第17話「知らない子」
部屋の中は、静かだった。
知らない場所。
知らない匂い。
知らない空気。
(……ここか)
昨日言われた言葉を思い出す。
“ここが、お前の場所だ”
まだ、よく分からない。
でも——
(……いる)
もう、ここにいる。
◆
朝。
目が覚める。
少しだけぼんやりする。
天井が違う。
音も違う。
(……ああ)
思い出す。
村じゃない。
ここは、管理局。
◆
体を起こす。
少しだけ重い。
でも、動く。
部屋の外から、足音がする。
誰かが通る。
止まらない。
規則的な動き。
(……いそがしそうだな)
◆
扉が、軽く叩かれる。
「起きてるか」
短い声。
昨日の調査員。
「……おきてる」
少しだけ間があった。
でも、答える。
「入るぞ」
扉が開く。
◆
「来い」
それだけ言う。
説明はない。
でも、分かる。
ついていく。
◆
廊下を歩く。
昨日より、人が多い。
でも、ぶつからない。
流れができている。
(……すごいな)
自然とそう思う。
◆
階段を降りる。
少し広い場所に出る。
机が並んでいる。
人もいる。
でも——
その中に、少し違う空気があった。
(……ちがう)
年が近い。
背が低い。
声も、高い。
子供だ。
◆
「ここだ」
調査員が止まる。
そのまま、軽く顎で示す。
視線を向ける。
◆
一人の子がいた。
机の上に、何かを並べている。
紙。
小さな道具。
集中している。
こちらに気づいていない。
(……おとなしいな)
ルナとは違う。
静か。
落ち着いている。
◆
「おい」
調査員が声をかける。
その子が、顔を上げる。
目が合う。
一瞬だけ、止まる。
◆
「新入りだ」
それだけ言う。
短い紹介。
それで終わり。
◆
「……あ」
小さな声。
その子が、少しだけ目を見開く。
それから、立ち上がる。
「えっと……」
少しだけ迷ってから——
「はじめまして」
ちゃんと言った。
丁寧に。
◆
(……ちゃんとしてるな)
自然とそう思う。
ルナとは、全然違う。
◆
「……エリシア」
名前を言う。
短く。
それだけ。
◆
「……うん」
その子が頷く。
少しだけ、安心したように。
「私は、ミレア」
名前が返ってくる。
◆
少しの間。
何も言わない時間。
でも、嫌じゃない。
静かに、流れる。
◆
「ここにいる子は少ない」
調査員が言う。
「同年代は、ほとんどいない」
(……そうなのか)
だから、この子だけ。
そういうことらしい。
◆
「ミレアが案内する」
それだけ言って、調査員は離れる。
止める間もない。
すぐに、いなくなる。
(……はやいな)
◆
残された。
二人。
◆
「……あの」
ミレアが、少しだけ迷う。
「ついてきて」
それだけ言う。
声は小さい。
でも、ちゃんとしている。
「……うん」
短く答える。
◆
歩き出す。
少しだけ距離がある。
近すぎない。
離れすぎない。
(……ちょうどいいな)
ふと、思う。
◆
「……ここ、ね」
部屋を指さす。
「ごはんとか、あっち」
簡単な説明。
言葉は少ない。
でも、分かる。
◆
「……ありがとう」
少しだけ言う。
前より、自然に出る。
◆
ミレアが、少しだけ驚く。
でも、すぐに——
「うん」
小さく笑った。
◆
(……わるくないな)
そう思う。
静か。
落ち着いている。
でも、冷たいわけじゃない。
◆
歩きながら、少しだけ周りを見る。
知らない場所。
知らない人。
知らないこと。
まだ、たくさんある。
でも——
(……ひとりじゃない)
小さく思う。
ルナとは違う。
でも、ここにも誰かいる。
それだけで、少し違う。
◆
足を止める。
前を見る。
新しい場所。
新しい関係。
まだ、何も始まっていない。
でも——
(……これからか)
そう思った。




