ダンジョン(2)
先に進む。途中で大オオカミを四匹狩った。そして地下五階に着いたようだ。階段らしいものはなかったが、角度が急な下り坂で区切られていた。
地下五階は今までと雰囲気が全く違った。とんでもなく広い縦穴、壁際に螺旋状に地面があり、下へと続いている。日の光があるはずは無いのだが、天井が明るく光っている。常に曇り空の明るさだ。地面にはまばらに草木が生えている。
中央は中空だ。高所恐怖症の俺は地面に伏せながら覗いてみた。足が震える。遙か下に地面が見える。螺旋の坂道のところどころにジャイアントがいるようだ。螺旋は狭く、坂も急だ。そこで戦うのは自殺行為だ。
ジャイアントは、思ってたほど大きくはなかった。背の高さは三~四メートルほどあるが、線が細い。ヒョロいのである。しかしその分、敏捷そうだ。太くて鈍重な方が楽だったかも知れない。大オオカミの皮で作ったと思われる腰布以外は裸だ。肌の色は白いが、汚れで茶色く見える。頭髪と髭は伸ばし放題のようだ。知能はあるんだろうか? 格好から考えるとほぼ無さそうだ。
手には剣があり、肩に担いでいる。普通の大きさの倍はある大きな剣だ。誰が作ったんだ……。
さて、どうすっか。今なら帰れる。でもジャイアントの実力を確かめてから帰ってもいいな。あいつ、低い洞窟には入れそうにないから簡単に逃げ切れそうだし。逃げる途中で転んだら死ぬかも知れないけど。ジャイアントの重心が高いから、両足にワイヤーを絡めれば倒れるからやっつけられる。星大戦で見た。でもワイヤーはないな。さて。
——とりあえず正攻法で行くか。
ジャイアントを釣りだすために、矢を数発撃ちこむ。
——ゴアアアアア
怒った。当たり前か。矢は三発、胴体に命中したが、致命傷ではなさそうだ。走ってくる。動きは思ったほど速くない。が、歩幅が大きいのですぐに迫ってきた。そして剣を振り下ろす。
——ディスアーム!
デカい剣をストレージに吸い込んだ。隙ができた。左膝を剣で、野球のバットを振るように打ち込む。倒れない。
——ブラインド!
怯んだ。もう一度、左膝を思いっきり斬りつける。ジャイアントは片膝をついた。いけるか?
——石!
後頭部にクリーンヒット!
うつ伏せに倒れたところを背中から心臓に剣を突き刺した。動かなくなってしばらくしてからストレージに入れた。勝った。
ジャイアントの怒号を聞いて仲間が集まってくるかも知れない。俺は五階の入り口まで撤退し、ストレージハウスに身を隠した。
「ペプ、すげえでっかい人をやっつけたよ」
「ナア」
ペプは寄ってきて俺の顔を舐め始めた。
ジャイアントの腰に革でできた袋が付いている。中身は……宝石類とアクセサリーがごっそり入っていた。さらに俺は金持ちに!
時刻はわからないが、キリがいいのでランチにする。ペプにも生魚をあげる。ここは明るいけど、夜はどうなるんだろうか?
特に怪我をした訳ではないが、念のため改造ヒールを全身にかける。この魔法はちょっとマナコストが大きい。緊急用ヒールとは別にしないとだめか。
「ペプ、ジャイアントが楽チンでおいしいよ。もっと狩ろうか」
マジックアローを試してみたい。
休憩を終えて外に出た。次のターゲットを探すと、坂を下った先にいた。
しかし、誰とも会わないな。強敵がいなかったからこの階に冒険者がうようよいるかと思ってたのに。そういやジャイアントを倒して宴会やってたっけ。みんな弱いのかな? ってジャイアントをたまたま一匹だけ倒した俺が調子に乗る。てへ。
ターゲットのジャイアントは、ゆっくり歩いている。かなり遠くだ。他に仲間のジャイアントがいないかは確認できない。うまくこの場から攻撃して、複数で来たら逃げる、一匹だけだったら戦う作戦ができれば楽だ。
マジックアローも、俺に当てれば覚えられるだろうか? さっきIDE見たときにはなかった。まあ、覚えたところで発射できないんだが。そういや、マジックアローってどう飛ぶんだろ? 放物線? それとも重力関係なく真っ直ぐ? って今、試してみっか!
——マジックアロー!
ストレージから発射するから別に心の中で叫ばなくてもいいんだが。俺はマジックアローをターゲットに発射した。呪文は、真っ直ぐに飛んでいった。魔法は重力に引かれないのか。そして、ジャイアントの右腕に当たって刺さった。少し狙いがずれた。敵が歩いていたから仕方ないだろう。
ジャイアントが俺に気づいて大股に走ってきた。右腕にマジックアローが刺さりっぱなしだ。もう三発撃った。マジックアローはガードした右腕に刺さった。
それにしてもなかなかの威力だ。自分に撃たなくてよかった……。
ジャイアントは吠えながらもこちらに向かってきた。右手に持っていた武器は落としたし、いつものパターンで余裕だ。
——ブラインド!
そして膝を斬ろうとして……蹴られた! 咄嗟に両手で防御した。間に合わなかったらヤバかった。両腕が折れてる。俺は三メートル吹っ飛んだ。螺旋の坂の途中だったら、底に落ちて終わりだったかも……。
——マジックアロー!!!
目潰しを食らってもがいてるジャイアントの顔を狙っで三発撃った。左手に当たったが、貫通して顔に刺さった。
——もう十発!!!
頭にグサグサと刺さった。ジャイアントは仰向けに倒れ、動かなくなった。
——腕を治さないと……隠れる方が先か?
俺はハウスに入った。ヒール…………集中できない。じゃあポーション……蓋が開かない……落ち着け、とにかく落ち着け……ヒールエネルギーを腕に……右腕から……次は左腕…………あばらも折れてる……ついでに全身にヒールを……。
助かった。死にかけた。ブラインドをしなかったら、効かなかったら、位置が悪かったら、敵の仲間がいたら、何かちょっと違ったら死んでた。あと何回、死にかけるんだろう。死にかけるどころか、そのうち死ぬかも知れない。世界が滅ぶって言われなきゃこんなことやめてのんびり暮らすのに。
俺は窓を開けて外を伺った。何もいない。少なくとも前方には。
外に出て、落とした剣と吹っ飛んだ兜、ジャイアントの死体と、ジャイアントが落とした剣をストレージに入れた。
疲れた。いったん外に出たい。休んでから出ることも考えたが、リポップされると厄介だ。今、出た方がいいだろう。ストレージハウスに入っていても、ここでは安心して寝られない気がする。
俺はこの階を去り、洞窟を足早に登っていった。帰りはスライムとコウモリ以外はいなかった。すんなりと地上に出られた。




