第二百二十六話 狼少女笑
正直、お腹がはちきれそうだった。
(こんな暴飲暴食にも耐えられる胃袋も、若さの特権だなぁ)
転生前の俺がこんな無理な食べ方をしていたら、即座に胃酸が逆流して胸焼けしてただろうし、後から襲いかかる腹痛にうめいていたことだろう。若いおかげでラーメンだってたくさん食べられるのは、転生してから特に嬉しい点だったりする。
……こんなくだらないことを転生のメリットにあげるのは、他の転生系作品に失礼な気もするが。
もっと俺も、転生前の知識とかを使って無双した方がいいのだろうか。いやでも、営業職の知識で現実世界を無双するなんて厳しい気がする。大人なら分かると思うが、高校生のテストって普通に難しいので、むしろ俺より普通のクラスメイトの方が成績も良い。実は授業についていくのがやっとだ。大人になったら仕事関係以外の勉強なんてしないからな。
意外と、転生したところで凡人は凡人だ。
周囲の同級生と比較して優れているところといえば……まぁ、感情をちゃんと制御できることになるかな。
そのおかげで今も、冷静な表情を維持できている。
「湾内さん……悪事を他人に押し付けるのは良くないぞ。自分の行動の責任は、自分で果たすべきだ」
「誰が言ってんのよ!!」
たしかに。今の俺の発言は、全てそのままそっくり自分に返ってくる。
だが、当然俺は自分のことは棚上げにしていた。
今に限定すると、湾内さんの言葉は間違っていない。
ただ、俺があまりにも平然としているので、嘘をついているように見えないのだろう。
「美鈴……また嘘をついたのか?」
俺に対して否定的な真田ですら、湾内さんの言葉を信じていないみたいだ。
それなら、俺を疑ったことに一言謝罪がほしいところだが、まぁ俺は大人なので許してやろう。本当は盗み聞きしているので、その疑いが正しかったのはさておき。
「才賀! し、信じてよっ。本当にこの童貞野郎も一緒にいたから!!」
湾内さんは必死だ。真田の足元にすがりつきながら、俺を指さして必死に共犯であることを訴えている。
『あたしだけが損するなんて許さない!』
と、いう意思をひしひしと感じた。死なば諸共、という覚悟なのだろう。
ただ、俺は生きる。
死ぬのは君だけだ!
「おいおい。もし俺が一緒に行っていたなら、こんなに弁当が減っているなんておかしくないか? そういうのはやめてくれ。こっちは仲間外れにされたストレスで、ついつい最上さんの分まで食べちゃうくらいだったんだぞ?」
「ちがっ……さ、佐藤くん! 仲間外れなんて、してなくてっ。あの、えっと、うぅ……な、なんでもするから、許してくだしゃいっ」
いや。最上さんが動揺する必要はないんだが。俺の『ストレス』というワードで狼狽えたらしい。メンタルがよわよわでかわいかった。これを口実に脅迫すればなんでもしてくれそうである。
後でなんでもしてやろうと思いつつ、今は湾内さんに追撃を仕掛けることを優先させてもらおう。
「真田よ。飼い犬の躾くらいちゃんとしてくれ。ダメな時はダメということが大切なんだぞ」
「……ちっ。うるせぇな、分かってるよ。ほら美鈴、謝れ」
不服そうに、ではあるが。
あの真田が、俺の言うことを理解していた。
それくらい、この状況で湾内さんは信じられていないのである。
「えー!?」
そのことに彼女も驚いていた。
まぁ、それも仕方ないだろう。
(普段から嘘ばっかりついてるからなぁ……狼少女になっちゃっていたか)
いくら本当のことを言っても、誰も信じてくれない。
彼女が心から敬愛している真田にすら、湾内さんは疑われていた。
「お、覚えてなさいよ……佐藤。あたしだけを不幸にするなんて、絶対に許さない。ふ、不幸になる時は、あんたも巻き添えなんだからね!?」
おい。嬉しくないツンデレはやめろ。俺を道連れにするな。
「分かったわよ。謝ればいいんでしょ? はい、土下座! これでいい? それとも体で償えってこと? 上等よ、この貧相な体でひーひー言わせてやるからね!!」
「体で償えなんて言ってないから安心してくれ。土下座だけで十分だ」
「そもそも土下座する必要もないんだけどっ」
うんうん。湾内さんが珍しく正しいが、素知らぬふりをしておいた。
そんなこんなで、どうにか真田に盗み聞きしていたことをバレずにすんだ。
これは正直、かなりのアドバンテージである。
俺が一方的に情報を持っている、ということだ。このおかげで、今後は少しだけ動きやすくなりそうである――。
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