ウルフ
目が覚めて、朝のルーチンをこなし、骨先生とスパーをして、シャワーを浴びた。
今日は地下神殿に行ってみる。地下二階を探検してみようと思う。
地下神殿は、前回と同じだった。インプとスケルトンが同じところにリポップしてた。無限リポップか。これはこれですげえな。どうやって補充されるんだろう? インプの死骸とスパー相手のスケルトンが取り放題だ。使い途がないが……。
そして地下二階に降りる。壁に埋め込まれている魔石をちょっとずつ拝借。
これ、なんとか換金できないかなあ。そして金で俺が強くならないかなあ。元の世界にあったソシャゲ、現物の金でキャラクターが強くなったり、ガチャで強い装備をゲットできたりすることに賛否があった。俺の基準は、金で時間が買えるならゴー、だ。時間が余っている学生とは違い、社会人には時間が貴重なのだ。無駄な時間を縮めてその分おもしろさを体験できるなら、運営に感謝しつつポチっとやってしまったほうがいい。
この世界で、金で強さが買えるなら買う。命がかかってるからな。ガチャがあればいくらでもやる。多分ないけど。
実際、強くなるために金を使うって、いい装備、いい武器、回復薬、魔法、マジックアイテム、傭兵、荷物持ち、とかかな。あ、とりあえず魔法屋に行ってみよう。そして他のことは地下神殿を出てからにしよう。今は戦闘に集中しなきゃ……。
地下二階は通路が延びていて、両側に向かい合わせに扉が三つずつ、計六部屋あり、突き当たりで左に曲がっているようだ。扉は鉄の棒を組み合わせてできている簡単なもので、部屋の中が見える。一部屋に一匹ずつモンスターがいるとしたら、挟み撃ちにされるよな。
俺は一番手前の部屋を覗いてみた。そこには、五体の骨の犬がいた。いやオオカミか? カチャカチャと足音を立てて、部屋の中をうろうろしている。
反対側の部屋を覗いてみた。そこには盾と剣を持ったスケルトンが立っていた。目が合った。目玉はないんだが、そんな気がしたし、実際襲いかかってきた。
ところがかんぬきがかかった扉が開けられないらしく、ガチャガチャとドアに体当たりを繰り返すが、それだけだ。音を聞きつけて反対側の部屋のスケルトンウルフも気がついた。しかし、同様に扉に体当たりを繰り返すだけだ。奥の四部屋からもガチャガチャと音がし始めた。
——うるさい……
しかし一向に襲ってこない。閉じ込められているんだろうか? 鍵はかかっていないが。
俺は扉越しに、スケルトンどもをストレージに吸い込んだ。奥の部屋も同じく、スケルトンとスケルトンウルフがいた。
部屋には特に何もないようなので、魔石を頂きながら先に進んだ。
通路の角を曲がると次の部屋が見えた。入り口に立っていたスケルトンが早足で迫ってきて襲いかかってきた。このスケルトンはいままでのものと何かが違う。ポールアームを持っている。ハルバードってやつだと思う。身体も大きいだ。
俺はポールアームの横薙ぎの一撃をバックラーで頭の上に受け流す。重い。二撃目の真上から降ってきた。速くて間合いが広い。難敵だ。とは思ったが、そのまま一歩踏み込んでストレージに吸い込んだ。チョロい。
次の部屋には地下三階に降りる階段があった。俺は慎重に降りていく。一歩降りるごとに温度が下がっていく気がする。降りた先に何かがいる……。
そこにいたのは、スケルトンだが、ぼろぼろのローブを着ていて、手に魔術師が持つような杖を持っている。足元は少し浮いているようで、全体的に透けている。白髪と長い髭がある。恐怖をそそるのはその目だ。髑髏の目の位置に、鈍く紫に光る何かがあり、それは間違いなく俺を見ている。そして一瞬大きく輝いた。
ボッ!
音を立ててファイアボールが飛んできた。ハメ技を試す! ファイアボールを吸い込むと同時に前にダッシュした。
——ディスアーム! からのストレージ!
杖を吸い込み、次にスケルトンごとストレージに入れようとしたが、入らなかった。生きてるってことか? まあ、これは予想してた。俺は首を狙って剣を振った。
――スカッ!
