒の味がメインのバーもあったんだ。バカっ高いけど。まあいいや、金ならある。宝石で払えたら換金の手間が省けて楽だなあ。
バーは、蒸留酒がメインだ。ジュニパーベリーを使ったジンと、ウイスキーもどきがあった。氷はないらしい。水にもこだわってると聞いた。なんとか山の水源地を教えてもらったが、翌朝には名前が出てこなくなってた。めちゃめちゃ行きたいんだが。メモがない。ギルドでもらった身分証の裏にでも書いておけばよかったか。ペンがないや。
何杯か味見して、気に入ったジンとウイスキーをデキャンタで買った。ハウスに戻ったらオンザロックだ。イヤッホウ!
ドライフルーツのつまみも美味しかった。市場で売ってるとのこと。明日行こう。
その日は路地裏でハウスに入り、ウイスキーロックをやりながら寝た。




