92 葛藤
「アニマは敵……」
「ちっ、やっぱり解りあえねぇのか?」
「全員、彼女から目を離すな!」
「サラさん、やめて!」
レンの指示に、アニマたちはサラを睨みつける。
ハルは慌てるばかりで、必死にサラに呼びかけた。
だが、サラはライフル銃を向けたままである。
「おいおい、まさかここで撃つんじゃないだろうね」
薫は苦笑し、ハルたちとサラを交互に見つめた。
すると、俯いていたサラの口が、重く開いた。
「違う……」
小さく呟かれて出たのは、否定の言葉だった。
不思議に思ったハルは、首を傾げる。
「サラさん?」
「アニマは、敵じゃない……協力するべき相手……」
サラは言葉をつづけ、体を震わせる。
「アニマは敵、倒すべき相手。違う、彼らは人間に害をなす者ではない……」
「一体、どうなっているの?」
「彼女は今、葛藤しているんだよ」
サラの様子に、ハルは戸惑っていた。
そのハルの肩を叩き、薫はサラから目を離さずにいた。
やがて、震えが止まり、サラは目線を上げた。
「ハルさんたちと交流して、彼女の中で、なにかが変化したみたいだね」
「変化、ですか?」
頷いていた薫を見つめ、ハルはまた首を傾げた。
「彼らと、争う必要はない」
そこまで言うと、サラはライフル銃を下ろした。
機械音が響き、普通の両手に切り替える。
そして、深々と頭を下げた。
「……大変失礼いたしました」
「本当に、あの時のサラさんなの?」
「えぇ、アニマは敵でないことを、私は知りました」
「よしっ、プログラムの移行は成功した!」
喜びの声を上げたのは、薫だった。
そしてハルに近づき、優しく肩に手を置いた。
「しかし、驚いたな。あの事故でも、彼女のメモリーは破損しなかったんだから」
「はい。あっ、でも……」
薫の言葉に、ハルは喜んだ。
しかし、あることが頭をよぎる。
「製作者の柊さんが、命令でもしたら……」
「それは、ご安心ください」
「えっ?」
驚くハルを見つめ、サラはぎこちなく微笑む。
「他からのアクセスは、受信しないようにしていますので」
「それなら、暴走の心配はないね」
「また、俺たちを攻撃されたら、たまったもんじゃねぇよ」
「その心配は、無駄だと思いますが」
「でも、よかったぁー」
安心したハルは、体の力が抜けた。
そして、力なく床に座りこむ。
すると、手を叩いた薫が、笑顔でハルを見つめる。
「そんなわけで、ハルさん」
「はい?」
突然呼ばれ、ハルは声が裏返った。
だが、薫の次の言葉で、その表情は驚きに変わる。
「彼女を、君の家に連れていってほしいんだ」
「えーっ!?」
「待て、薫。それはさすがに、無理があるんじゃないか?」
「そうですよ!」
珍しくレンは、焦っていた。
ハルも、ニュースを思いだし慌て始める。
「製造されたアンドロイドは、すべて処分するって言ってましたよね!」
「その場合見つかれば、ハルが捕まるんじゃないのか?」
レンの言葉に、マサたちの視線は薫に集まった。
「それについては、大丈夫だろう」
だが、薫は笑い、サラを指さした。
「見た目も違うし、一緒の方が都合がいいと思うんだが」
「いや、私だって、一緒にいられたらうれしいですけど……」
「それなら、問題ないだろう?」
「いえ、問題はございます」
ハルが悩んでいると、サラは淡々と話し、マサたちを見つめる。
「アニマの方々は、どうなのでしょう」
サラに見つめられ、アニマたちは顔を見合わせた。
「まぁ、最初は戦っていたが……」
「お嬢がいいなら、俺たちは構わない」
「私も、賛成です!」
「ハル、君はどうしたいんだい?」
「私は……」
レンに問われ、ハルは言葉に詰まってしまう。
しばらくして、ハルが口を開いた。
「私は、皆とサラさんが仲良くなったら、とてもうれしい」
「ハル……」
「いろいろあったけど、これからは仲間として一緒にいたい、です」
言い終わると、ハルの顔がどんどん赤くなっていく。
すると、サラがハルの手を、そっと握った。
「もし、許してもらえるのであれば、おそばにいることを、ご許可ください」
「そんなの、最初からしていますよ!」
ハルもサラの手を握り、強く言い切った。
そのことに、サラは微笑んだ。
「これからよろしくお願いします、マスター」
「マスターって、私のこと?」
聞きなれない言葉に、ハルは数回瞬きをした。
サラは頷き、マサたちを指さす。
「彼らの契約者なら、私の契約者でもあります」
「そっ、そういうものなの?」
「そういうものなのです」
「また、厄介な奴が増えたな」
「娘は、なんでも受け入れ過ぎではないか?」
「それが、ハルさんのいいところですよ、神の遣い様」
「確かにな」
そして、マサたちはハルに駆け寄った。
だが、あかりだけは近づけずにいた。
アキナはそれに気づき、そっと近づく。
「あかりさん、あなたは行かないの?」
「いや、どんな顔をしていけばいいのか、わからないんだ」
「そんなの、『よかったね』でいいんじゃない?」
「そっ、そうなのか?」
戸惑うあかりに、アキナは微笑んだ。
「大丈夫、少しずつで構わないから」
「あぁ、ありがとう!」
あかりは頷き、ハルたちの元に歩いていった。
談笑するハルたちを見つめ、薫とアキナは微笑んだ。
「いやぁ、よかったねハルさん。また家族が増えたじゃないか」
「はい!」
ハルは、満面の笑みで頷いた。
だが、彼女はまだ知らなかった。
もうすぐ、究極の選択を迫られるということを……
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
この話で、「第5.5章 小休止編(2)」は完結となり、
あわせて第2部も、完結となりました。
応援してくださった方々、
ご感想を書いてくださった方々、
本当に、ありがとうございました!
第3部は、ただいまプロットを作成中ですので、
これからもアニマたちの物語を、よろしくお願いします!