剣が通り抜けた。俺はバランスを崩してよろけた。そこにもう一発ファイアボールが飛んできた。ギリギリで吸い込む。胴体に剣を刺す、しかし通り抜けた。ダメージが与えられない。
——よし、逃げる。
三発目のファイアボールを吸い込んで、俺は回れ右をしてダッシュし、階段を駆け上がった。階段の上から追ってくるか確認した。追ってこない。よし。俺は一目散に逃げた。
怖いので、今まであけっぱだった地下神殿の扉を閉めた。小径をエリース村の方へ走った。万が一、追ってきていたら、村に迷惑をかけるかも知れないので、村に入る前にストレージハウスに入った。
ちびりそうなのでシャワールームでおまるに用を足す。そしてペプをぎゅっと抱きしめた。
「ペプ、怖かったー」
ペプは俺の腕の中でもがいて体勢を変え、俺の顎を舐め始めた。
「ペプ、魔法を使うスケルトンってリッチだよな。リッチがいたよ」
それにしても、他のスケルトンと違って、ストレージに吸い込めなかったな。生きてるのかな。いや、死んでるよな。骨だけだもん。魂があるってことなのかな? っていうか、剣で切れないってどういうこと? 困ったな。あ、幽鬼には魔法か魔力がこもった武器か銀製の武器しか通じないのか。俺の豊富なゲームの経験ではそうだ。
スケルトンウルフを十五匹ゲットした。犬なのか狼なのかわからないけど。ドッグよりウルフの方がかっこいいからそう呼ぼう。しかし、これどうしよう。街に放って嫌がらせとか。犯罪だよな。死刑になる。
どさくさで魔術師の杖をゲットしてきたな。なんか特別な効果があるんだろうか?
魔術師の杖は、百六十センチくらいの長さがある。白い木製で杖底と杖の先は飾りの付いた金属で覆われている。杖の先には宝石が埋め込まれている。なんかの魔法の杖だよなあ。しかし使い方が分からない。試してみるのも怖い。
これはあれだ、一昨日、気まずくなって入れなかった魔法屋に行くか。
ヨーギに着いたのは夕方だった。そういえば、地下神殿から走って逃げたのに、膝が痛くない。ヒールが効いているんだろうか。まあ、それはおいおいわかるだろう。
魔法屋の店内は、入り口を入るとすぐカウンターになっていて、物がごちゃごちゃと置かれ、窮屈な印象を受けた。店主は二十歳前後の女性だが、ボサボサの長い髪と魔術師ハットのせいで少し年上に見える。
「すまない、こういう店は初めてなんだ。いろいろ教えて欲しい」
若い女性がいるお店ではこれを最初に言った方がいい。システムとか教えてくれる。
「何が知りたいですか?」
「魔石の買取をしてもらえるか?」
俺は小さめの魔石を二つ見せた。
「すごーい。これなら一個、金貨十枚で買い取ります」
「ではそれで頼む。ちなみに、何個まで買い取ってくれる?」
「今日はこれだけしか無理です。先に言っておいてもらえれば一回に金貨二十枚まで買い取ります」
大きい魔石は売れないが、小さいのは買い取ってくれるようだ。ちょくちょく来るか。
「お客さんはそんなに魔石を持ってるんですか?」
「いい狩場を見つけたんでね」
やっぱ怪しまれるのかな……いいダンジョンって言おうとしたんだけど、ダンジョン見つけたら王様かなんかに報告義務がありそうだ。国家権力やばそう……。
「そこでこの杖を入手したんだが、なんの杖かわかるか?」
「えー、わかんないです」
わかんないのか……。
「使い方はわかるかな?」
「一般的にはスイッチかあるか、意志で発動します。マナを込めるものもあります。何が出るかは杖によって違います」
詠唱は要らないのか。それにしてもこの子、棒読み調でしゃべるんだな。
杖には魔石か宝石が付いているタイプがあるらしい。魔石は永久にマナを供給できる、その代わり石の大きさに見合った魔法しか発動できない。宝石が付いているタイプのものは、使用回数が決まっている代わりにマナを多く消費する魔法を使うことができる。高位の魔術師なら使用回数を回復できるらしい。
「魔石のタイプでしたら使ってみるのが一番早いんですけど。王都に行けば鑑定師がいますよ」
「なるほど。ポーションも入手したんだが、中身が何かわかるか?」
「たいていのものは色で区別が付きます」
赤は回復ポーション、緑が毒とのこと。知ってた。しかしレアなものになると必ずしもそうではないらしい。
「スクロールについて教えて欲しい。どうやって使うのかな? 詠唱ができなくても使えるんだよな?」
「はい、スクロールは魔法を知らなくても使うことができます。魔力で発動するタイプと呪文の名前を唱えて発動するタイプがあります」
「なるほど。どんなスクロールがおいてある?」
「殺傷能力が高いものは軍がほとんど抑えててありません。たまに掘り出し物が出ます。今あるのはアイスだけですね」
アイスのスクロールは、食品、主に魚を冷凍して運ぶために使うので、それなりの量が流通しているらしい。値段はは銀貨四枚。結構高い。
「それをくれないか?それと、他に掘り出し物はないか? 武器やアクセサリーとか」
「そういったものは王都にしかないですねー」
三年前にダンジョンができたおかげで魔法屋も賑わいはじめた。しかし、回復薬の販売が主で、ダンジョンで取れたアイテムはギルドが買い取るし、高価な物は王都で鑑定してオークションにかけるのが一番高く売れるので、ヨーギの魔法屋にはダンジョン産のものは少ないとのこと。
「回復薬や回復アイテムはすぐ売れるんですけどねー」
なんでもかんでも王都、王都か。都会派の俺としては気になるところだ。
あとは魔法の入門書を買った。金貨一枚と高額だった。紙が高いんだろう。魔法は使えないが知識と暇つぶしだ。
また来ると言って店を出た。




