第12話 私はヒエラルキー苦手です。
狐崎は何かを考えながら茶をすすると、申し訳ないと言う顔をした。
「そんな憧れの会社やったなら、僕が横やり入れんほうが良かったかもしれへんね。
紫狼は少し前に大映光新聞系列の広告代理店<庵黒堂>の社長に就任したとこなんや」
「庵黒堂!? 知ってます! あそこは営業会社でほとんど外注だと聞いています。だからデザイナーは採用しないと思っていました。私も前の会社は下請けで、元元元請けくらいが庵黒堂の仕事を手伝った事、ありますよ!」
「そうかあ。やっぱり失敗やったかな。憧れの会社に入れたかもしれんのに。ホンマにごめんなぁ」
「いえ、そんな! あの場では入れると決まっていたわけでは無くて。どうやら栗栖くんの話を聞いて、私に興味が出たと言っていらっしゃいましたね」
うーん?と狐崎は眉間にしわを寄せる。
「紫狼が人間に興味を示すなんて、珍しい話なんですけどね? 僕が気に入ってるからかな?」
「ありがとうございます! けれど、狐崎さんが私を気に入ることと、オファー前に逢いにくることと、何の関係があるんでしょう?」
私は二人の関係────なんとなく察しはつくけれど────を全く知らない。
しかも、そんなにいがみ合ってるのに弟の栗栖六狼は狐崎にとても懐いているように見える。
とにかく複雑そうな事情は、後々のことを考えると聞いておいた方が良いと思う。
「そうやね。僕と紫狼は同じ年齢で同じ神さんの下で修業したこともあって、よう比べられたんですわ。
特に紫狼は、妖狼一族のエリート家系・栗栖家の四男やから。家督は継げへんけど、仕事を支えるためもあってかなり頑張ってたん。ああ見えて、かなりの努力家さんなんや。
僕は元からお狐やし、神さんの下で働くのは生まれた時から決まってて」
きょとんとする私の顔を見て、狐崎は「ああ!」と両手を打った。
妖狐のことが分からない私に分かるように、まずは妖狐の話をしてくれる。
「神さんは血統でお守りするんや。妖狐は、生まれた時から神の眷属なん。僕の母親が力のある白狐やったこともあって、僕は生まれつき妖力が高いんや。
紫狼は、妖狼で……長く続く由緒ある血統の一族やけど、狐じゃない。直接神さんの下で働くことはできん血統なんや。勿論すごい優秀なんやで?」
「はあ……私はフラットな関係が好きなのでヒエラルキーの感じはちょっと苦手なんですけど……。ピラミッドにしたらどんな感じですか?」
私は持っていた手帳をちぎってピラミッドを書くと、いくつか線を引いて一番上の頂点に「神」と書き込んだ。
それをのぞき込んだ狐崎が、これは分かりやすい図やね!と感心しながら教えてくれる。
頂点を神とする場合、狐はその下。その下が妖狼となるようだ。
細かく分けると更に狐や狼カテゴリの中でもヒエラルキーが存在するようなのだが、詳しいことを聞き始めると日が暮れてしまいそうなので、まずはざっくりと話を聞くことにする。
おおまかにまとめると、元々力の強い狐崎を紫狼が嫉妬の対象にしている、という事らしい。
あまりにも突っかかられるので、自分の力をしっかり持っているのに自分に執拗に固執してくる紫狼のを見ると「何かイライラしてしまう」のだそうだ。
幼馴染で、お互い認めているのに素直になれないパターンのやつじゃないですか?
「僕も紫狼の事になると、なんかムキになってしまうんよね。幼馴染やから余計にね。栗栖くんはあんなに素直でかわいらしいのに。同じ兄弟とは思われへん」
返事に困って「あはは」と愛想笑いをした私は、ふとテーブルに設置されたメニューに目が行った。
「あ! これ!!! 使ってくださってありがとうございます。お客様の反応はどうですか?」
「ホンマにありがとう! メニュー表、凄い好評ですよ。五日様子を見て結果を伝えようと思っとったんですけど、五日もいらんかった。しかも、他にも板狩ちゃんにデザインして欲しいって依頼も貰ってますよ。
もういっそ、紫狼のところに渡すくらいなら、うちの子にしてしまいたいわ」
「えっ!? それって……!!?」
「リーフ亭で採用したいって思ってしまうってことなんやけど」
「うそ!!! 凄く嬉しいです!」
喜ぶ私の顔を見て、狐崎は顔を左右に振るときっぱりこう言った。
「流されたらアカンよ。板狩ちゃんの願いはリーフ亭じゃ叶えてあげられん。
板狩の望みは、もっと腕を磨いて色んな事を経験したい。指導を受けたいってことやろ?
リーフ亭に居ったら経験は出来る。けど指導はしてあげられへん」
確かに、私はまだ駆け出しで社会経験も二年ちょっとだけ。フリーランスで働くには自分の底はまだまだ浅い。
前の会社でも、ようやくちょっとだけ自分一人でプロジェクトを回せるようになったばかりだった。
もう少し色んな世界を知って、技術を身に付けたいと思っている。
さすが神様の眷属、私の奥底の気持ちはお見通しというわけだ。でも、ちょっとリーフ亭で働くのも悪くないと思っている私も居る。




