生活改善
馬車がヨーギに着いたのは日が暮れた後だった。
光る石ころを、ダンジョンで拾ったマジックアイテムだけどって、馬車に乗せてくれた商人にプレゼントしたらたいそう喜ばれた。お礼に塩を一袋もらった。そのうち光らなくなるってことはちゃんと言った。
居酒屋でメシを食べて、酒をテイクアウトして、町外れでハウスに入った。
盗賊からゲットした物資をチェックする。馬車の上でもできたが、マジックアイテムとかあったらやきもきするので、後のお楽しみにしておいた。
樽が六つ。内訳は水二つ、干し肉と魚の塩漬け、果物、塩、酒だった。塩をお礼に二袋もらったのに、樽でゲットしてしまうとは。塩漬けの樽にもたくさん。まあ、いくらあってもいいだろ。
武器類は剣が十六本、メイス類が十本、斧が五本、木の盾が十枚、弓が十本? 数え方がわからないや。矢は二百本くらいある。弓はいっぱいあってもしょうがないかな。使いやすいのが一つあればいいから売るか。剣はエンチャントして売るか。
お楽しみの宝箱の中は、金貨が三枚、銀貨が八十五枚、アイスのスクロールが五枚、小粒の宝石類。
盗賊の頭のロングソードは、マジックアイテムではなかった。ただ、毒が塗ってあると思う。臭う。乾燥しているが有効なのだろうか。大ネズミにでも試してみるか。
もし斬られていたら、ヒールで解毒できただろうか? 怖い。検証もできない。
その他、盗賊の死体から小銭をかき集めて銀貨十二枚分。
えっと、これはハズレかな……。新しい魔法か魔法道具が欲しかったんだが。まあ、金にはなった。塩が地味に嬉しい。
元の世界の外国には、手から灰を出す人間がいた。その不思議な技を活かして宗教の教祖をやっていた。トリックだろうが。俺は手から塩を出すことができる。教祖になれるかも。
マジックアイテムや宝石類に充填してマナを使いきって寝た。
◇◇◇◇◇
夢を見た。
道を歩いている。ストレージの死体が動き出す。俺の目の前の空間に穴を開けて、出てこようと頭を出す。俺はそれにマジックアローを撃つ。すると死体は引っ込む。しかし、別の死体が出てこようとする。マジックアローを撃つ。次々と出てこようとする。たまにペプが混ざってる。ペプが出てきたら撫でてあげると引っ込む。マジックアローを撃つわけにはいかない。死体は、数と速度を増して次々と出てこようとする。ずっと続く。
◇◇◇◇◇
起きた。ペプを抱き寄せて撫でた。
IDEを開いてちょっと整理する。俺が使える呪文は、ストレージを除くと、
・ファイアボール
・アイス
・ヒール
・マジックアロー
ファイアボール、または炎熱のエンチャントはほぼ同じ。加熱して発火。じゃあリッチのファイアボールの爆発は何だったかって言う。
やっぱ別物だろうか? ってコードを調べればいいんだ。
リッチのファイアボールのコードを見てみると、爆発が付与されていた。つまり、魔法準備、ボール生成、熱上昇、発火、接触爆発付与、発射というプロセスになっている。完全に別物だ。
そもそもインプのファイアボールがファイアボールじゃなかったのか。俺が元の世界で知ってたインプはファイアボール使ってたから……。
呪文エリアのファイアボールアイコンをリッチのやつに直した。
ファイアボールのコードを改造すれば、マジックミサイルを作れるんじゃないだろうか? エンチャントして爆発する剣とか。やってみようか。
呪文エリアのファイアボールアイコンを、コピペして複製する。コピペは初めてやったけど普通にできた。このGUIのインターフェースは完全に俺向けに出来ている。不思議だけど今はそれは置いとこう。
コピーしたファイアボールのコードを開いて、熱上昇、発火のコードを消す。俺は直接は魔法を発射できないので、盗賊からゲットしたメイスにエンチャントする。
さっき発見したんだが、ハウスの中でエンチャントする時は、エンチャントしたい呪文を思い浮かべると、右手の手のひらに魔法陣が浮かび、大きさを調整して、エンチャントしたいアイテムにペタッと貼るとエンチャントできる。マナの補充も、アイテムを持ってマナを流し込むだけで満タンまで充填できる。頑張って集中してIDEを開かなくても可能だ。これがハウスの外に出るとできない。ストレージの中にいるからできるんだろう。
外にでて、可哀想な犬を出し、念のためっていうかリッチのファイアボールそのままなら大変なことになるので、かなり距離を取って、マジックミサイルを発射した。
——ボカン!
ものすごい爆風とともに、可哀想な犬は粉々になった……そして、残念ながら復活しなかった。さようなら……。
IDEを開くと、マジックミサイルメイスのマナ残量は半分だった。あの威力なら二発撃てるだけでも万々歳か。充填の最大量を増やせないだろうか?
次に俺は、贈答用のお菓子くらいの大きさの木の箱を取り出して、蓋にアイスのエンチャントを施した。
箱に水を入れて、蓋を閉めて、アイス魔法を発動。氷ができた! イヤッホウ!
