ダンジョン(1)
服屋に行ったらオーダーした服が仕上がっていた。着てみたらいい感じだったので、同じ服を数着追加オーダーした。
そろそろ洗濯物が溜まってきた。洗濯屋はいないのかな? 川に行けばみつかるかな?
市場でメシを買って、居酒屋に飲みに行ったら、宴会してた。ジャイアントを初討伐した記念らしい。以前に見かけたパーティかな? こういうの、見てるだけで楽しくなる。俺はもちろんコミュ障なので参加はしない。
いい感じに酔ったので、街外れまで歩いて行き、そこを寝床にした。
◇◇◇◇◇
翌朝、朝のルーチンをこなしたあと、魔法の杖の効果を調べてみることにした。
IDEを開いて、一体のスケルトンウルフのパラメータをいじり、最弱に設定する。マナは最大まで補充した。こいつに向かって試してみる。名前をつけよう。可哀想な犬、だ。
杖にもマナを補充する。半分くらいだったが今は満タンだ。
外に出て、可哀想な犬をストレージから出した。弱くしすぎたのか、生まれたての子鹿のようにぷるぷるしている。
さて、杖を構えて、
——撃て!
杖から魔法のエネルギーの矢が飛んで、可哀想な犬に当たり、刺さった。
——ナニコレヤバい
マジックアローの杖かな? 光の棒みたいなのに矢尻と羽根がついてたから、アローでいいんだよな。狙いは杖の角度で決めるのではなく、自動のようだ。トリガーと同じく、思考で制御できる。使いやすい。
可哀想な犬が再生したので、俺はアイスのスクロールを取り出した。A4の羊皮紙にいろいろ書いてある。真ん中には魔法陣が描かれている。これが本体なのかな。そして上部に「アイス」って書いてある。
「アイス!」
——ピキピキピキ
可哀想な犬が凍ってしまってぷるぷるしなくなった。スクロールの魔法陣が消えていた。紙は再利用できそうなのてとっておく。最悪、便所紙として……。
ハウスに戻ってIDEを開く。杖のマナを確認、十分の一程度の減りだ。撃てるのは十発かな。
魔法欄にアイスが増えていた。唱えることはできないが、ファイアボールと同じく俺の身体を凍らせることはできるんだろう。
俺はもう一度外に出て、マジックアローを十発、ストレージに詰めた。
もう一度IDEで杖にマナを補充すると、俺のマナ最大値の二十分の一で補充できた。こまめにストレージに準備しておこう。準備ついでにクロスボウのボルトもストレージに補充した。
弓を試してみる。使うのは初めてだ。原理と使い方は知ってる。俺には膨大な知識がある。フィクションの。
狙いはどうでもいい、ストレージから撃つから。真っ直ぐ飛べばオッケーだ。余裕だろ。
――飛ばない……
三十回くらい四苦八苦しながら、漸くコツが分かってきて、とりあえず飛ぶようになった。
スリングも試してみる。これは革でできた紐状の投石器だ。スリングの真ん中に石をセット、紐の端を二つ手に持って遠心力をつけ回転させ、勢いがついたら紐の片方を放す。十回でコツを掴んだ。
弓もスリングも敵に当てようと思ったらとんでもなく難しいな。戦闘で普通に使うのは俺には無理っぽい。
矢とスリングの石をストレージに仕込んだ。スリングは、ペプを支えるために、輪っかにして首から左手を吊るのにぴったりなのを発見した。これは嬉しい。
そのあと骨先生と木刀でスパーをした。
さて、今日はどうしよう。当面の目標の一つは強くなること。漠然と強くなるって言ってもな。敵を倒して経験値を積んだらそのうちレベルアップするものとは違う。あれか、スキル制ってやつか。戦闘と冒険に必要なスキルを一つ一つ覚えていけばいいのか。
でもなあ、今更、この歳で剣のトレーニングとかなあ。スパーリングは地道にやってるけど。魔法は使えないし。弓? 難しいしパーティの後衛じゃないし。あ、パーティ? お友達探すか。もしくは金で買うか。いやいや待て待て、その理論で行けば、金だけ出すから世界を滅亡から救ってよ、これでいいじゃん。俺がやらなくても。俺がやるのは金稼ぎか。決まった、俺は商人になる!
