ギルド
朝飯のあと、ペプを抱いて街へ出た。
街の西側、冒険者ギルドってやつに向かう。
途中、市場で食料を買った。生魚とフルーツを多めに買う。あと肉串など、鞄に入れる振りをして出来たてのままストレージへ。この肉もダンジョン由来のものなのだろうか? 聞くタイミングを逃した。コミュ障発動。
ギルドホールは、思ったよりきれいで広かった。入り口すぐの右側の壁に掲示板と伝言板があり、その先にカウンターがある。左手はホールになっていて、壁際にテーブルがあり、真ん中には冒険者がいつ喧嘩しても大丈夫な広さがある。あとで聞いたところによると、そのためにわざと広く作られているんだとか。
掲示板を見ると、仕事の依頼が貼りだされている。俺が殲滅した盗賊の討伐依頼も出ているようだ。ようだ、ってのは、字が読めないからだ。なんとなくは分かる。英語は読める俺が全く知らないフランス語の文章を読むような感じだ。依頼に簡単な地図が書かれているので理解の手助けとなるが、字は読めない。これは困った。
召喚者の捜索依頼や指名手配的なものは無いようだが定かではない。
盗賊の討伐の報酬は金貨二枚のようだ。高いのか安いのかよく分からない。命を賭ける値段にしては安いような。でもあいつら頭弱かったしな。名乗り出ると目立ってしまうのでそのままにしておく。討伐の証明である盗賊の死体は俺のストレージの中に入っているが……。
他には、盗賊の根城の更に先の方にゴブリンが出没してるらしい。ゴブリンのイラストが描いてある。耳一つで銀貨五枚らしい。これも安くないか……? 熟練者になれば低リスクで狩れるのだろうか?
港町までの護衛任務ってのは無いのかな。近すぎるのかな? あるけど字が読めなくて分からないのかも。馬車にタダ乗りしてお給金まで貰っちゃおうと思ったんだが。っていうか、俺って護衛できんのか? 秘密の必殺技はあるけど、それがなければ戦闘技能が無い。ストレージがなければ、ただの猫好きな人だ。
まあいい、今は依頼よりも情報収集だ。俺はカウンターへ向かった。漫画やアニメでは、冒険者ギルドの受付は、可愛くて巨乳でアホっぽいけどいろいろ知ってる亜人のおねーちゃんが定番だが、現実は違った。仕事ができそうな至って普通の女性だ。
「すまない、この国に来たばかりで何も分からないので、いろいろ教えてほしい」
「かしこまりました。どのようなことでしょうか?」
「ダンジョンとはどういうものかな?」
「この街にあるダンジョンは一般的な地下迷宮型です。洞窟をベースにしたもので、現段階は地下五階まで攻略されています。地下一階は他のダンジョンと同じく大ネズミ、大コウモリ、大カエル、スライムなどが出現します。地下二階三階は主に大オオカミが強敵です。地下四階から難敵のジャイアントが出現します」
ジャイアントか。俺には倒せないだろう。俺の必殺技、ロックフォールの有効範囲は一メートル程度。俺が手を上に伸ばして約二メートルとして、敵が三メートルを超えると効かない。それより背が低いとしても、密着する必要があるとリスクが増す。そもそも石を落としただけで仕留められるかどうか疑問だ。もっと大きい石を仕込んでおくか。っていうか、いきなり攻略前提で考えてる。そんなことしなくていいんだが。
疑問に思ったことを質問した。ダンジョンってやつと、地下神殿などの遺跡の違い。ダンジョンは魔族もしくは魔王が、洞窟や遺跡などをベースに迷宮化し、運営してるもの、または過去に運営してて手放したもの、とのこと。目的は分かっていないが、ダンジョンにはマナが充満していて、それをエネルギー源とした生態系無視のモンスターが生息している。とは言ってもモンスター間で縄張り争いがあり、階層によって棲み分けがある。
ダンジョンでは、モンスターの死骸から採取できる素材に価値があり、例えば魔獣系の毛皮などが換金性が高く、そしてそれよりも、おそらくマナがなんらかの作用をもたらして生み出されるマジックアイテムが、一攫千金をねらう冒険者を惹きつける。
ダンジョンの奥では、魔石と呼ばれる永久にマナを供給し続ける石を入手できる場合がある。ダンジョン生成の目的は魔石のため、という説が有力だが、その生成プロセスも、魔石が放置されていて冒険者に奪われてしまう理由も分かっていない。
ダンジョンが魔族が作ったものであるのに対し、遺跡や洞窟などは、魔族以外のモンスターが住み着き、魔物の巣窟と化したもの。むしろ空いてれば何かしら棲みつくという。強力なモンスターが住み着き、その瘴気に惹かれて他のモンスターが居着く事が多いんだそうだ。人間が住処とする場合もあるが、モンスターがやってきて殺されたり追い出されたりするらしい。まれに遺跡に存在していた宝物や封印されたなにかしらのアイテムなどが手つかずで残っている場合があり、発見できれば一生遊んで暮らせる金が手に入るが、手つかずなのは相応の理由があり、リスクが高すぎるとのこと。
質問しすぎてそろそろ鬱陶しいって顔をされてるので、猫を使う。
「重くなってきたので猫を置いていいかな?」
カウンターにペプを寝かせてオレが撫で始めたら、おねーちゃんも撫で始めた。
この街のダンジョンは三年前に発見された。それまでこの街の付近にはダンジョンが無く、閑散とした田舎の宿場町だったが、急に人が増え栄え始めた。街に近いこともあり、ダンジョンのすぐ近くに冒険者ギルドを建てた。しかしながら手練れの冒険者達は、元からあった王都のダンジョンに集中しており、この街のダンジョンには初心者から中級者が多いのだという。
この街の他に、この王国には王都の北に何カ所かある。十年前に最初に発見され、そのあと続々と見つかったという。時期を同じくして地上の魔物が活性化した。魔王が現れたためではないかと噂されるが、未確認。
他の国にもダンジョンはある。ある国には100年以上前に発見されたダンジョンがあるという。おそらく魔族は既にいなくなっていると考えられているが、モンスターが強力なため攻略に至っていないとのこと。
いろいろ聞いて頭がいっぱいになったので、この辺にしておく。ダンジョンはともかく、依頼は受けることがありそうなので、ギルドに冒険者として登録してもらう。名前と特徴を記録する簡単なお仕事だ。猫が好きとか書かれるのだろうか。
街を歩いた。この街には本屋がないが、雑貨屋に本があるのが見えた。行ってみると文字の読み書きの本があったので買った。本というか、紙二十枚を束ねただけのものだが。会話はできるんだから字はすぐに覚えられるはずだ。と思ったが、元の世界に、外国人の人が母国語と英語は完璧、日本語の会話はビジネスレベルだが、読み書きが全くできないって人がいた。漢字が難しいらしい。俺は外国語については、会話よりも読み書きに重点を置いた日本の英語教育しか受けていないので、話せるけど読み書きできないってのが新鮮だった。しかし今、俺がその状態だ。不安だけどやってみるしかない。
本、というか羊皮紙の束は銀貨十枚だった。高い。どうせ著作権とか無いだろうから、写本を作って売るといい収入になりそうだが、想像するに紙が高いんじゃないだろうか。あとは作っても売れなきゃしょうがない。識字率はどのくらいなんだろ? まあ、写本業をする気はないけど。もしくは魔法で複製できたら……。
次に家具屋に寄った。家具は誰が作っているのかと聞くと、主にエリース村の職人だという。エリース村は、この街の北西の方、道なりにいくと着くとのこと。地下神殿の近くだ。行ってみようかな。
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