水をコップに入れて、氷をナイフで砕いて入れる。これだ!
ペプにも氷をあげた。転がして遊んで、手をブルブルしたあと、肉球をぺろぺろした。
製氷皿をエリックに作ってもらおうかな。
俺は十回、氷を作ってストレージに保存した。IDEを開いて箱を確認すると、マナが四分の三くらい残っている。マナの充填量が多い。魔法陣の大きさが充填量に関係してるような気がする。
次に、風呂を沸かしたりお湯を作ったりする何かが欲しい。焼け石をハンディに扱えそうなやつだ。魔法は、ファイアボールの熱上昇のコード。ホットプレートも欲しい。仕方ないからまたメイスにするか。とりあえず。あとで街でいい感じのものを探そう。
メイスを水で洗って消毒魔法をかけ、先端に魔法陣をつけて、風呂に入れて、意識でスイッチを入れる。だんだん熱くなってきた。成功だ。メイスはお湯をかき混ぜるのにもちょぅどいい。便利アイテムだ。
このお湯はシャワーにも使える。シャワー用にお湯を作り貯めておく。
次に、ライトを作る。使わなくなったランタンにエンチャント。光量を抑えてルームライトにする。いや、待てよ、小屋そのものにエンチャントすればいいんじゃないか?
俺はルームライトの魔法陣を小屋の壁に貼り付けた。壁の魔法陣を貼り付けた箇所がぼーっと光る。間接照明のようだ。これはいける! 一つを除いて、転がってた魔石を回収した。一つは常夜灯だ。
「ペプ、どう? 明るくなっただろ?」
「ナア」
ペプも嬉しそうだ。
ランタンは、シャワールームに置くことにした。こちらも常夜灯にする一つを除いて、魔石を回収しようとしたんだが、ルームライトにしていた魔石が、前より小さくなっている気がする。小屋の方の魔石はそんなことなかったはず。本当にシャワールームの魔石が小さくなってるとすれば、水か蒸気が原因か。
試してみる。ガラスのグラスが欲しいが、そんなものはない。氷を作ったときと同じような大きさの箱に水を入れ、魔石を入れる。しばらくしても大きさは変わらないようなので、試しに発熱メイスを使って水を温めてみた。すると、魔石が水に溶け出して小さくなっていく。水は薄ぼんやりと青白くなった。
——これってもしかして、白紙のスクロールを作るときに浸すやつ?
そうかも知れない。紙がないので検証できない。
マナが溶け出した水、他に何か用途がないだろうか? 飲んでみるか? エンチャントできたりして。いや待て、普通の、ただの水にエンチャントはできないだろうか? もちろんヒールだ。ファイアボールなんかエンチャント出来た日には……何が起こるんだろう? ちょっと興味ある。
俺は箱に水を入れ、水面にヒールの魔法陣を貼り付けてみた。水はピンク色に染まったものの、数秒で元通りに戻ってしまった。
今度は魔石が溶けた水に対し同じことをやってみた。すると水についた色が時間をおいても薄まらずにそのままだ。恐る恐る飲んでみると、ヒールの効果があるみたいだ。怪我してないから分からないけど。
「ペプ、困った。検証できないや。誰かをこっそり襲って飲んでもらおうか?」
盗賊を捕まえて半殺しにして効果を確かめようか。それもどうかな。まるっきり悪者がやることだよな。俺はとりあえず容器に入れてストレージに入れておいた。そのうち俺が怪我をすると思うし。
ところでシャワールームの排水だが、かなり薄くなっているが水に魔石が溶けているってことだよな。なんかもったいない。使えるかどうか分からないけど。俺はこういうところが貧乏性だ。
樽に排水を貯めて、ヒールをエンチャントしてみた。マナが八割減った。ちゃんとエンチャントできたみたいだ。作ってみたけど元が排水だから飲む気はしないし、今のところ誰かに飲ませる気もない。
以前からヒールの仕組みについて考えていたことがある。ヒールは、自己治癒能力の促進と強化である。脳が身体に修復命令を出している通りにしか修復できない。逆に言えば、脳がこうなりたいと思っていれば、それをマナを使って促進することができるはず。つまり無傷の子供にヒールすればどんどん成長するのではないか。子供については倫理的に実験も何もすべきではないとして、植物はどうだろう? 植物に脳はないが、常に成長している。マナを使って促進ができれば、即席栽培ができるのではないか?
というわけで、ハウスの外に出て、街外れに生えてる木にヒール水をかけてみた。特に何も反応がなかった。
離れた地面の土を掘って、柑橘類の種を植えて、ヒール水をかけてみた。特に何も反応がなかった。
さみしい気持ちになるとともに、誰かに見られていないか周囲を確認した。ばつが悪い。
「ペプ、なんだかむなしくなったよ」
ペプは俺の顎を舐め始めた。
最後は残念だったが、朝からいろいろ改善ができた。特に生活面での改善は大きい。ここで生きていくのがより楽しくなってくる。
俺は朝のルーチンをこなしながら、今日は何をしようか考えた。