……それもなんか違う。俺には俺の特殊能力があるから、それを活かしてダンジョンを攻略するか。ダンジョン儲かりそうだし。とにかく試しに行ってみるか。
俺はダンジョンへ向かった。途中で冒険者ギルドへ入り、掲示板を見てみた。特に良さそうな依頼はない。
そんじゃ行ってみるか。ペプはハウスでお留守番だ。
洞窟の奥がダンジョンになっている。通路は人が二人横に並んで歩いていけるくらい広く、その幅で奥まで続いている。人為的に作られたものに違いない。魔族がこれを作ったという。
洞窟の入り口は壁に松明がかけてあった。モンスターに追いかけられて逃げてくる冒険者のために、出口に目印として置いてあるんだろうか。
俺はジメジメとした洞窟を松明をかざして進んでいく。一本道だ。緩やかに下っているようだ。
——キキキッ
大ネズミの鳴き声だ。大ネズミと言っても小型犬程度の大きさしかない。多分、元の世界の歌舞伎町のネズミの方が大きい。
俺はネズミに、ストレージに仕込んだスリングの石をぶつけた。あっけなく動かなくなる。剣でトドメをさしてストレージに。確かこの肉、売れるんだよな。市場で売ってるのを見たことある。病気とか寄生虫とか大丈夫だろうか? ストレージに入れたうえでヒール魔法の消毒をかけて、安全ネズミ肉としてブランド化しようか。
ネズミを四匹倒して進んだ。通路がだんだん広くなっていき、突然開けた。何もない大広間に、土が高く積もり山になっている。酷い臭いがする。ピンときた。テレビ番組で見た。この山はゴキブリの餌になる。そしてこの山を作ったのは、天井にびっしりとひしめきあってる大コウモリだ……。
戦慄した。この数はヤバい。先達の冒険者たちが踏み固めた道が、広間の壁に沿って続いている。その道を通っていけばいいのだろうが、襲われないだろうか? 襲われたらどうしようか……。
ヤバそうなのでそーっと通り抜けた。
先に進むと、さっきよりも細い通路が伸びていて、よりジメジメとしてきた。そして、ファンタジーの王道、スライムが現れた。水滴型ではなくゲル状だ。目玉はない。口もなさそうだ。緑色で透き通っている。
じわりじわり寄ってくるが、襲ってくる感じではない。これ、倒す必要あるのか? と思ったら上から落ちてきた。兜と鎧にべっちょりだ。俺は慌てて兜をとってスライムを地面に叩きつけた。
——ファイアボール!
焼いた。
ファイアボールはちょっともったいなかったか。火に弱いから松明の火で問題ない。しかし、頭を火で焼くような事態は避けたい。頭上に気をつけるか。スライムは、すぐに離したからか実害はなかった。ただ、ずっと首筋に張り付いてるような気がして不快だった。
それにしても暗い。もっと明るくしたい。魔法や魔道具でなんとかなりそうなもんだが。
スライム地帯を抜けると、沼があった。テニスコートの半面くらいの広さがある。真ん中に柱のように、沼から天井まで木が立っていて、それに付いている苔がぼーっと光っている。光合成がどうなっているか不明だ。おそらくマナを栄養源としているのだろう。これがダンジョンか。
地下の一室に沼がある光景は異様だ。俺は博識なので、もちろん地底湖などの存在も知っている。テレビで見た。しかしそれよりも、ガキの頃に初詣で行った実家の近所の神社の、階段を下った先にある池を思い出した。コンクリでできていて、池の真ん中に石の像があって、小銭が乗せられるようになっていた。あまりにも霊験が感じられない人工的な池だった。子供心にものすごい数の疑問符が頭に浮かんだのを覚えている。
沼は濁っている。深さを窺い知ることはできないが、中型犬ほどのナマズが泳いでいるところをみると、浅い沼ではこれほど大きくは育たないと思われることから、かなり深いのではないかと想像できる。
沼に近づいて中を見ようとすると、俺の豊富なフィクションの知識から、沼の中から俺に向かって何かが跳びかかってくるのは容易に想像できたというか知ってたというレベルなので、剣を真正面に水平に持っていたら、大カエルが刺さった。あれ? これはもしかしてハメ技パートツー?
カエルの肉は美味しいと言われてるので有りがたくストレージに入れた。体色が白をベースにした薄い緑色なので毒はないだろう。毒を持ったカエルは赤や黄色で毒々しい色をしているはずだ。この世界でも同じなら。
俺も一度だけカエル肉の唐揚げを食べたことがある。鶏肉に近いが鶏肉ではない。俺は先入観があって美味しさを感じなかったが、それがなければ充分に常食になりそうな気はしたのを覚えてる。
で、問題はこの沼をどう渡るかだが、ストレージから大木を出した。壁際に先達の冒険者の足跡があるにはあったのだが、途中から沼の中を歩いて行くらしいので、マナは大きく減るが、橋を作ってしまった。
出した大木は、一番最初に吸い込んで卒倒したやつ。今はそれを出してもマナの最大量の四分の一しか減らないので、やはりマナの限界を超えて使用するとマナの最大量が増える法則は証明された。元の世界の野菜星人の法則に似ている。
ナマズは、もしかして食べると美味しいかも、獲っていくか、と思ったが、俺の目的は飯じゃないと思い直した。金も目的だが、食材として売れるのかどうかも分からない。
沼の先にはまた通路があり、緩やかに左にカーブしながら下っていた。この先が地下二階だろうか? まあ、行くしかない。大オオカミが出るんだっけか。大オオカミってのも生態系を無視してるよな。
ずっと狭い通路が続いた。時々天井にスライムが貼り付いていたが、松明で焼いた。
しばらく歩くと大オオカミが出てきた。でかい。不自然にでかい。幅が洞窟の幅くらいある。背は俺より頭一つ高い。四足歩行なのにだ。通路を折り返せるのか微妙だ。帰りは後ずさりするのだろうか? 群れで出てきたらそれもできないだろう。一匹狼なんだろうか?
とりあえずブラインド。怯んだところにロックフォール。そしてメイスで滅多打ち。ストレージに吸い込んで完了。
チョロい……こんなんでいいんだろうか? 必死に戦わないと経験にならないのではないだろうか? 経験値制ならお得だが。なんか楽ちんに進めている。地下四階までこれで行けるんだよな。スパーリングの成果をまるで出せていない。本番で修行を積みたい。だけど、リスクは取りたくない。じゃあ、しょうがないか。
……俺は強くなれるのだろうか?




