09 届かない願い
「ユミちゃんたちは二階の部屋を使ってね」
「はーい」
家に帰ったハルたちは、買ってきた物の片づけをしていた。
ふとハルは、カバンの中を漁り始める。
「ハル、なにしているんだ?」
「今日もらってきたキーホルダーを、つけようと思ってね」
しかし、いくら探してもキーホルダーは出てこなかった。
「あれ? 確かこの中に入れておいたはずなのに……」
「そんな探し方じゃ、見つからないだろ」
するとマサは、ハルからカバンを取り上げ、坂さまにして入っている物をばらまいた。
「ぎゃぁーっ! なにしているの、マサ!」
「こうした方が探しやすいだろ」
「マサ殿、強引でござる……」
「どうしたんですか? すごい悲鳴が聞こえてきたんですけど」
ハルの悲鳴を聞きつけて、ユミたちが降りてくる。
「ちょっと聞いてよ! マサったら、探しやすいからって私の持ち物ばらまいたんだよ」
「あらら……」
「あんたがキーホルダーが無いって言うからだろ」
「キーホルダー?」
「店でもらった猫のキーホルダーが、見つからないんだよぉー……」
俯いたハルは、からっぽのカバンを見て驚く。
「うそっ、なんか穴が開いてる!」
そこには、五百円玉くらいの穴が開いていた。
「もしかして、ここから落としたのかな……」
カバンを持ったハルは、がっくりとうなだれる。
「けっこう気に入っていたのに……」
そんなハルを見たユミは、決意した表情で頷く。
「もしかしたら、さっきの公園で落としたのかもしれませんね」
「そうかな……」
ユミはハルに近づき、手を握った。
「大丈夫です、ハルさん。私が探してきますから」
「えっ、でもそろそろ暗くなるよ」
「平気です。まだ夕方ですし」
「でも……」
「心配しないでください。ハルさんたちは、買ってきた物の整理をお願いします」
「わ、わかった……」
頷くハルに、ユミは微笑み手を離す。
「ユミ一人じゃ心配だから、俺も行くよ」
「高木さん、ありがとうございます」
そして、二人は出かけていった。
「大丈夫かな……私たちも行った方がよかったかも……」
「それよりハルは、この中からキーホルダーを探す方が先だろ」
「うっ……」
ばらまかれた荷物を見て、ハルは顔を引きつらせた。
★★★
公園に着いたユミは、ベンチの下や、草むらを探していた。
「ユミ、そろそろ日が暮れるし、また明日でも皆で探しにこないか?」
「いいえ、もう少し探します」
「でも、暗くなれば視野もせまくなるだろ」
「それまでには見つけだします」
「どうして、そこまでするんだい?」
「ハルさんは、追われている私たちを助けてくれた」
高木の問いに、ユミは探しながら答えた。
「だから、ハルさんが困っていたら、力になりたいんです」
「そっか……」
「くだらないねぇ」
二人が公園の入り口を見ると、首に白い蛇を巻いた男が立っていた。
「賞金かけといたが、別行動してくれて助かったぜ」
男はゆっくりと二人に近づいてくる。
「あんたたちのピンチに駆けつけないなら、なんの助けにもならないな」
「あなた、研究所に所属しているアニマですか?」
「そんなの、どうだっていいだろ」
すると男は、口角を上げて己を指さす。
「俺の名はネイ。蛇のアニマさ」
そしてネイは、手から毒液を出し、ユミたちに向かって放つ。
「くっ!」
なんとかユミは避け、風の刃を放った。
「かまいたち!」
「おっと、やるねぇ」
ネイは軽々と避け、ユミに一撃を食らわせる。
「かはっ」
その衝撃で、ポケットからキーホルダーが落ちていく。
「あっ、キーホルダーが!」
落ちていくキーホルダーに手を伸ばしたユミの手に、蛇が巻きつき噛みついた。
「痛っ!」
噛みつかれたユミは、その場に倒れてしまう。
「ユミ!」
「たっ……高木さん……逃げて……」
「君を置いていけるわけないだろ!」
高木がユミに近づこうとすると、黒服でサングラスの男性たちに押さえつけられる。
「なっ、なにするんだ、離せ!」
「大人しくついてきてもらうぜ。おい、さっさと連れてこい」
ネイに言われて、男たちはユミたちを抱え、車に乗りこんでいく。
「助けて……ハルさん……」
「残念だったな。助けは来ないぜ」
車が去った後、空は曇り雨が降ってくる。
そして、ユミから落ちたひびの入ったキーホルダーを、静かに濡らしていった。
★★★
「あっ、あった!」
探していたハルは、喜びの声を上げた。
「どこにあったんだ?」
「カバンの奥底に引っかかっていたよー」
「なら、早くユミ殿たちに伝えないと」
「そうだね。あっ!」
ハルは携帯を取り出したが、あることに気づき固まった。
「ハル、今度はどうした」
「私……二人の番号知らない……」
「なーにぃ!」
ハルの言葉に、マサは呆れと怒りが混ざった表情をする。
「ご、ごめん! でも、全然戻ってこないね……」
「なにかあったのでござろうか」
「ちょっと探しに行ってみようよ」
「待て、夜に動くのは危ない。朝になってから、行動しよう」
マサの提案に、ユキは強く頷いた。
しかし、ハルは、キーホルダーを握り俯く。
「ユミちゃん……きっと無事だよね……」
なんともいえない不安に、ハルは強くキーホルダーを握りしめた。




